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第2話 馬小屋の感触

「町の案内をして欲しいですって?」


 金髪ドリルのツインテールを揺らしながら、ルナは驚いたように声をあげた。俺は「ああ」と言って続ける。


「いやよ、ここがどんな屋敷かは知らねーけどよ。いずれにしろ町の中か近くにあるのは間違いねーだろ? 俺はここに来たばっかで、右も左もわからねぇからさ。町のこととか、いろいろ教えて欲しいんだよ」

「ふぐぐ。言葉遣いといい、初対面の人によくそうもズガズガと態度を大きくできますわね」


 ルナが少し不機嫌そうな顔をする。やばい、心証を悪くしちまったか。俺は頬を引きつらせて受け答える。


「い、いやよ! なんっつーか、言葉遣いとかその辺慣れてなくてよ」

「むぅ。開き直られるといっそ清々しいですわね。まあ、多少失礼なのは目を瞑りますわ。それにしても町のことを知らないなんて、あなたはじゃあどこから来たのですの?」

「それはだから、異世界って奴だよ」

「それはいろいろ整合性が合いませんわ。大体、“別の世界から来た”のなら、どうしてわたくしたちは会話ができるんですの?」


 ――そういえばそうだな。考えてみると、言語の壁を感じさせないくらいに俺はこの2人とスムーズに会話をしている。なんでそんなことになっているのだろうか。

 まあ、おそらく異世界転移の際の不思議な力って奴だろう。俺はあまり深く考えなかった。


「まあその辺はわかんねーけどよ。いずれにしても、俺は困ってる。協力してくれると、すごく嬉しいんだけどよ」

「ふむ。そういえば、ちょうど出かける予定でしたわ。……ミーナ、かまわないかしら?」

「ええ、別に大丈夫だと思われます。私も同行しますので、いざとなれば私がお嬢様を守ります」


 ルナはミーナの言葉を聞くと、「わかりましたわ」と言いながらゆっくり立ち上がる。


「明日、町を案内しますわ。今日はもう夜も深いですし、わたくしもそろそろ眠りたいですの。……構わないかしら?」

「おう、なら仕方ないか。じゃあ明日、頼むな!」


 俺は笑顔でルナの言葉を受け止める。行動は明日、となると今日は休んで体力をつける。俺は少し張り切っていた。


「……んで、俺はどこで寝ればいいんだ?」

「ミーナ。一緒に馬小屋へ行きますわよ」

「わかりました、お嬢様」


 俺はどうやら馬小屋で眠らされるようだ。俺はこのひどい扱われ方に、静かな無力感を感じていた。


◇ ◇ ◇ ◇


 翌朝。目覚まし時計の代わりに鳴り響いたのは、馬の下品な鳴き声だった。幼馴染の美少女の「起きなさい!」の代わりに、馬の嫌な舌が俺のほほを舐める。


 俺はわらの中から体を起こした。茶色のくせ毛に少し鼻がかゆくなるような匂いのする茎が引っかかってはぽろぽろ落ちる。


「……わかっていたけど、やっぱ気持ちわりーはコレ」


 未だに隣の馬は柵越しに俺の頬をぺろぺろしている。唾液で頬が塗れる、うっとうしいったらありゃしない。

 これが美少女の頬ずりだったら、そんな風に思いながら暇つぶしに馬の顔を睨んで、意識を集中させる。


≪ハァハァ、ルナたんのほっぺハァハァ≫


 俺の超能力の1つ、テレパシー。人や動物の思考を読める力だ。しかしこの馬は何を夢見ているんだ一体。俺は馬が人間に欲情するという知りたくもない現実を知って、顔をしかめてしまった。

 頭をガリガリ掻いて不快感をごまかしつつ、俺は立ち上がって緑の服についた藁を払い落とす。と、狭い馬小屋の扉をノックする音が響いていた。


 馬小屋をノックするなんて人はいない。中に人がいるのを知っている場合を除いて。俺はルナかミーナが扉を開くのを待った。


「いないようですわ」

「そうですか、ではさっさと町へ行きましょう」

「ちょっと待てお前ら!」


 俺はその声を聞いて勢いよく扉を開く。少し高そうな服を着たルナと黒いメイド服のミーナがジットリした目で俺を見る。


「いたんですの」

「いたんですの、じゃねーよ! なんで俺に対してそんな冷めた対応なの2人とも?」

「一言でまとめると気に入らないからですわ」


 俺はルナの言葉を聞いてのけ反った。そこまではっきりと断言されるといくら何でも傷つく。俺はこれ以上自分に傷を増やさないため、頭をガリガリ掻いて不快感を紛らわせながら話題を変えた。


「と、とりあえずよ。昨日の約束、守ってくれるか?」

「約束しちゃったのは仕方ありませんから。あなたがどこかで死んでしまうのも、後味が悪いですし」


 俺はため息を吐きながらまた頭をかく。顔はかわいいのに、性格が苦手だ。彼女たちへの評価が下がっていく感覚を覚えた。


「それじゃあ、もう行こう。早いところ生活の仕方を知っとかねーと」

「……まあおかしいのは今に始まった事ではありませんからもういいですわ。とりあえず……」


 ルナはそう言葉を溜めると、腰あたりに着けているポーチから紙袋のような物を取り出した。明らかにポーチに入りそうではないが彼女は特に違和感を感じていなさそうだった。


「あなたの朝食ですわ。食べながらの移動ということになるですけど、何も食べないよりかは何倍もマシですわよね?」


 俺は苦々しい表情をしながら、「ありがとよ」と言って紙袋を受け取る。中に入っていたのは、少し手の込んだホットドッグのような食べ物だった。

 俺はそれを取り出して、食べる。それを確認したルナはすぐさま俺に背を向けて歩き出してしまった。


「さぁさ、さっさと行きますわよ。わたくしたちも暇ではありませんので」

「あ、おい! ちょっと待てよ!」


 俺は先を行く彼女たちの背中を慌てて追った。


【技術解説】

□ミスリード

メインストーリーの真実を隠すための方法。今回はうまくいっていない気もするが、「異世界転移の際の不思議な力って奴だろう」が該当。

どんでん返しに使うのが一番やりやすい。

ミスリードは「どちらの意味にもとれる」が一番引っ掛けやすい。つまり、最初読んだ時は「こういう意味だな」と解釈するけど、後から考えると「この先の事実を言ってただけで、実はそういう意味じゃなかったんだな」となる。寄生○や○○ミ男で見られるやり方。


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