夕暮れの教会
人間であるツキとヴァンパイアであるシオン
2人の行く末をどうぞ見守ってください
このお話は2人が出会う前のお話
カツン──。足音が響く。やけに音が大きかったように思えて、出した足を条件反射に引っ込める。同時に開いた扉を抑えていた手も引っ込めてしまったものだから、扉は歪な音をたてて勢いよく閉まった。
「うわっ」
大きな音に驚いて、木々や屋根にとまっていた鳥達は一斉に飛びたち、僕自身もまた後ずさった。悪いことをしているつもりは無かったが、つい周囲をきょろきょろと確認してしまう。まあ、周りには人なんていないのだけど。それにしても、こんな山奥に教会なんてと興味本位に訪れたはいいものの、勝手に入っていいものかと、今更ながらに考える。まあ、教会の外観や周辺の土地の荒れ具合から見て、とても誰かが管理しているようには思えないのだが。
「覗くだけ、覗くだけ......」
さっきの事を踏まえ出来るだけ音をたてないよう、そっと扉を開く。
そして、息を飲んだ。
さっきは足元ばかり見ていたせいで全く気づかなかったが、それにしてもこの光景を目の前にして気づかないなんてと自分に対して驚愕するほど、中は美しかった。中を囲むように彩るたくさんのステンドグラス。夕日に照らされたステンドグラスは仄かに赤くいっそう鮮やかに輝きながら、この空間に優しい明かりを灯していた。そして、その中央には掲げられた十字架と共に一際美しく、優しく微笑んだ聖母の姿。目を奪われたのだろう。僕は、気づけば聖母の元へと駆け寄っていた。
「すごい......綺麗.....」
聖母の姿を見上げ、そして辺りを見渡す。まるで違う世界だと思った。音なんて何も聞こえないのに、無でもなく、静けさという言葉も似合わない。音として感じるのだ。この空気や光を。視界からだけでなく耳からも。
「1人な気がしないな…」
1番前の長椅子に被った埃をはらって、そこに腰掛ける。
「ねぇ、マリア様。俺の話を聞いてくれませんか」
聖母の微笑みは変わらなかった。
読んでくださってありがとうございます!
出来れば次回も呼んでくださいm(_ _)m