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第1話 どうやら、異世界に来たらしい

 光が消えたと思ったその直後。俺はゆっくりと目を開けて、辺りの情景を見た。


 足の辺りが温かい。お湯、のようだ。かなり広い、おそらく大浴場と言った所だろう。もくもくと立ち込める白い湯気が、少しばかり俺の視界を邪魔していた。


「なんだよここは……」


 俺はそう言って頭をかいた。

 ぬるり。俺の手に、何かいいようもない、気持ちの悪い感触が走った。

 驚いて手を見てみると、緑色の粘液。油のようにたらりと垂れるそれに、俺は顔をしかめて全力で振り払った。


「うわっ! 気持ち悪! なんだよこれ、いつこんなのついたんだよ!」


 そして手を振っているともう一つのことに気がついた。


「つーか俺裸じゃん! なんで!? さっきまで服着てたじゃねーか!」


 いくつものわけのわからない現象に頭を抱える。全身緑色の粘液で濡れている、まるでこの中に浸かっていたかのようだ。

 だが今一番必要なのは、そんなことを気にすることじゃない。ひとまずはここがどこなのかを知らないと。大浴場、だけじゃ状況を把握できない。


「つーか、ここ女湯とかじゃねーよな……」


 そう言って辺りを見回す。そして俺は、見つけてしまった。

 豊満な胸と白い裸体を腕で隠す、1人の女の子を。


「あ……?」


 顔を赤くして震えている。ドリルのような金色のツインテールの、変な髪の女の子。

 少し釣りあがっているが大きな目。柔らかそうな肌。見るほどにかわいさが際立つ彼女に俺は、

 少し、とんでもない事態になった。


「あ……」


 お互い裸で、俺は伸び上がっている。女がそれを震えながら見つめている。あまりに気まずい雰囲気が浴場を包んで、俺も顔を赤くしてしまう。


「えっと、よ……。食べる? 俺のソーセージ」


 何を言ってるんだ俺は! あまりの馬鹿らしい発言に頭がグルグル回る。直後、


「キャーーーーー!!!」


 女はつんざくような悲鳴をあげた。


「ちょ、ちょちょちょっと待て! 俺は変態なんかじゃないぞ!」


 俺は誤解を解くため女に一歩近寄った。女が後ずさり、恐怖で目が染まる。その時、


「何事ですかお嬢さま!」


 黒いメイド服を着た銀髪のセミロング女が、風呂場の中に入ってきた。そいつは俺を見た途端血相を変えて臨戦態勢に入る。


「貴様、何者だ!」

「おいおい、俺はただの一般人だ! 別に変な奴なんかじゃねーよ!」

「浴場に緑の体液垂らして裸で入ってくる奴が、普通の者とは思えない!」

「そーかもだけど! とかく俺の話を聞けって!」

「問答無用!」


 クソ、話を聞かねーバカが! 俺が内心毒づいたその瞬間、銀髪は俺に杭のような物を投げつけた。手裏剣か、こんな物!

 俺は手の平をそれにかざして意識を集中させる。すると手裏剣は動きを遅くしてすぐに止まる。銀髪が「なに!?」と驚く声が響く。俺は意識を手裏剣から離して、お湯の中へボロボロとそれを落とす。


「あぶねーじゃねーか!」


 俺が叫んだその瞬間、銀髪は俺の目前に迫ってきていた。どこから取り出したのか、ナイフをしっかり持って俺へと刃先を向けている。

 ドン、と弾けるように先端が俺へと迫った。俺は咄嗟に狙い目の胸へ右手を持って行き、意識を集中。ナイフが見事に、俺の手の前で止まった。


「き、貴様一体……!」


 女がそう呟いた直後。余っている手の服の裾からナイフを出し、それを握ってさらなる攻撃。


「てめぇが攻撃してくんじゃ、仕方ねーよな……」


 俺はそう呟いた直後、敵のナイフを、超能力を使わず左手で逸らした。銀髪が目を丸くする、俺は奴の顔を睨みつけ、そのまままっすぐ左手を鋭く伸ばした。

 拳が顔に激突する。瞬間に意識を込め、念力を発動させる。女はそのまま、俺の拳に押される形で後ろへと吹き飛んで行った。


「手加減はした。いきなり攻撃してくるお前が悪いんだぞ」


 銀髪は、鼻から血を流して俺を睨んだ。お湯で服が濡れている、奴は体を震わせながら俺をなお攻撃しようと立ち上がる。


「まだやんのか。一応言っとくが、俺はあんたらを殴るつもりはない」

「そんな言葉が信じられるか!」

「信じてくれって。だいたいよ、俺が本気を出せばお前なんざすぐにボコれる。それをしてないってことは、俺は敵意を持ってないってことだろ?」


 銀髪は俺を見て、不満気ではあるものの少し納得したような顔をした。俺はため息を吐いて、とりあえず隅っこで怯えている金髪の女と銀髪に言う。


「お前らに聞きたいことはただ一つ。ここは一体、どこなんだ?」


 俺のその言葉を聞いたその時。2人はなにやら、あっけらかんとした表情になっていた。


◇ ◇ ◇ ◇


 あの後、汚い粘液を洗い流してから2人に部屋へと案内された。バスタオルで体を隠しながら西洋風の廊下を歩いていた時、やたら家が広くて豪華だったから良いところのお嬢さん、というところまではなんとなく理解していた。

 そして今。男性物の、フード付きの緑色の服を借りて、人生初の女の子の部屋にいる。


 内装は結構豪華だが、廊下を歩いていた時のイメージからしたら少し貧相にも思えた。ベッドは別段大きくない1人用、大した飾り付けもされていない。家具に関してもただの木製のタンスや小さな机などがあるだけで、少し無理をすれば普通の人でも買えそうな、そんな程度だった。せいぜい床や天井、壁が規格外に豪華なことくらいが特徴らしい特徴だった。


 ジロジロと辺りを観察していると、銀髪の女が「それで、あなたは何者ですか?」と尋ねてきた。


「俺は三浦隆也。名前の感じからわかるだろうけど、日本人だ」

「……ミウラタカヤ、ニホンジン? 変わった名前と種族ですね」

「え? 日本くらいわかるだろ、何言ってんだあんたら?」


 2人は怪訝な顔でお互いを見合っていた。そして、金髪の女が喋り出す。


「ちょっとあなた、どこかで頭でも打ちましたの?」

「なんだよその『あら、かわいそうな子。きっと現実と空想の区別もついてないんだわ』みたいな言い草はよ!」

「だってわたくし、自分でもかなりの知識を持っている自信がありますけど、あなたの言う『ニホン』なんて土地聞いたことがありませんわ」

「何言ってんだよ! 日本って言えば世界屈指の先進国、聞いた覚えがないわけが――」


 ――待てよ? 俺の頭に、大きな閃きが走った。

 日本という国を知らない人たち。そしてよくよく考えれば、金髪の女はともかく銀髪のメイドというありえない髪色。西洋風の廊下。何度も見てきた既視感が、頭をよぎっていた。


「……なあ、あんたら。魔法って、使えるか? 手から火とか氷とか出す奴」


 それを聞いて金髪の女がビクリと身を震わせた。俺はそれが少し気になったが、直後に銀髪の女が慌てたように俺に語り掛けてきた。


「私が見せます。魔法、とは違いますが」


 そう言って銀髪は、人差し指をピンと立ててそこから氷の枝のようなものを作り出した。俺はその光景に目を奪われる。


「お、おぉ、なんというか、すげぇ! ……でも、魔法じゃないってどういうことだ?」

「それくらい常識でしょう。魔法は魔物が使う物で、私たち人間が使う方は“人法(にんぽう)”と言うのです」

「……詳しい違いは知らねーけど。とりあえず、そういう不思議パワーがあるってことがわかれば十分だ」


 俺の顔が思わず笑う。言葉からしてこんな力が常識の世界。それが指し示すのは、ただ1つ。

 ここは異世界だ。俺が住んでいた現代とは別の、ファンタジックな世界。それさえ知れたら、俺は十分だった。

 神様から力をもらったわけじゃない。でも、俺の中にある、異能とも呼べる強大な力。それがあればそれだけで、俺はこの世界を勝ちあがれる。確かな自信が、俺の中に生まれていた。


「やっと始まったか、俺の異世界成り上がり逆転人生――!」

「あなたは何を言っているんです? 異世界って。それにしても不思議な人ですね。魔法と人法の違いも知らない、私たちの知らない不思議な力を使う。……本当に、あなたは何者なのですか?」


 銀髪が俺を訝しんで見てくる。だが俺にとってそんなのは知った事じゃない、とにかく今は憧れの異世界に来た、それが重要だった。


「まあ俺のことはよ、異世界からこの世界を救いに来た勇者って思っていてくれ」

「突然自分を勇者とは、やはりおかしな人です。勇者はもう別の人がいますから、必要ないですよ」


 なかなか嫌味な言い回しをする女だ。俺は銀髪に苦手意識を持った。

 しかし――勇者が他にいる、とは。となるとこの世界を救うために美少女が召喚したという線は薄そうだ。

 となると、一体誰が、何のために、俺をここに連れてきたのか? はたまた偶然か――。俺は自分がここに来た理由に思考を巡らせた。


 しかし、考えてもわからない。考えてわからないのなら、別のことを考えた方が堅実的だ。俺の思考は自然と、この世界でやりたい事に向いていた。

 自分の超能力。それを使って無双し、多くの人から注目されて、いつかハーレムを築き上げる。成り上がって美少女に囲まれる未来のビジョンが俺には確実に見えていた。


 となると――俺は目の前の2人を眺める。

 ここで疑問符を浮かべている2人の女。どちらも整った顔立ちの美少女で、流れから考えると彼女たちがヒロインだろう。異世界で初めて会った人という事もあって、俺はこの2人と仲良くしようと考えた。


「まあいいや。とりあえず、お前ら名前なんていうんだ?」


 金髪が俺をジットリした目で見たまま、「ルナですわ」と言う。銀髪も同じ態度で「ミーナ」と一言。


「ルナにミーナ、か。よし! 袖すり合うも多生の縁ってことでよ、よろしく頼むわ!」


 俺は笑って、2人に握手を求めた。2人は若干嫌そうな顔をして、俺の手を握らないまま「よろしく」と軽く会釈をした。

 ま、まあ最初はこんなものだろ。俺はこれからの生活に、期待を隠せなかった。

【技術解説】

□伏線

第1章だけの伏線と、メインストーリーの伏線。両方がこの1話で張られている。詳しくは僕の伏線についてのエッセイ参照。ちなみに第一章の伏線は「それを聞いて金髪の女がビクリと身を震わせた。」が該当。これも僕の定義に従えば、伏線として扱える。


○書いていいのかわからないが一応書く

これはネタバレでもあるが、ヒロイン2人が主人公を嫌がっているのはそういう演出。後につなげるため、とでも書こうか。

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