第15話 騒動の始まり
月明かり。それだけが辺りを照らす中、俺は中庭で呆然と空を見上げてたたずんでいた。
綺麗な空だ。俺の心は何かで満たされていた。今まで感じたことのない、満足感。それを噛み締めてずっと笑っていると。
「約束通り、来てくださったのですね」
俺の後ろから声がした。振り返ると、そこには綺麗に銀髪を輝かせたミーナがいた。
「それにしても、私より早く来てくださるなんて。……待たせてしまいました?」
「い、いや。……今来たところだ」
なんか、言葉選びがデートのそれに似ていた。どうしても意識してしまう。
「それで……呼んだ理由ってよ、なんだ?」
「いえ。……理由なんてないんです」
俺は頭をガリガリとしながら、「え?」と惚けた声を出した。ミーナはふふふ、と口を押さえて笑いながら、隣にやってくる。
「タカヤさまは、昼はいつもお嬢様……いえ、ルナと一緒にいるから。少し羨ましくって、私も独占したいなって」
「ちょっと待て。なんかお前、口ぶりが怪しいぞ。今まであんなに嫌ってたくせに突然……」
「いいじゃないですか。どんなに違和感を抱かれても、これが私の本心なんです。――タカヤさまが言ったのですよ? 私の心を、全部知りたいって」
彼女の顔は、ちょっといたずらっ子のように舌を出して笑っていて。俺の顔に血流が巡り、顔が、体が熱くなる。
「それって、お前……」
「はい。タカヤさまは、私の役を一緒に背負うと言ってくれました。あの時の言葉、すごく救いになったんですよ」
ミーナが、その先の言葉をもったいぶるように。照れたように笑ったまま、俺の方をじっと見つめた。目が優しくって、でも何かもじもじしてて。俺は黙って彼女の顔を見つめたまま、ごくりとのどを鳴らした。
「タカヤさま。私、タカヤさまが――」
と、直後。
「キャアアアアア!」
悲鳴が、響いた。声のした方向はルナの部屋、そして声の主はもちろんルナ……俺とミーナの顔が、一気に強張った。
「なんだ、なにがあった!」
「お嬢様の身に何かあったようです。急いで戻らねば!」
ミーナがそう言って駆け出したのを、俺はすぐに念力を発動させ捕まえ引き寄せる。彼女をしっかりと腕の中で抱きかかえた後、ミーナは俺に驚いた眼を向けた。
「タカヤさま、何を……」
「こっちのがはえーって言ってるんだよ」
そして俺は少し身を沈ませた後、ダッと飛び上がり一気に空へ。3階の高さにまで上昇した後、窓を割って中へ飛び込む。
「ちょ、タカヤさま! 誰かが起きたら……」
「知るかんなモン!」
俺はそう叫んだ後、ミーナを降ろして「行くぞ!」と共に駆け出す。そして走り、走り、ルナの部屋へ。
ドアをノックすることもなく、バンと一気に押し開ける。と、俺たちの目に映ったのは。
気絶したルナを脇に抱えた、あの王妃が笑い立つ姿だった。
「おま、何してんだよ……!」
「愛娘を抱いて何が悪いのでしょうか?」
王妃は、平然と答えて。俺がそのあまりの冷酷さに思わず口ごもると、ミーナが焦ったように。
「王妃さま! その人はあなたの娘です! 一体何をお考えに……」
「あなたは黙ってなさいミーナ。また鞭打ちの刑に処すわよ」
俺は受け答える奴の言葉を無視して反射的に思考を読む。と、俺は王妃の考えが読めてしまった。
「てめぇ、マジかよ……。希少で高価な宝石を手に入れるために、交換条件のルナを捕まえる……? お前、親として……いや、人として恥ずかしくねーのかよ!」
「こんな子くらいであなたは何を熱くなっておられるのかしら? 私にとって、この子は宝石より劣る。それだけのこと」
直後、俺は「てめぇ!」と叫び右手を相手に向けた。直後、王妃がスカートのポケットから尖った水晶を取り出し、したり顔で俺を見下した。
その時。俺の中に大きな違和感が――
「死ぬがいいですわ」
王妃がそう言った直後、俺は危険を察知し後ろへ飛んだ。と、俺の目の前に一本の大きな氷柱が現れ、それは部屋の天井を貫きそびえ立った。
あぶな、かった。もしも、この時の直感が出なかったら。俺は串刺しにされて、死んでいた。
「ルナ! 今助けます!」
ミーナがそう言って駆け出そうとした瞬間。俺の中に、ぞわっと何かが生まれて。
俺は走り出そうとするミーナの手を取り、ダッとルナの部屋から飛び出した。
「何をするのですか、タカヤさま!」
「いいから来い! さっき思考を読んだ! お前も狙われてるんだよ!」
嘘じゃない、本当だ。俺は確かに、ルナとミーナ、2人を条件に宝石は交換されると奴から聞いた。
だが、よくわからない。なぜそんなことを、じゃない、俺の今の気持ちが。
これが良い判断、これが最良の選択。俺はその気持ちを何度も何度も胸にわかせて、ただひたすらに走って“敵”の前から逃げ出した。
◇ ◇ ◇ ◇
逃げて、逃げて、逃げて、階段を駆け下りて、ちょうど1階まで降りたところで。
「タカヤさま!」
俺の手を、ミーナが振り払った。俺は、ハァハァと息を荒げたまま彼女の疑うような顔を見た。と、ミーナが、
「なぜ突然、逃げ出したのです?」
俺にそう、問いてきた。俺はしばらく息を吸っては吐いて、そしてやっと言葉を紡いだ。
「俺の能力が――発動、しなかった」
それを聞いて、ミーナが目を見開いた。
「どういうことですか?」
「念力を使ってあのババアを持ち上げようとしたら……何も起きなかった。クソ、おかしいぞ……なんであんなときに限って……」
その時一瞬、俺は自分の力が無くなったと考えた。ふと、壁にかかっているろうそくを見る。火がついてて、ゆらゆらと揺れている。
俺はそれに手のひらを向けた。少し意識したら、ろうそくは真ん中からぽきりと折れてふわふわと浮く。
力は消えていなかった。能力は使える。じゃあ、なんであの時――。
「力が消えたわけではない、ということですか……」
ミーナが俺の様子を見てつぶやく。すると彼女はすぐに、俺の疑問に答えを出した。
「もしかしたら、王妃はタカヤさまの力を打ち消す方法を持っているのではないでしょうか?」
「力を打ち消す方法?」
「はい。それはおそらく、王妃が取り出した例の“水晶”です」
俺はそれを聞いて合点がいった。確かに、あの王妃とやらは水晶を取り出して、そしたら力は使えなくなった。
おそらくそれが正解だ。でなければ、王妃からルナをかばったあの時に俺はテレポートなんて使えなかったはずなのだから。
……いや待て、そうなるとつまり――
「ちょ、ちょっと待て。俺はそもそもこの世界にいなかった存在だぞ? それに、超能力だってこの世界には無い。だとしたら、なんで俺の力を封じる手段がそんな世界に――」
「それはわかりません。もしかしたら何か、大きな秘密があるのかもしれません」
ミーナはそういった途端、袖からナイフを出して一気に気迫をまといだした。
「いずれにせよ、今はルナの救出が優先。タカヤさま、行きましょう」
ミーナがそう言って走り出す。だが俺は、走り出せなかった。頭に何かが、ネットリ張り付いて、それが地面に足を縫い付けていた。
「ちょ、ちょっと待て」
そして俺は、自分でもよくわからないうちに声を出していた。
「なんでしょうか?」
「お、俺の力を封じ込めるなんて……そんなことできる物を持っていた奴が、この城の中にいたってことだよな?」
「……確かに、そうですね。でなければ、王妃はこれまでの間にあなたの力を押さえていたはず。――それをしていなかったということは、別の誰かがタカヤさまの力を封じる術を教えた、と考えるのが妥当です」
「そいつは、かなりヤバいんじゃねーのか? だってよ、俺にも説明が付けられない力を封じ込めるんだぜ? 未知の技術が、あの王妃に渡されたってことだ。ってことは――バックについている奴らは、さらに未知の技術を持っているってことだ」
「何が言いたいのですか?」
「だから、よ――今ルナの所へ行ったところで、下手をしたらバックの連中にやられて犬死にだ。ルナも助けられない。だからまずはその情報を集めないと……」
俺はなんとか言い切ると、ミーナは少し考えて。
「時間はないですが、仕方ないです。――ひとまずは考えましょう。奴に対抗するための手段を」
ミーナの言葉を聞いて俺はどこかホッとしていた。そうだ、まずは情報を集める。それがセオリーだ、当たり前だ。俺の力を、封じ込められないように――。
直後、3階から大きな音が響いた。爆発音、一気に城が揺れて耳が痛くなる。それを皮切りに、城の中にいる人たちが一気にドアから駆け出した。
「何が、あったのです!?」
ミーナが叫ぶ。周りの喧噪が大きくなる、騒ぎが、広がる。直後、俺は窓からあり得ない物を見てしまった。
「おいおい、この世界ってあんな物あるのかよ――!」
空からバタバタと音が鳴る。浮いたそれは大きな影を作って、その場所に滞空している。
巨大な飛行船――。茶色い機体の見てくれは、ファンタジックだがこの世界とは不釣り合いなほど技術に塗れていた。
【技術解説】
○展開速度について
遅すぎると問題ですし、早すぎても問題です。これは個々人で感じる程度でしかわからないので、自分で考えなさいと。
ただ、一定の条件はあって。その条件を語ることはしませんが(つまり自分で考えてということです)、「文章力(=演出力)と展開のさせ方」で大きく変わると思います。
○盛り上がりについて
説明はしません。ただ、これを書き終えた時、「あ、盛り上げにめっちゃ成功している」と思ったのでヒントを。
この話の全体の流れを考え直して見てください。何が重要かの答えの一つが見えてくるはずです。