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第4話 ルナの問題

 ルナとミーナを助けた後。俺は城に戻ってきていた。下にはレッドカーペットが敷かれ、その先には玉座が2つ置かれている。


 昔ゲームで見たような部屋。その時は少し憧れた物だが、こうも何もないと時間潰しに頭を使ってしまう。何か暇つぶしになるものはないだろうか。


 と、そんな風に待っていると俺の後ろで扉が開く音がした。

 音のする方へ振り向く。そこから現れたのは、豪華絢爛(ごうかけんらん)なドレスを身につけた美人たちだった。


 少し年増な貴婦人を先頭に、後ろにつくようにキラキラの若い女性たちが歩いていく。列を作る人数は合計で6人。俺は少しそれに目を奪われたが、3人目を見た瞬間に違和感を感じた。

 ルナだ。ルナが一緒に歩いている。だが違和感はそんなことじゃない、ルナが着ているドレスだった。別段ボロボロなわけではないが、他の人達に比べるとすぐわかるほどに安っぽい。黒を主体にした、少し無理をすれば買えそうな物だった。


 しばらくして、玉座の前に6人が並んだ。すると年増の女性が俺に話をしだす。


「本日は王家の娘を助けていただき、ありがとうございました」


 そう言うと彼女は頭を下げて、それに倣うように他の人達が一斉に頭を下げる。


「お礼にわたくし共から、何かあなたが望む物を差し上げたいと思います」

「望む物、ね。それなら、俺をしばらくこの城に住まわせる、とかダメですかね?」


 俺は年増の女性にニヤリと笑いながらそう言ってみた。素直にお金を望めばいいのにこんな事を頼んだのには理由がある。


 俺はある流れを確信していた。城に揃う豪華絢爛な美少女たち合わせて5人、プラスサバサバ系冷徹美少女メイド1人で役者は6人、つまりはそういうこと。

 俺はこの城で、お姫様ハーレムを築く事になる。異世界に来た異能者という状況から考えれば、少しは期待できることだ。


 案の定、年増な女性は驚いたような視線をこちらへ向けていた。


「そんな程度のことでよろしいのですか?」

「ああ。こんなこと言うのも何だけど、俺は流れ着いた異邦人! 何より欲しいのは生活の保障ってわけですよ」

「おやまぁ、なんと欲の無い……」


 お、なんか良い評価付けられているっぽいぞ。俺はうまくあの女性に入り込めた気がした。


「わたくしは、そのように無欲に過ごし節制と規律を重んじる人を何よりも好いております。あなたのようなご立派な方のお願いとあれば、なおさら叶えてさしあげたいものです」

「そんな、褒めすぎだって……」


 とは言っても、嬉しいことには変わりなかった。やはり、お城で生きた貴婦人。品もあるし、かなり人格もできていそうだ。俺は少し、あの人が気に入った。

 しかし、その女性はその瞬間。突然顔付きを変えて、怒りを露わにした。


「それにひきかえ、この子は……!」


 そう言って、ルナの所へ足を運んだ彼女は。

 部屋中に鳴り響く音で、ルナの頬を叩いた。


 俺は口をあんぐり開けて、なにが起こったのか。一瞬判断がつかなかった。


「人攫いに捕らえられて、あまつさえ関係無い人に迷惑をかけるとは。これだからあなたは……」

「も、申し訳ありません。お母さま……」

「謝って済む話じゃありません。いつも言っているでしょう、人に迷惑をかけてはいけないと!」


 そう言って年増の女はさらにルナを叩く。


「も、申し訳……ありません……申し訳、ありません……」


 叩かれて、叩かれて、叩かれて。響いてくるのは音と声。何度も叩かれたルナは、とうとう顔を赤く腫らして床に倒れてしまった。

 だが、あの女は止めない。ルナが倒れれば蹴り、顔を潰し、何度も何度も踏みつけた。


「なぜこうもわたくしの言うことを聞けないのか。本当に出来損ないの娘です。恥を知りなさい」


 なんだコレ、なんだコレ……? 目の前で行われるこの行為が。そしてそれを見て怒っている俺が、俺にはわからなかった。なおも女は続けていく。


「本当にあなたは家の面汚し、害悪と言わざるをえません。……まったく、何度教育を施せばいいのか。わたくしは、あなたという子を産んで恥ずかしいです」


 もう、我慢できねぇ! 俺はあの女と傷だらけのルナを、ギッと睨んだ。

 3秒数えて、年増がルナをさらに蹴ろうとした瞬間。俺は、2人の間にテレポートした。


「てめぇ、自分の子だろ? なんてことしやがんだよ」


 俺がガンを飛ばして女を威嚇すると、彼女はまったく気にしない素振りでただ言った。


「これは教育なのですよ、異邦人さん。出来の悪い子には教えを施す、当然でしょう?」

「よくもまぁそんな虐待野郎の謳い文句をぬけぬけ吐けるもんだな。仮に教育だったとしても、見てみろよ。こいつ、顔中パンッパンだぞ。ここまでやる必要がどこにあんだよ?」

「何度教えてもわからないからです。理解しない、しようとしないこの子が悪いのです」

「てめぇ、そんな理屈で暴力を正当化するつもりか!」


 俺は喉を震わせて叫んだ。怒号が鳴り響いて、部屋が揺れる。この情景を見ていただけの姉妹がどよどよして、目の前の女は俺を冷めた目で見つめる。


「何を怒ってらっしゃるのです? あなたとその子の関係なんて、たかだか道で会ったのを助けた、その程度でしょう。ちょっとお礼をされればそれで切れる、儚い縁です」


 俺はそれを聞いてさらに怒りを加速させる。喉から声が出そうになる、だがそれを言えば面倒になりそうなのは目に見えている。

 ……だとしても。俺は後ろで顔をボコボコにしたルナを見て、歯を食いしばった。


 上等だ。面倒、起こしてやるよ。


「俺はこいつとはもっと縁がある」

「ほう? 言ってみなさいな」

「俺は。この城に突然落ちてきた、異世界の人間だ」


 直後、女は「は?」と言いたげに口を半開きにした。だが俺は続ける。


「右も左もわからねぇ俺を、こいつは無理に追い出そうとせず宿をくれた。飯の無い俺に、自分の食事を犠牲にパンをくれた。こいつは見ず知らずの怪しい俺を、助けてくれたんだ。たった1つ、優しさだけでよ!」


 俺が叫び終わった瞬間、女は声をあげて笑い出した。


「これは傑作です! そんな作り話をよくもまぁペラペラと。あなたが異世界から来た? 怪しい自分を助けてくれた? バカな事を言うのは……」


 だが直後。女は思い至ったように俺の服を見た。


「これは、夫が昔着ていた……そう、ルナが作った服。なぜそれをあなたが……?」


 そしてそこまで呟いた直後。女はハッと表情を閃かせ、納得したように声を出した。


「なるほど、なるほど。異世界云々はともかく、あなたがルナと何かしらの関係があったことは認めましょう。……しかしとなると、あなたはここに不法侵入していたということになります」


 俺の背筋を、ヒヤリと汗が伝った。マズイ、このままだと不法侵入(それ)を理由に追い出されちまう――!

 万事休す、俺がそう思った途端。


「わたくしが、彼を入れました!」


 ルナが声高に、嘘を叫んだ。


「夜に城門前で倒れていたこの方を、わたくしが勝手に中へ入れただけですわ! 服はその時に貸したもの、朝食を与えたのもわたくしの勝手な判断! その方の話は全てウソですわ! それに、“異世界から来た”なんて突飛な話よりも、わたくしの方が余程理屈に合うはずですわ!」


 呼吸を荒くしながらの必死の嘘。だが客観的に見ればその言葉の方が何倍も信用性がある。だからこそ俺は、ルナのこの理屈に頼らなければならない現状に罪悪感を抱いていた。

 あの女が、「それなら納得いきますわね」とお偉く呟く。俺は睨みながら、歯をギリギリ鳴らしながら、何も言えずにいた。


「つまりルナ、あなたは自分の判断で勝手に知らない人を城へ入れたということです。もしも彼が危ない人だったら、わたくしたちにも相当な危害を与えていたはず。……教育の対象ですね」


 そう言って近寄ろうとする女を、俺は通さなかった。何も言わず、ただ女の目を睨んで威嚇するのみ。そうしてしばらく時間が過ぎると、女は「ハァ」とため息をついて、俺たちから離れた。


「そんなにその子が大事なら、一生そうしていればよろしいです。わたくしたちに迷惑をかけないのなら、そんな子どうなろうと知ったこっちゃありません」


 そして女は、そのままトコトコと玉座を離れ、他の女に「行きますわよ!」と声をかけると、部屋を去ってしまった。


 残された俺とルナは、廊下から響く足音をただじっと聞いていた。

【技術解説】

☆どうでもいい身の上話

僕は、もともと伏線とかストーリーの大仕掛けばかり気にするタイプの人間でした。また、テンプレってのがイマイチ好きじゃありませんでした。

今は、「嫌い」というわけではなく「好き」でもなく、「ただ作り方の一種」として受け入れています。つまり、「テンプレであるかは重要じゃない」と。

また、「大仕掛けとかは確かに大事だけど、それでは見てもらえない」とわかった僕は、「別の魅力」を探し始めました。

魅せ場を面白くする方法とは。起承転結の「承」、苦手なコイツをどうすれば見てもらえるのか。

そうして探し求めた答えが、今書いている話「とか」です。まあ面白かどうかはわかりませんが、とりあえず「その方法を僕なりの勝手な解釈ではあるけど見つけ出した」とは言っておきます。


この話をなぜしたかというと……なんででしょうかね?

いやらしく話して答えは言わず、ツァイガルニック効果を発揮させつつ今回の技術解説はここまでです。また次の話以降、解説しているモノもあるので「技術解説は終わった」わけではありません。ではでは。


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