考えすぎだよ杉田君!
短編! 暇つぶしに読んでくだされば嬉しいです。視点変更が多いのでそこだけ注意してください。
俺は灰坂千春、今年で高校二年生だ。俺には幼少の頃から友達が少なかった、俺の家は両親がヤクザの跡継ぎ同士で結婚したらしく二つの組が合体した超巨大ヤクザグループである。学校への登下校は黒く染まった高級車、降りて向かえば強面の組員が挨拶してくる。そのために周囲から怖がられ続けてクラスメイトともまともに話したことがなかった――
「ねえ、千春。あそこのソフトクリーム屋に寄っていこうよ!」
「おう、いいな寄ってくか」
――こいつに会うまでは。こいつの名前は杉田公人、俺の人生で一番の親友だ。しかしこの公人は少し難儀な癖がある。
「あっ、このソフトクリーム屋今日休みかな? でも看板には土日月水金やってるって書いてあるのに」
「ああそれは――」
「もしかして何かあったんじゃ! 強盗か? それともテロリスト? とにかく警察に連絡しないと不味いや!」
「待て待て待て! これよく見ろよ、この看板の水って本当に水曜日か? 字が汚いけどこれは木、木曜日だろうがったく世話が焼けるなお前――」
「もしもし警察ですか! 実は」
「――待てっつってんだろうが!? 話聞いてたかおい!」
「うん、その可能性も考えた。でもおかしいじゃないか、なんで水と木を間違える程字が下手なんだ? ほかの文字は読めるのにこれだけ汚いなんて変だよ!」
「そんなんただ書き間違えただけだろ! いいから、今確認するから! すいませーん!」
確認してみれば結局他の文字と比べて少し字が崩れていただった。というかそれが普通の発想の筈なのに飛躍して考えすぎなんだよないつも……そう、公人は普通のやつより考えすぎるやつなのだ。
これは俺の親友の杉田公人の少し考えすぎた日常の話だ。
* * * * * * * * *
僕は杉田公人、今年で高校二年生だ。友達の灰坂千春にはよく考えすぎだって呆れられてることが多い、でも僕はあらゆる可能性を模索しているだけだ。
「あ」
次の授業は移動教室なので廊下を歩いて向かっていると前方に同じクラスでありこの学校一番の美人と名高い女子、黒井聖花がいるのに気付いた。そして今、黒井さんからハンカチが落ちたので拾おうとしたその時! 僕の頭を駆け巡った一つの可能性!
「黒井さん、ハンカチ落としたよ」
「あ、えと。汚い手で触らないで貰えます? もうこれいらないですね」
そう言って黒井さんは僕から受け取ったハンカチをゴミ箱へ抛り捨てた。なんてことになったら嫌だな……ここはハンカチも僕の手も洗って届けよう! ハッ!? でも待てよ? もしかしたら――
「黒井さん、ハンカチ落としたよ」
「あれ何で濡れているの? もしかして杉田君何かいやらしいことにでも使ったの?」
「え、そんなこと」
「皆! 杉田君が変態なの!」
やはり洗うのは止めよう。でもやっぱりこのまま放置はちょっとな……でもこのまま届けたとしても――
「黒井さん、ハンカチ落としたよ」
「あれいつの間に? もしかして……杉田君が?」
「うん、拾って――」
「盗んだのね! この変態!」
「え、違うよ僕はただ――」
「皆! 杉田君が私のハンカチを盗んで匂いを嗅いで顔を拭いて舐めたって!」
「僕そんなこと一言もっ!」
それで起こる周りからの変態コール。そんな中、僕の後ろに人影が。振り向くと友達の千春だった、千春はこちらをじっと見て一言。
「お前……変態だったのか」
「違うんだーー!!!」
なんて恐ろしいんだ! 僕は危うく大事な友達を一人失うところだったのか! このハンカチは一種の凶器だ、人の友情や社会的地位を脅かす暗黒の布! 色はピンクだけど!
「ふう、罠にかかる前に早く行こう」
僕は落ちた凶器をそのまま放置して教室に向かった。今後被害者が出ないように祈る。
* * * * * * * * *
「結局拾ってくれなかったな、杉田君」
私は黒井聖花。この学校ではナンバーワンの容姿を持ち可愛い、それと性格もいい。そんな完璧な私が好きな男子が同じクラスに存在する。その人は杉田公人、いつもは爽やかでニコニコしてるのに時々難しい顔をして悩む姿がグッと来た――いわゆるギャップ萌えだ。
先程もわざとハンカチを落として杉田君と話してそれをきっかけに仲良くなろう作戦を実行に移したのだが彼はあの難しい表情でじっと私のハンカチを五分くらい見つめていた。結果は失敗だけど彼の難しい顔が好きな私はある意味成功したとも言える。
「ハンカチは回収しないとね」
「おい」
「!?」
この男は確か杉田君とよく一緒にいる! 名前は確か、灰坂千春だったかしら?
「ハンカチ落としたぞ」
「ああいけないっ! ありがとうございます灰坂君」
「良いけど、気を付けろよ」
「はい!」
おい灰坂! お前じゃないんだよ! 杉田君の添付物のくせして邪魔してんじゃねえよ! 仕方ないので次の作戦に移る。
「あー今日は雨かあ、傘忘れちゃったなあ」
そう、雨なのに傘を忘れたので相合傘で親密に作戦! これなら成功するはず! 杉田君は歩いて通学してるし傘を持ってきているはず、あとは杉田君がこっちに来るタイミングを見計らってさっきの台詞を言う! 十分後ようやく杉田君、と添付物が付いてくる。要らねえんだよどっか行けよ!
「あ、雨かあ――傘ないから濡れちゃうなあ」
「あ、僕傘忘れちゃった! 千春どうしよう!」
「ああ? たくしょうがねえなあ、今日は車に乗せてってやるよ。家の車無駄にでかいからな」
「ありがとう!」
おい灰坂! 余計な事してんじゃねえ! こっちは杉田君が忘れたバージョンも予測して予備の傘持ってきてるんだよ!
「……お前も乗ってくか?」
「……えへへ、せっかくだけどごめんなさい。私は傘持ってますから」
「…………そうか」
「はい、では杉田君に灰坂君また明日」
「うんまたね黒井さん」
「じゃあな」
灰坂アアァァァ! お前だけは許さない、絶対にだ! 杉田君と結婚して式あげたとしてもお前だけは呼んでやらねえからな!
* * * * * * * * *
俺はこの県、いや国一番のヤクザのグループ竜王組の下っ端だ。ただただ坊ちゃんの送り迎えをして車を走らせ、戻れば雑用を押し付けられる日々。だが今日は少し変わったことがあった。今日が雨なのに傘を忘れたからかご友人の杉田公人様が車にご一緒された。俺たち下っ端には全員に同じ指示が出されている、それは坊ちゃんの行動、言動を逐一報告しろとのこと。しっかりと聞いておかねば!
「しっかし黒井のやつ、傘を持ってたならさっさと帰ればいいのによお。何で昇降口に残って突っ立ってたんだよって話だよなあ」
「うーん、確かにね。でもきっと何かわけがあったんだよ」
「そうかあ?」
黒井? ああ、確か坊ちゃんのクラスメイトにそんな名前の女子がいたな、かなり可愛いからさぞモテるだろうなあ。
「たとえばほら、雨が止むのを待ってたとか」
「でもあいつ傘持ってるだろ?」
「ああ、ならきっと雨が止むのを待ってたんじゃなくて人を待ってたんじゃない?」
「でもあいつ帰ったよな、俺たちが来た後で」
「なるほど! きっと千春を待ってたんだ! 好きなんじゃない千春のことが」
「そんな感じはしねえけどなあ」
坊ちゃんのことが好き!? これは一大事、いや好きなのは相手の方だけだ。別に大事にするようなことじゃないか。
「あ、もしかして黒井さんは秘密の組織が送り込んだエージェントなんじゃない?」
「急にぶっ飛んだな」
「きっとそうだ! 彼女はハンカチを使って僕を排除しようとしたんだよ、恐らく千春のことも……いやもしかすれば本命が千春ってことも考えられる! 黒井さんは竜王組に因縁がある組織から送られてきたんだよきっと、そう千春の暗殺のために!」
「いや、そんなわけ」
何だって!? 秘密組織の刺客でその目的が坊ちゃんの殺害!? しかもご友人であられる杉田様も殺そうとするなんて!
「そしてその組織は竜王組を壊滅させる作戦を実行する」
「おいおい」
竜王組が壊滅!? この日本一のヤクザグループを壊滅出来る程の作戦があるというのか!? これは一大事だ! 帰ったらすぐに報告しなければ!
そして俺は頭に情報を伝えた。
「なるほどな、その黒井ってやつが千春と公人君の命を狙いこの竜王組を壊滅させるほどの作戦が今謎の秘密組織の手によって開始される……か」
「ええ、これは被害者の杉田様からの情報です。嘘ではないかと」
「よし、調べる必要がありそうだな。何人かで黒井ってやつを徹底的に調べろ! そして舐めてくれた仕返しをしなきゃあなあ」
この情報をもたらしたことにより俺は組で少し出世した。そういえばたしか坊ちゃんのクラスメイトにもう一人黒井っていたような気がするなあ。
* * * * * * * * *
俺は黒井和彦、秘密結社の朝焼けの海の一員、殺し屋だ。俺の任務はこの日本で頂点に君臨するヤクザ竜王組を壊滅させること。その手始めにまず跡取りの灰坂千春、そしてその唯一の友人の杉田公人の暗殺からとりかかることにしていた。もう計画を遂行するための道具も既に入手済みだ。もはや誰にも止めることなど不可能! そして今日、まずは杉田公人の殺害から始めることにした。
「あれ、こんなところに石が」
フフフ、早速来たぞ。あれは俺が仕掛けた超小型小石型爆弾だ。衝撃を与えれば爆発し、脚の一本は覚悟するんだな!
「これって、待てよ? もしかしてこれ石に見せかけた爆弾なんじゃないか? 危ない危ない小石だと思って蹴っ飛ばすところだった」
「!?」
え、なんでわかるの? 超能力か? あれは完全にただの石ころにしか見えないはず! クソッ次だ!
「あれってもしかして暗殺者かな? こっちチラチラ見てるし」
クソッ! 仲間の殺し屋も見抜かれてる!
「あ、ここのゲームセンターに寄って……やっぱりやめようかな、もしあの機械が爆発したら怖いし」
よく行くゲーセンの機械に仕込んだ爆弾も見抜いただと!?
「今日は表通りにスナイパーがいるかも……狙撃されたくないし裏道から帰るか」
狙撃手にも気付いただと!? 何なんだ奴は! これまで調べてきた限りただの凡人な筈なのに! 仕方ないな――ここは俺が直接!
「ちょっといいか? 黒井和彦君」
「!?」
な、こいつらは竜王組!? 何故俺に声を、まさかバレたのか?
「なんでしょうか」
「ちょっと話を聞きたくてねえ、殺し屋の黒井君?」
完全にバレてる! いったいどこから漏れたんだ!? 俺は完璧に溶け込んでいた筈なのに!
「っ!」
「はい逃げても無駄無駄無駄」
ぐっ! 囲まれた!? 俺はここまでなのか……クソッ割りに合わない仕事引き受けちまったな……
* * * * * * * * *
その日俺は親父から事の顛末を聞いていた。
「マジかよ……」
「ああ、これも公人君のおかげだよ。お前の暗殺を事前に阻止できたからな」
「ハハハ」
いや、なにそれ? 大体黒井が殺し屋ってそれ女の方の黒井の話だったんだけど、どこかで捻じれたか? まあ無事に解決したんなら良いんだけど。
俺の親友で命の恩人の杉田公人は考えすぎる癖がある。でもその癖も完全に悪癖という訳ではなくそれで助かっている人もいる。
これは俺の考えすぎる親友とそれを勘違いしたりする周りの人間の日常の話である。
こんな作品でも暇つぶし程度にはなったでしょうか?