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第17話 勇気を失い、恐れを生んで。

「おいおい、それって……マジ、なのかよ」

「証拠自体は希薄です。しかし、ほぼ間違いないでしょう。――確かに冷静に考えれば、城の爆破なんて事があれば騎士たちが飛んでくるはず。なのに無かった時点で……いや、それ以前に王妃がルナをさらったことからすぐにでも……」


 ぶつぶつと。ミーナは何かを思案して呟いていた。だが、俺は。そんなことよりも足が震えて、声が震えて。


「これってよ、死ぬほどヤバいんじゃねーのか?」


 よくわからないうちに、声を出していた。


「やばい、確かにそうです。しかし、ルナの命がかかっています」


 ミーナは俺の声を無視して、ローブの女の胸元を掴んだ手をギリギリと握り。


「答えろ、ルナはどこにいる?」


 その目を睨みつけて問いた。だが女は一向に喋らない、しばらくにらみ合いが続いた後。


「答えなければ、強硬手段も辞さないぞ?」


 ミーナの目から光が消えて、平然と言葉を詰めた。


「だ、誰が答えますか! 殺すなら殺せ! 王妃に誓った忠誠を、私がそんな簡単に――」


 直後に女の足にミーナがナイフを突き刺した。同時にこだまする、女の悲鳴。俺は酷に徹した彼女を見て、ぶるりと思わず震えてしまった。


「殺してもらえるなんて選択肢はあなたにありません。早く答えなさい」


 突き立てたナイフを何度もねじって。ミーナは出てくる血を気にも留めていなかった。ぶしゅり、ぶしゅり、そんな変な音を立てて血は噴き出す。もはや女は声も出せず、何とも言えぬうめきを口からひねり出す。


「ぐあぁ……よ、よんかい……隠し、部屋から行ける……!」


 とうとう女が音をあげ情報を漏らした。それだけを聞いてミーナは、


「ありがとうございました」


 感情のこもっていない声の後、女の足をもう一度、えぐった。女はそのまま足を抱えてうずくまり、もはや動けない状態だった。


「これで追撃の手は止めました。――ルナの居場所もわかりました。行きましょう、タカヤさま」


 ミーナはそう言って走り出そうと足を踏み出す。だがその時俺は、なぜかうつむいて動けずに。俺の様子を見てミーナがこちらを向いてきた。


「何をやっているのです、早く行きましょう」


 急かす、急かされる。ドッドッドッ、何の音かはわからないが内から脳へ漏れ出てくる。俺はその背中が冷える不快感を腹にまとって、ゆっくり口を開いて――


「まだだ」


 はっきりとそう言った。


「まだ考えないといけねーことがある。敵はかなりの人数だ、正直無策じゃどうしようも……」

「タカヤさまの力があれば、私と協力して打ち倒すこともできます」

「いや、待てよ。ホラ、あの水晶! あれを敵が全員持ってたら力なんて使えねーぞ? ただの殴り合いじゃいくらなんでも勝てるわけが……」

「ですが今、策を考える暇はないのです。早くルナを助けなければ、彼女がどうなってしまうか……」

「わかってるよんなこと! でも聞けよ!」


 俺が叫びをあげると、ミーナは俺を驚いたように見開いて口を結んでしまった。


「このままなんの準備もなしに行けば確実にやられる! 犬死ってことだ! それはいくらなんでもまずいだろ? ルナだって望んでないはずだ! だからよ、まずは準備をして……そうだ、水晶の力を抑える方法とか考えねーと! となると要はお前ってことになるよな……そうだ、俺はお前のサポートに回るからよ、力が使えなくなったら頑張ってくれよ、それが一番だ。だから、ホラ、とりあえずまずはよ……!」


 焦り、焦り、何に焦り? そんな調子で言葉を連ねて連ねていくと。

 ミーナが唇を噛んだかと思った直後。


 パン。


 彼女は俺の頬を、強く、泣きそうな顔で叩いた。


「……見損ないましたよ、タカヤさま」


 少し赤くなった頬を、押さえて。俺は彼女の震えた声を、聞いていた。


「怖いのなら、怖いと堂々と言ってください。変にごまかされるより、何倍もせいせいします」


 俺は「ち、違う……」と、力なく、かすんだ声で呟いた。だがなぜか、見透かされているような、本質を突くような。彼女の言葉は受け入れ難かったが、でも、なぜかそれが正しいと。


「格好つけないでください。冷静に考えれば、心を読んでいれば情報なんてもっと簡単に早く集められた。なのに、まるで逃げるようにそうせずに。……おおよそ、自分の力が通用しないかも、と考えたら怖くなったというところでしょう」


 俺はなにも言えなかった。


「私は、タカヤさまの言葉に救われました。私の役を、一緒に背負ってくれると笑ったタカヤさまに。……でも、タカヤさまが抱いていた感情は。自分が安全な位置で、自分の望む物を手に入れることだった。……今ではそんな風に、思えてしまいます」


 俺は、なにも、言えなかった。


「――逃げたいのでしたら、お逃げください。……私は、最後までルナに仕えます。たとえその先が地獄だったとしても」


 そう言うと、ミーナは。俺から離れていくように部屋から出て行った。残された俺は、ぽつんと部屋で1人立ち荒んだ。


『タカヤさまが抱いていた感情は。自分が安全な位置で、自分の望む物を手に入れることだった』


 ミーナの言葉が頭を巡った。


『怖いのなら、怖いと堂々と言ってください』


 ミーナの言葉が、頭を巡った。


『――逃げたいのでしたら、お逃げください』


 ミーナの、言葉が……


「……そうだよ。怖い、怖いんだよ、俺は……」


 俺は次第になにも考えなくなっていて、知らない間にそう口を開けていた。


「怖くて、悪いかよ。そうだよ、俺だって……俺だってよ。それに、俺が望んだものは……」


 俺は口を噛み、そのまま息を荒げて、下の階へ、下の階へと逃げ出して行った。

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