1通目
皆は元気でいるか?
お父さんは元気だ。
アキバは毎日がお祭りみたいに賑やかだ。
最近はレイネシア様が正式に大使になられて、大地人皆でお祝いをしたよ。
父さんは今、飲食店で働いている。
ご飯を食べるお店だ。
冒険者の方が開いたお店で、毎日忙しいが、とても楽しい。
覚える事が沢山有るが、やりがいが有る。
皆親切に熱心に教えてくれて、こちらが出来る様になるまで根気強く付き合ってくれたりもする。
食事は賄いだが、冒険者の方々が作ってくれる賄い料理は本当に賄いかと疑うほど美味い。
それこそお店で売っても遜色ないほどだ。
そうだ、最近近くにデパートと言う大きなお店が出来たんだ。
少し高い物ばかりだが、今度お土産を送るよ。
楽しみに待っていてくれ。
373NOタケシはワイバーンを村の空き地に着陸させた。
その瞬間、わっと人が集まって来る。
「はいはい押さないでね~」
慣れた様子で大地人の群れを捌いて行く。
「じゃあ先ずは…」
<魔法鞄>から簡易封筒を取り出し、受取人の名前を読み上げた。
「レイアちゃん!」
「はーい!」
レイアと呼ばれた5~6歳の少女が元気に近寄って来る。
差出人は彼女の父親だった。
「字読める?」
「村長さまに読んでもらうの!」
「そっか、楽しみだね」
満面の笑みで応えたレイアに、373NOタケシは微笑んで頭を撫でた。
見送った後、次々に手紙を捌いて行く。
中には小包の付いた物も有った。
それを取り出し、名前を呼ぶと、受け取った家族が涙を流して喜んでいた。どうやらお土産らしい。
やはり、人が喜ぶ様を見るのは気分が良い。
担当する村にはしょっちゅう行き来するので、村の住民とも既に顔見知りだ。アキバに居る大地人達とも友達になっている。
「さて、今日はこれだけかな」
「お兄ちゃん、こないだのヤツ教えて」
「ハイハイちょっと待ってね」
捌き終えた後は、子供達と遊ぶのが恒例行事となっていた。
慣れた様子で子供達と遊ぶのを、大人達が穏やかに見ている。
もうすっかりとけ込んでいた。
夜、373NOタケシは村長の家にお邪魔していた。
今では毎回泊めてもらっているが、最初の頃は野宿だった。配達ついでに周辺の見回りも兼ねていたためだ。
初めて訪ねた時は上を下への大騒ぎだった。
何せ、ワイバーンが人を載せて飛んで来たのだ。
だが、趣旨を説明し、定期的に巡回にも来ると皆に説明した所、気安く話せる関係に徐々になって来たのである。
「そんちょうさま、つぎわたし!」
「あっははは、ようし、読んでやろうか」
年端も行かぬ少女にせがまれた村長が、手紙を読み始めた。
その様子を視界の端に据えながら、373NOタケシは便箋にペンを走らせる。
『お父さんへ。私たちは元気です…』
机の対面に座る大地人の言葉を書き写し、文章を紡いでいく。
字が書けない人達のために代筆をしているのだ。この程度なら、レベルの低い安い紙とインクで事足りる。
最近は冒険者と大地人の交流が増え、字を覚えた人も増えているが、まだまだ需要は尽きないらしい。
「ぼうけんしゃさま~」
トテトテと、小さな少女がやって来た。絵の描いてある紙を持って。
「これ、おとーたんにおくって」
「はい、承りました」
少女の母親に頼まれた手紙と一緒に纏めて、封筒に入れる。
宛先が同じ相手の場合は、こうして一つに纏めている。
少女が母親の所に戻るのを、373NOタケシは数秒見守った。
大地人の男は、373NOタケシから渡された封筒を大事そうに鞄に入れた。
休憩中をわざわざ狙って、グランデールの配達人が届けてくれる。
本当に有り難い。
男は、今までに届けられた手紙を全て保管している。
全て、家族からの大切な手紙だ。
初めて手紙を書いた時は、手が震えた。
冒険者達から字を教えてもらった時より震えて、何回も書き直した。
初めて返事を貰った時は、涙で視界が滲んでマトモに読めなかった。
読めない字も有り、店主や客達に手伝ってもらったが、最後は皆で一緒に号泣した。
初めて娘から絵を貰った時は、言葉通り飛び上がって、店主や常連客の冒険者達に笑われた。
今回も、娘の元気一杯な絵が入っていて、男の頬が思わず弛んだ。
一緒に入っていた手紙は妻や母からの物だ。
前回の手紙の返事、村の近況、子供達の成長振り…少し大きめの封筒がギリギリまで膨れていた。
彼に取っては、その全てが宝物であり、活力の源であった。
「おっ、新しい手紙ですか」
「はい」
店主が男に声を掛けた。
男は娘が描いた絵を店主に見せる。家族が笑っている場面だ。
「良い絵ですね…元気一杯だ」
「…はい」
二人して微笑む。
店主にも家族が居るが、元の世界に残っているため会えないと、以前聞いた。
「じゃあそろそろ再開しますか」
「はい」
二人は、手紙を片付け、休憩を終わらせた。
夜、仕事が終わり、男は宿に帰った。
灯りを点け、机に向かう。
手紙を書くためだ。
何度も字を教えてもらい、何とか書ける様になった。
まだ綺麗とは言えないが、冒険者達も読めるぐらいには上達している。
大人になると、新しい事を覚えるのには苦労する。
村の近くに冒険者が開設してくれた学校が有るが、長女が字を習い始めて、既に自分と同じくらいまで上達している様だ。
抜かれまいとこっちも必死である。
だが娘は最近、算数と言う科目も習い始めたらしい。
数を計算する分野だそうだが、店主に金勘定にも強くなると言われた。
手紙には、毎日楽しいと書かれていた。
もう完全に負けているかも知れない。
親としては複雑な気持ちだが、子供達の成長はやはり嬉しいものだ。
下の子も、姉を真似て字を覚え始めたらしい。
男は、最近学んだ冒険者流の書き方で、手紙を綴った。
数日後、男はグランデールのギルドハウスに足を運んだ。
手紙を配達してもらう為だ。
窓口に所定の封筒を貰い、提出する。
受付の人達や常連とは、もうすっかり顔なじみになっていた。
「娘が算数を習い始めたらしくて」
「あら、じゃあ抜かれましたかね」
「かも知れません」
「うちのガキは、剣術やり始めたらしいです」
「ほう」
手続きを処理する間に、数人で雑談を交わす。
大抵は家族の話だ。
時々冒険者も交じり、様々な事を話していく。
故郷の話は盛り上がった。
数分待ち、手続きが終わった。
「では、他の方々もまとめて、明後日に配達に向かいますね」
「はい」
男は頭を下げ、ギルドハウスを後にした。
おとうさんへ
このまラんカムリか゛じをおほ゛えたいといいました
わたしもいっしよにおぼえてレほす
おねえちやんがおしえて<わます
がっこうはとてもたのしいて゛す
まし)|こちぽうけんしやのひとたさがいるんなことをおしえてくれます
きようはちんすうをおしえて>れましナこ
あしたはよみかきのつづきて゛す
とてもたのしみです