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書生さんとお嬢さん

梅の雨の朝

作者: さっぽろ




「書生さん、書生さん」


玄関で支度していた僕をとろけた眼で見据えると、お嬢さんは物珍しげに近寄ってくる。


「お早うございます。僕は郵便局へ行って参りますので」

「こんなに早くから?」

「朝の散歩も兼ねております。食事までには戻りますよ」

「私も行くのよ」

「ええ、ここでお待ちしております」


とたとたと身支度に部屋に引っ込むお嬢さんを見届け、僕は折角結んだブーツの紐を解くのも面倒なので、玄関に座り込んでお嬢さんを待っていた。




どうやら僕より前を歩くのがお好きな様で、お嬢さんは半歩前を行く。

昨晩の雨はすっかり止み、早朝の陽はきらきらと朝露に返って、いつもの散歩道は格段白く輝いて見える。

外遊びのお好きなお嬢さんは雨が嫌いだそうで、憎い雨の上がったことにご機嫌である。見事な紫陽花の垣根の道を鼻歌交じりに歩く後ろ姿が、なんとも小さく可愛らしい。


「梅雨は嫌いだけど、紫陽花は好きだわ」

「お嬢さんは花がお好きですか」

「好きよ」

「では今度、植物展へ行きましょう。日本や外国の花が沢山見られるようですよ」

「書生さんが連れて行ってくれるの?」

「お嬢さんが宜しければ」

「楽しみだわ!」





僕が郵便局で手続きをしている間、傍にいたお嬢さんは退屈したのか、ふらりと離れ腰掛けに座ると、カチカチと控えめに時を刻む壁掛けの時計をじっと見つめていた。



「終わりましたよ」

「誰に出したの?」

「故郷の家族と友人です」

「書生さんにお友達がいたのね」

「はい、僕の数少ない大切な友人です」

「書生さんと文通するなんて、きっと好い人だわ」

「それは間違いありませんね」


お嬢さん渾身の皮肉をひらりと往なす僕に馴れてましまったのか、お嬢さんは何も言わずにさっさと行ってしまった。


「お腹が空いたのよ」

「僕もです」

「散歩の後だからきっといつもより美味しいわ」

「ええ、楽しみです」




水無月のとある美しい朝。

冴えない書生の一歩前を、ゆらゆらと楽しげに髪の揺れるお嬢さんが、雨上がりの散歩道でご機嫌に闊歩していた。




閲覧ありがとうございました。

書生さんのお友達は今後出てくるかもしれなかったりしなかったり……いつかは出したい気持ち

余談ですがコズミックホラーに影響されて東くんに怪異をけしかけるifなんかを書きたいなぁと思っています。

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