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聞いて、マリア様1

協会に落ちる一つの影


その背が語る悲しみは


その分守るべきものを残していった


自分には悲しんでいる暇などないと


だから強くあらねばと


少年は思っているのだろう


だが


そうはいっても


子供は子供


だから少年は


一人言葉を


紡いだのだ



僕には兄と妹がいる。

でも両親はいない。

両親は、俺らが幼い頃に亡くなってしまった。

確か俺は6歳、兄が7歳で、妹が3歳の時だったと思う。俺は今まで2人の笑顔を忘れたことはないけど、両親が亡くなる間際のこともまた思い出すんだ。あれからもう12年も経ったのに、割り切れない自分がいる。歳が歳だったからしょうがないのかもしれないけれど、辛いものは辛いわけで。だからずっとこうやって、一人になれる場所を、自分と向き合える場所を探していた。自分たちの力で生きていくしかない俺たちに、後ろを振り返る余裕なんてない。体の弱い兄と3歳下の妹のためにも、俺は前を見続けなくてはいけない。俺はあの時決めたんだ。すべて自分が守ってやるって。だから、言葉にしたいんだ。過去を。それが出来れば、俺は過去を受け入れられる気がする。苦しさから逃げないための、力になる気がする。女々しく生きてなんかいられない。俺は本当の意味で強くなりたい。家族を支えられる程の力が欲しいんだ。









それからというもの、俺は毎日毎日協会に通っては自分の過去を一人語った。今の俺なら出来ると信じていたけど、やっぱり上手くは言葉にできなくて、少しずつ言葉にすることにした。蓋をしていた記憶が日に日に呼び起こされていくのを感じる。幸せだったあの頃の記憶から、今までの記憶まで。

さて、今日は父の話をしよう。言葉にしたくない話をしよう。





父は、父の出稼ぎ先で流行っていた流行病が原因で亡くなった。決して裕福ではない俺たちは、運にも見放されたのかとその時思った。いや、正確には今思ってる。思っても仕方ないけど。出稼ぎ先から家に帰り着くやいなや、その場に倒れ呼吸を荒くする父の姿に俺は固まった。母は動天し、父の上半身を抱えながら「誰か!誰か!」と助けを求めた。その声を聞きつけた町の住人達がなんだなんだと集まってきて、あっという間に大騒ぎだった。

俺はその様子をただ呆然と見ていることしか出来なかった。受け入れられないと思う気持ちが全てを遠くに感じさせた。それでも、死の境地に立たされた父の荒い息が、母の乞うような泣き声が、慌てて医者を呼ぶ男の人の声が、ざわめく周囲の声が、さらに自分の心臓の鼓動が、音が、何もかもが混ざりあって、うるさいくらいに耳元で渦巻いた。耳を塞ぎたい。でも、体が動かない。頭が状況を理解しようとしないから、考えても考えても浮かんでくるのは疑問符ばかり。

どれだけの時間そうしていたのかは分からないけど、どうすることも出来なくなっていた俺は、気づけば妹と揃って兄に抱かれ、涙を流していた。

そうして3日後、父は静かに息を引き取った。

読んでくださりありがとうございます!

過去編は次話まで続きます!

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