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第3話 超能力は超強力

 その後、俺たちは町へと赴いた。

 綺麗な石畳が町の道になっていて、レンガ造りの家々が建ち並ぶ。テンプレ的な中世風の町だった。

 これぞ、ザ・異世界というだろう。俺は物珍しいその情景を眺めて、ずっと笑顔のままだった。


 しかし気になったのは、目の前を先導する2人だ。馬小屋に案内された際から薄々感じていたが、暮らしていたのは屋敷どころか大きなお城。つまり、この2人はかなり偉い地位の人間なのだ。

 おそらく、関係性を見る限り、ルナが貴族のお嬢様で、ミーナがその従者。俺はかなりヤバい人たちと出会ってしまったのかもしれない。


「さて、町にも来たことですし。まずはわたくしたちの目的を果たしに行きますわよ、ミーナ」

「はい、お嬢様」


 2人はそう言うと俺がいないかのようにどんどん先へと進んでいった。本当に気に入られてないんだな、俺。

 嫌な感触を覚えながら、俺は2人の後をひたすらに追っていく。しかしこのまま黙っているのは気が引ける。俺はルナに話しかけた。


「なあ、お前らの目的って何なんだ?」

「まあ、教えてあげてもいいですわね。簡単に言うと服を作る材料が欲しいのですわ」

「服?」

「なに、わたくしの戯れですわ」

「つまり趣味か。それにしても、女の子らしいかわいらしい趣味だな」


 ルナはそれを聞いてじっとりした目を向けてくる。


「口説いてるつもりかしら?」

「え!? いや、そんな気はねーけど!」

「でもあなたと話していると変な感じがしますわ。何というか、下心が見えるといいますか」


 俺はそれを聞いて何も言い返せなかった。ルナがその様子を見て「図星かしら」と呟く。

 マズイ。明らかに嫌われている。俺のハーレムビジョンは壊れかけていた。流石に異世界とはいえ現実の女性、そう都合良く自分の望む方向へは動いてはくれない。

 俺は肩を落としてとぼとぼ歩くしかなかった。そうしてしばらく歩き続けて、2人はある店の前で立ち止まった。


「つきましたわ」


 俺は店を何となしに眺めてみる。煉瓦造りで服屋の看板が掲げられた、オシャレな店。ガラス越しに色々な服が飾られているのがよく見て取れた。

 と、ルナがミーナに語りかける。


「ミーナ、メモを渡しておきますから買ってきていただけますかしら?」

「わかりました」


 そう言ってミーナだけが何枚かの紙幣とメモを持って、店の中へと入っていった。ルナは店の傍にかがみこんで、ぼうっと地面を見つめている。


「……なんで、一緒に買いに行かねーんだ?」


 俺は素直な疑問を彼女にぶつける。と、彼女は俺を横目で見て、どこか寂しそうに呟いた。


「本当に何も知らないんですわね」


 どこか、見たことのある顔だった。感じたことのある雰囲気だった。異世界小説なんかでの既視感じゃない、でもなぜかわかる。その顔は、俺も何度もしてきたからだ。


「――どうせ全てを知れば、離れていくに違いない」


 そして、俺は。なんでかな、そんな言葉を呟いた。ルナが少し驚いたようにこっちを見てくる。


「……わたくしの心でも読めるんですの?」

「読もうと思えば読めるけどよ。なんか、お前の顔見たら読まなくてもわかる」

「それってどういうことですの?」

「……知らねーよ」


 俺は少し、喋る気が失せてしまった。それを察してか、ルナは「そう……」と言って俯いた。何やら悲しい沈黙が、流れる。

 と。そんな沈黙をかき消すような間抜けな音が、周囲に鳴り響いた。

 グググゥ~というなんともまあ腹の音らしい腹の音。それがした方を見たら、ルナが顔を真っ赤にして震えていた。


「お前、朝食は?」

「な、何を言ってるかしら!? わた、わたくしがお腹を鳴らすなど万物の法則的にありえませんわ!」


 明らかにごまかしている。だから俺はその顔を見て、意識を集中させた。


≪この男の朝食がもともとわたくしの朝食になるはずだったなんて、言えるはずありませんわ≫


 聞こえてきたのはなんとも親切な言葉。俺はため息を吐いて、立ち上がった。


「余計なお節介をすんなよ」

「な、なんの話ですの!?」

「いいか、俺はな。確かに下心満載でお前らに近寄ったかもしんねーけどよ。ならお前らは俺を遠ざけりゃいいんだ、今までみたいによ。だからなんつーか、自分の飯捨てて俺にくれるようなことすんなよ」


 俺はそう言うと、ルナに向けて手を出した。


「金、くれ」

「んな! いくら図々しいにもほどがありますわ! 見ず知らずの女の子に金をたかるなんて!」

「金がねーからしょうがねーだろ。ホラ、すぐ近くに食いもん売ってる店がある。なんか買ってくるよ」


 俺は視線を逸らしてルナに言う。ルナは少しモジモジした後に、腰のポーチから袋を取り出して、中から取り出した紙幣を俺の手に置いた。


「……アップルパイが食べたいですわ。あそこのアップルパイは、わたくしにとって絶品ですの」

「アポーなパイね。了解」


 俺はそう言うと、近くの店へと駆け出した。


「あー、店員さん。アップルパイ1つくれないか?」

「あいよ。300ゲルね」


 マズイ。通貨がわからない。だが俺は平静を装って、堂々と貰った紙幣を渡す。

 店員が嫌そうな顔でこちらを見てくる。それに勘付いて笑顔を引きつらせると、俺は紙幣に書かれた数字を見た。

 5000。さっき店員は300と言っていたから、なるほど。これは面倒臭い。


「す、すまんな。でかい金しかなくて」

「……いいよ、別に。ホレ、アップルパイとお釣り4700ゲル」

「あ、ありがとうよ」


 俺は頼まれたアップルパイが入った紙袋と、お釣りのお金をもらって店から離れる。硬貨に紙幣、日本と大して変わらない使い方をしているが、いまいち価値がわからない。

 それでもま、おつかい完了には違いない。俺はゆっくりした足取りでルナが待っている店の前へと歩いて行った。


「待たせたな、ルナ。ちょいと金がわかんなくてよ……」


 だが、そこにルナはいなかった。店の中へ入ったのかと一瞬思ったが、その線は薄い。さっきまで、店に入ることを拒んでいたのだから。

 俺の頭に嫌な予感が走った。周囲を見回す、だが人が邪魔で見つからない。誰か目撃者はいないか、俺は意識を集中させて、行き交う人々の思考を読み始める。


 買い物のこと、仕事のこと、生活のこと。たわいもない考えが頭を抜けていく。そうして聞こえる多数の声の中に、気になるものがあった。


≪――あのお嬢さんたち、攫われちまったな≫


 俺はその声の主を見る。なんてことはない、ただの好青年。ただの好青年だが、俺にとってその言葉は信じられなかった。

 そいつの目の前まで急ぎ足で迫る。好青年は、「なんですか?」と俺を怯えたように見ていた。


「てめぇ、誰が連れ去られたって?」

「え? な、なんの話……」

「とぼけんな! お前は見たんだろ! 金髪と銀髪の女が! 連れ去られた現場をよ!」

「なんの話をしてるんですか!」


 クソ、埒があかねぇ。俺は男の思考を盗み見る。


≪こいつ、なんであんな奴に真剣になってんだ?≫


 俺の頭に血が上った。だがここでこいつを殴るべきじゃない。


「そうかい……」


 てめぇが話す気ねーんなら、仕方ねぇ。心で毒づき、俺は身を大きくかがめて、飛んだ。


 念力を体にかけて自分を投げ飛ばす。そのまま空に浮かんだ俺は、上から町を見下ろした。

 そして、見つけた。ルナとミーナを抱えて逃げる、明らかに怪しいヤツら。

 明らかな人攫いだってのに、誰も奴らを止めようとしない。俺は町の人間に腹を立てながらも、サイコキネシスで体を投げて見逃さないよう空から追う。


 飛んで、飛んで、飛んで、飛んで。俺はより一層高く浮き上がると、奴らを目視しながら意識を集中させた。

 能力を切り替える。1つを使えばもう1つは使えない、面倒な特性だがその分は考えれば問題はない。俺は落ちながら目を奴らから離さず秒数を数えた。

 1秒、2秒、3秒……! 瞬間、俺は能力を発動させる。


 直後。俺は、ルナとミーナを抱えた3人の男の前にいた。一瞬で視界内の場所へ飛ぶテレポート。俺の能力の1つだ。


「な、なんだこいつ突然に!」


 男たちは俺を見て慌てる。俺は3人を睨み、威圧する。


「てめぇらよぉ。その2人は俺のツレだ。返してくれねーと顔面を潰した缶みたいにするぜ」

「何を言ってんだこいつ? 返せって言われて返すわけねーだろが! この2人には合計2億の金がかけられてる! 何が何でも連れ帰るぜ!」

「よし、わかった」


 俺はそう言うと3人のうち誰も抱えていない奴を殴り飛ばした。念力とパンチの衝撃で後ろへ吹き飛ぶ、地面に落ちた途端体をピクピク震わせそのまま動かなくなる。

 ルナとミーナ、それぞれを抱えた男たちはそれを見て、ゴクリと喉を鳴らした。俺は再度問いかける。


「……どうする?」


 直後、男たちは余った手で腰の剣を抜き、俺にそれを振り下ろした。俺は念を手に込め、手の平を落ちてくる剣へと向ける。

 瞬間、剣が音を立てて折れた。


「なに!?」


 男たちが思わず呟く。俺はそのまま一瞬身を沈ませ、跳ね上がるように膝を伸ばして右と左の男たちの腹部へアッパーをかました。念を込めたパンチが、男たちにめり込む。

 2人はルナとミーナを抱えたまま、空へと打ち上がった。衝撃でそのままルナとミーナを放す、俺はその2人に向けて手の平をかざした。

 念力で、2人の体がフワリと浮く。男たちはそのまま、バタリと地面に落ちてしまった。


 ゆっくりと。俺は2人を自分に引き寄せて、そのまま両手に抱き抱える。大丈夫だ、怪我はない。無事を知った俺は思わず安堵して、大きく息を吐いた。


「ん……」


 すると、ルナが目を薄めて俺を見てくる。少し不安の色が見て取れたから、俺は微笑んで彼女に示す。

 もう大丈夫だ、と。


「……あ、なた……」


 ルナはそう呟くと、また意識を遠ざけて眠ってしまった。


【技術解説】

□伏線

今回の場合、伏線は「アップルパイですわ」が該当。これが直接的に事件に結び付くというわけではないが、僕の定義に従えばこの一言も立派な伏線。


○戦闘シーンについて

詳しくは書きません。が、一言でまとめると「意味のある戦闘シーン」を書きましょう。

ただ戦わせるだけ、って内容ですと、戦いの内容がうまくても面白くありません。戦闘無しでミステリやらなんやら書いた方が何倍もいいです。

また、ただ戦わせるだけにしたいのなら、アクション映画のような「アクションだけで構成しているぜ」という前提を掲げた方がいいでしょう。下手にストーリー性を付けるよりそっちの方が個人的には許せます。

が、もちろんこの場合「さして面白くない」なんてことになりかねないので、そこは個々人の裁量でなんとかしましょう。

高圧的な物いいかもしれませんが、いつだって「ただのやり方の一種で別の方法があるかもしれない」という前提を持ってみてください(´・ω・`)つまり僕の言葉は必ずしも正しいというわけじゃないという事です。正しい、についての議論が無駄な気もしますが。

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