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第5話 一歩。

 俺は玉座の間で、倒れこんだルナに声をかけた。


「大丈夫か? 今治してやるからな」


 ルナは何も言わず、青アザだらけの顔をこちらへ向けていた。

 俺は自分の右手に意識を集中させる。溜め時間10秒の治療能力、俺は「サイコヒーリング」と呼んでいる力。そしてしばらくすると、右手が淡く緑色に光りだした。


 ルナが不思議そうにそれを見つめてくる。だが説明している暇なんてない、俺はその右手でルナの顔を直接触った。


「な、何するですの……」

「黙っとけ」


 するとボコボコの腫れが引いて、流れる血も止まる。それまで息が荒かったのが、あのかわいい顔に戻っていくとともに整って行った。

 そして、完全に傷を癒した途端。俺の体に、ドッと疲れが押し寄せてきた。


「クハー! あ~、もうダメ!」


 俺が大声をあげている傍ら。ルナは目をパチクリさせながら、自分の顔をペタペタと撫でていた。


「す、すごいですわ。傷が、一瞬で……あの傷を治すのなら、ミーナでも5分はかかるというのに……」

「代わりに溜めが長いしメッチャ疲れるしで、ハッキリ言や使い所ねーけどな!」


 息をあげて俺は大声を出す。そんな俺の姿を、ルナはやはり不思議そうに見ていた。


「あなた、本当に何者ですの……?」

「一言で言えば“超能力者(サイキッカー)”だ。いろんなわけわかんねー力を使えるんだよ」

「サイキッカー……? 聞いたことがないですわ」


 そりゃそうだろ、俺の世界だと漫画やアニメの話だからな。現実に超能力を使える人間は俺しかいないって断言できる。

 そう言おうとしたが、少し頭が追いつかない。深呼吸を繰り返して、頭に溜まった疲れを少しでも落とそうと画作する。


 すると、傍らのルナはなぜか少し居心地が悪そうにモジモジしながら、小さく声を出した。


「あ、ありがとうですの」

「いいって、気にすんな。第一傷が付いた顔とか見たくねーしな」

「それだけじゃなく、それ以外もですわ。……母から私を庇ってくださって」


 俺はルナの言葉に耳を傾けた。母、か。俺にはわからなかったが、ルナにとって大きな面倒になっていた。それは確かだった。


「……でも、1つ気になりますわ。あなたは、どうしてわたくしなんかを助けようと思ったのですか? あのまま殴られるのを見捨てれば、あなたは母からの心証を失わずに済んだはずですのに」

「なんでって聞かれてもよ。……うん。たぶん、お前の恩に報いたかったんだ」


 俺は頭で考えて、ルナにそう答えた。ルナが「恩?」と聞き返してくる。


「いやよ。風呂場に突然現れた俺を、馬小屋って言っても泊めてくれるわ、自分の朝飯俺にくれるわ。そんなことされたら、俺だっていろいろ思っちまうんだよ」

「アレをしている最中にあなたも感じていたはずでしょう? わたくしたちの嫌味な視線を」

「ああ、感じた。感じたけど、俺はそれでも嬉しかったんだよ」


 俺は率直に、ルナへ言葉を連ねていた。少しの興奮と疲れが思考を鈍らせて、今だけはハーレムなんて考える暇がなかった。

 と、そんな俺の言葉を聞いた彼女は。クスリとかわいらしく笑った後、俺に一言言った。


「あなた、どこかで頭でも打ちましたの?」

「またなんだよその『かわいそうに、手の施しようがないバカな人なんですわ』って言い草はよ!」

「だって、嫌味な視線を感じて嬉しかったって。はたから聞けば変態にしか思えませんわ」


 俺はそう言われて「うぐぐ」と黙り込んでしまう。釈然としない顔のままルナを見ていたら、彼女は「まあ」と言って立ち上がった。


「わたくしの見ている変態さんは、良い変態さんのようですけどね」


 俺は笑っている彼女を見て。つい顔を熱くしてしまった。

 まずい、変態さんと言われて赤くなるなんて。これじゃあ真面目に変態さんじゃねーか。俺はルナから目を逸らして照れをごまかしていた。

 と、ルナは黒いドレスを払いながら、


「さて、と」


 そう言って体を動かし始めた。


「何してんの、お前?」

「いえ、気合いをいれる時の儀式みたいなものですわ。とりあえず、わたくしは部屋に戻ろうって思いまして。よかったらあなたもついてきてくださらないかしら?」


 俺はそれを聞いて「フッ」とキザったらしく笑って見せた。


「言われなくてもついてくって。お嬢さま」


◇ ◇ ◇ ◇


 俺とルナはあの壁だけ豪華な部屋の前にいた。ルナはあの後から俺に対してジットリした目を向けることもなくなって、なんだか近寄れたような気がした。


「えっとよ、俺入っていいのか?」

「今更何を言ってるんですの。わたくしが良いといったから良いに決まってますわ」


 そう言うと、ルナは扉を開く。

 部屋の中には、もう既にミーナがいた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 ミーナは冷めた声でルナを迎えた。ルナは「ただいまですわ、ミーナ」と明るく返して、部屋にスタスタと入ってくる。俺はその後ろをついて行って、「お邪魔します」とカチコチになって言う。

 その瞬間、ミーナの目が俺を刺していた。彼女からはまだ嫌われているようだ、俺はその視線に苦々しさを振り払えなかった。


「……俺、邪魔か?」

「はい、すごく」

「ちょ、ミーナ! そんなことありませんわ! えっと……か、彼は別に悪い人ではありませんから!」


 ルナが慌てて俺のフォローに回る。ミーナは彼女にそう言われて「……まあ、そう言うのなら」と呟いて赤い絨毯(じゅうたん)に座り込んだ。ルナと俺もそれに倣って座り込む。


「なぁ、ルナ。そういやよ、俺この世界の事何にも知らねーわ。できたらいろいろ、教えてくれねーかな?」

「勉強のことなら任せますの。わたくし、これでもかなりの知識人だと自負してますわ」


 ルナが勢いよく胸を叩いた。だが響く音は「ドン」ではなく「ぷにん」という感じだ。彼女の胸の弾力を思わぬところで見てしまった俺は、視線を逸らして沸き上がった感情をごまかした。


「と、とにかくよ。何を教えて……」

「さあさあ、選んでほしいですわ。歴史から数学、科学に神法学(しんほうがく)、わたくしはなんでもこざれの勉学マスターですわ~!」

「いや、そんな難しい話じゃなくて常識を……って、神法学? なんだそりゃ?」


 ルナは俺の言葉を聞いて目を輝かせて素早く切り返した。


「神法学はそのまま神法を研究する学問ですの、わたくしもそれに対しては特に熱心に……」

「お嬢様。おそらく、神法という言葉がもう既にわかっておりません」


 俺の疑問符を察したのかミーナがルナの口を黙らせる。ルナはしゅんとして「そうかしら~」と一言つぶやいた。


「……それじゃあ、本当に常識レベルのことから教えますわね」

「おう、頼むわ」

「神法というのは、魔物が扱う“魔法”、わたくしたち人間――正しくは魔物以外の生物が扱う“人法(にんぽう)”、この2つを合わせた総称ですわ」


 俺は頭の中を必死に動かして話を整理する。つまり、神法というのは「魔物が扱う魔法」と「人間が扱う魔法」の総称で、前者を単純に「魔法」、後者を「人法」というらしい。俺はふむふむと頷きながらその先を聞いた。


「それで、神法について教えますが……神法には、属性がありますの。炎、水、土、風、光、闇の6つの属性。この属性が変われば、扱う神法の内容も変わってきますの」

「へぇ。属性ってよ、いくつも扱えるのか?」

「それはできませんわ。……属性というのは、生まれつき決まっておりますの。そして別の属性の神法を扱うのは、絶対に不可能ですの……」

「うーん、少し残念な話だな。いろいろ使えたら楽しそうなのに。そういやルナ、お前の属性って何なの?」


 俺が何の気なしに質問した途端、ルナは悲しそうな顔をしてしゅんと俯いてしまった。

 俺は何かまずいことを言ってしまったのかと思い内心慌てる。するとミーナが俺を刺すように睨んで話を進めた。


「この話は終わりましょう。ここから先はまた別の機会に。……それよりあなたは、もっと他のことを知った方がよろしいかと思われます」

「他のこと?」

「ええ。通貨や魔物とそれ以外の生物の違い、そんな子どもにもわかる常識の範囲を知った方が」


 俺は少し棘のある言い方が気になった。だが彼女の言う事はもっともだ。俺は「確かに、そうだな」と頷いて、しばらく彼女たちの「異世界事情」をずっと聞いていた。


【技術解説】

□リピート

カッコいい名前つけたかっただけだ。技術の内容としては、「前にでてきたセリフを後のシーンで繰り返す」というもの。この場合、「前のシーンのセリフをそのまま繰り返す」だけでなく「前のシーンのセリフを多少アレンジして繰り返す」のも該当。また、「セリフ」だけでなく「動作」もこれに含めても良い。

今回は「頭でも打ちましたの?」の辺りがこれにあたる。また、この技術はあらゆる面白い作品で使われている。○の錬金術○や神撃のバ○ムートジ○ネ○ス、重○ピ○○などなど。多くの作品に広く使われた技術で超メジャー。


○一つ。

解説はしないけど、この話は何気に技術的に大事なシーン。


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