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ショートショート4月~

仮面

作者: たかさば

午後の、少し落ち着いた時間帯。


僕は、一人、挽きたてのコーヒーの香りを、楽しむ。


コーヒーミルで挽いた、少し良い豆をペーパーフィルターの中に入れ、そっとお湯を注ぐ。


ふわっと丸く膨らんだコーヒー豆が、心地よい香りを僕の元へと、届けてくれる。




ああ、とても、とても良い香りだ。




この香りは、あのころの、甘い、たまらなく甘い日々を、思い出す。


共に好んで飲んだ、コーヒーの、香り。


君は今、どうしているだろうか。




共に過ごした時間は、今でも心に強く残る、かけがえのない、甘い時間だった。


共に前を向き、共に支えあい、共に笑い、共に泣き。


僕の横には、いつも君がいた。


時には寒さに震え、互いの熱を分け合って、乗り越えることもあった。


・・・君の熱が、恋しい。




今、君を想い、胸に熱いものが、込み上げて来る。


あの時、僕の手に絡んだ、君の髪。


痛いと、涙をこぼした、君の髪に、そっとキスを落とした。


理由をつけては、君の唇を奪った僕を、君はまだ、許してはくれないだろうか。




いつも真っ赤になって、僕の胸をたたいた、君の怒る顔が、僕のまぶたの裏に、今も残る。


目を閉じれば、あのときの光景が、はっきりと思い出される。


淹れたばかりのコーヒーから、湯気が立ち上り、私を包むのは、君と共に楽しんだ、あの、香り。




ああ、ここにいない、君を想って、少しだけ、戯れをしてみようか。


今、僕にできる、唯一のコミュニケーションの、方法。


君は今、幸せですか。


「はい」なら、湯気が、右に。


「いいえ」なら、湯気は左に。



香りを纏った、白い湯気に、ふうっと、想いをのせて、吐息をかける。


湯気は、真ん中に一瞬まとまり、ふわりと、右に揺らいだ。


ああ、君は今、幸せなんだね。


君を、今後も、思い出してかまわないかい?



香りを纏った、白い湯気に、ふうっと、想いをのせて、吐息をかける。


湯気は、真ん中に一瞬まとまり、ふわりと、右に揺らいだ。


ありがとう。


僕は、これからもきっと、君を思い出して、こうして記憶を辿り、生きて行くよ。


答えをくれた、馨しいコーヒーを、一口飲んで、目を閉じる。




ああ、幸せだ。


君に、今、想いを寄せることができた。


あの日の僕たちを、思い出すことが、できた。


僕に幸せをくれて、本当に、ありがとう。


しばし、思いを馳せて、目を閉じ、香りを、享受する。





「おかあさん。これ、どこにおいたら良い?」



「僕」は、「私」の仮面をそっと被って、返事をする。



「あ、それは私のだから、二階の戸棚においてね。」





ねえ、君は、僕が、今幸せだと、思う?


想いをのせて、湯気に吐息をかけようと思ったが・・・。


コーヒーは冷めていて、湯気はもう、どこにも存在しなかった。

私はやらかし仮面被ってます。

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