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第14話 『本心』で。

「本当にあの子たちを差し出すだけで、これほどのモノをもらえますの?」


 少し歳のいった女性が、目の前の男に問いかけた。豪華絢爛なドレスの彼女は男が見せた袋に目を奪われ、ジッとそれをニヤニヤとしながら見ていた。


「ええ。貴方様が私共に協力していただく、それだけで、この袋の中身は貴方様の物です」


 男はそう言うと、不気味なほどに口角を上げてニヤリと。女性がそれを聞いて満足そうに「ふむ」と頷くと、1つ、語り出した。


「しかし、問題があります。あの子たちをいたく気に入り付き添う1人の少年……。彼は、大層妙な力を扱うとのことで。それをなんとかしない限り、到底……」

「そこも、対策はバッチリです」


 男は懐に手を突っ込み、そこから1つの物を取り出した。

 トゲトゲとした、水晶。澄んだ川のようなそれを目にして、女性は訝しんで男に尋ねた。


「それはなんですか?」

「これはまあ、例の少年対策用のアイテムと言ったところでしょうかね。神通力を込めれば発動する代物です。ただし、一度使うと再使用には30秒ほどかかりますがね。……ただし、このアイテムであの少年を、止められるとは思わないことですね」

「それはどういう?」


 男はそう言われて、一瞬口を開いた。が、すぐにすぼませて、ため息を1つ。


「言わないでおきましょう。そちらの方が、貴方様にも有利です。まあ言えるのは、“気付かれたら終わりだ”まででしょうね」

「……よくわかりませんが。とにもかくにも、それにわたくしの神通力を込めればあの子への対策になる、そういうことですね。……わかりました。

 全力を持って、捕らえましょう。あの子たちを……!」


 女性は。暗い笑みを浮かべて、邪気を全身から醸し出した。


◇ ◇ ◇ ◇


 翌朝、突然俺の上にかかっていた掛け布団がガバッと剥がされて、俺は大きく変わった体感温度に身震いした。


「こんにちはですの、タカヤ」

「ああ……おはよう……って、こんちは?」

「もうお昼前ですの。10時を超えているですの、いい加減起きないと体調を崩しますわよ」

「んぐぐ……。まあ、寝すぎなのは確かに怠くなるもんなー」


 俺はそう言って上体を起こし、大きく伸びをしながらあくびをだした。と、後ろの物に気が付いて振り返る。

 机の上に、食事が3つ。いつも食べている、ルナとミーナと、俺の分。作られてから時間が経っているようで、もう冷めきっていた。


「……俺のために、待っていたのか?」

「ち、違いますの! わたくしも、そう! 寝すぎたのですわ! だから決して、他意はなくて……」


 ルナが大慌てでごまかしていると、突然ミーナが。


「お嬢様は、タカヤさまが起きるまで食べないと意固地になっていたんです。わざわざ作り直すのももったいないですし、だから、こうして待っていました」


 今までのミーナとは声色が違っていた。明るくなっていて、はきはきとしていて。俺は彼女の中にある何かを降ろしてやれた気がして、思わず笑ってしまった。


「そうか。センキューな、2人とも。まあ、冷めちまったけど食べようぜ」


 俺の一声に、ルナとミーナが「ですわね」、「はい」と答えた。遅めで冷めきった食事。でも、誰かと食べる味。俺はそれを生まれて初めて、心の底から味わった。


◇ ◇ ◇ ◇


 食事の後はベランダで、どこまでも広い青空を見ていた。空を雲が流れていって、それを見るのがなんだか楽しくて。俺はずっと笑っていた。


「失礼します」


 と、後ろからまたミーナの声。隣に立って、同じくして空を見上げる。彼女は少しだけ、頬を赤くして。何やら俺に、語り掛けてきた。


「昨晩は本当に、ありがとうございました。……おかげで、荷が降りた気分です」

「ははっ。そんな大したことじゃねーよ。わかって欲しい、なんて、俺にもあることだからな」

「私は……タカヤさまを、勘違いしていました。口を少し悪くしますが、欲におぼれた猿と。頭の中をのぞけば、おそらく女性のことばかりだ、と」

「イヤ、ソンナコトナイヨ? 俺は純真で純粋で清純なオトコノコだよ?」


 それを聞いて、ミーナがクスクスと笑って。


「また、下心が見えますね」


 なんで、わかるんだ。俺は自分の中に生まれた想いを簡単に見透かしてしまう彼女に苦笑いした。こいつ、俺の心が見えるのか?


「心が見えるわけではないです。タカヤさまは、わかりやすいんです。感情が、すごく」

「俺って、そんなに顔に出る?」

「ええ、とても」


 と、俺はため息をついて塀に突っ伏した。女性に嫌われやすいこの性質をどこかで呪っていると、ミーナが「ただ……」とまた笑いかけてきた。


「私は。タカヤさまのその、いやしい部分も含めて、信頼しようって思いました」


 俺はそれを見て、またドキッと。彼女はなんでこんなにもかわいらしく笑うのだろう。――きっと、今までの冷ややかな顔とのギャップなんだろうな。俺は頭を掻いて感情をごまかした。


「あ、ありがとよ。……でも、その発言はなんか……アレだから、やめてくれ」

「照れるんですよね。わかります、私も少し照れてます」


 またこんなことを言う。俺は頭をさらにガリガリ掻いて、「はぁー……」と大きく吐く。と、ミーナが俺に顔を近づけて。


「1つ、アドバイスがあります」


 そう言って、指をピンと一本立てた。


「タカヤさまは、バカなんです」

「わーっとるわ」

「だからどうせ、あれこれ考えて人に好かれようなんて思ってもできないんです。だって、バカだから」

「うー……それを言って何が言いてーんだよ、お前は」

「そうですね。私が言いたいのは――“どうせバカなんだから、何も考えないで人と向き合えばいい”ってことです」


 俺はそれを聞いて、意味が分からなくってミーナを見た。眉間にしわが寄る。と、彼女は。小悪魔のように笑顔のまま、ウィンクをして。


「私たちと真剣に向き合ってくれた時の、あの姿。何も考えず、本心で全てを語るあの姿。私は――あの姿を見るのが、本当に、大好きなんです」


 よく、わからなかった。彼女の言葉に、俺はイマイチピンと来なかったけど。でも、彼女からの好意はすごく感じて。

 なんだろうか。今まで感じたことのない感情だった。純粋に意識してしまう。異世界に来たらこんなことが起こって欲しいって願っていた俺だけど、いざその立場になると途端に恥ずかしくなってしまう。俺は彼女から目を逸らすように、明後日の方向を見て頭を掻きむしっていた。

 すると、彼女はなにやら笑いながら、俺に話しかけてきた。


「タカヤさま。私はそろそろ、仕事に行かねばなりません。その間、ルナを頼みますね」

「――あ、ああ。あたりまえだって」

「それで、夜になったら。……中庭へ、来てくれませんか? 私、まだまだ話し足りないんです。あなたともっと、話していたいんです」


 俺はそれを聞いてますます照れて。


「お、おう。……中庭、わかった」


 ガリガリガリガリ。頭を掻きむしって答えた。それを聞いてミーナはふふふ、と笑い、「では、また夜に」とベランダから出て行ってしまった。


【技術解説】


○ご都合主義

できるだけやらないほうがいい技術ではあるが、これをやらなきゃ話が進まないところが多々ある。そんな時は、無理に話を作って回りくどくなるよりもご都合主義で多少の違和感を出しつつ話のスピード化と話のスムーズさの増加を図りましょう。ご都合主義自体が少しスムーズさを減らしますが、「やったほうがマシ」な事態もよくよくあります。だから必要あれば使いましょう。

ただし、「度がすぎる場合はやめておいたほうがいい」と言っておきましょう。


○メインストーリー

今回はいろいろ話が進みましたね。なんでタカヤの力のこと知ってるの? だいたいお前誰? あとタカヤをなんで知ってるの?

などなど。気になる点はありますね。こういうのは早い頃から書いておくと良いですよ。先を考えているアピールにもなりますしね。

しかし残念ながら、この連載小説ではメインストーリーを見せることはできません。なぜなら、第1章のみの公開だから。練り込みまだ甘いし。結構死ぬ気で書いてますのよん?



◇主人公について

これの1話から読んでて真っ先に思うのは「あ、コイツすっげぇうざい」ってこと。僕もこの物語の主人公はクズ野郎だと思ってます。うざいし。

つまり。僕はこの主人公の性格を、うざさを、認識しているのです。これは「していない」のとでは大きく違います。

なぜなら、「うざさを理解したうえでの演出をしているか」ということに大きな差が出るから。

他のモノに関しても同義です。ルナやミーナに関しても、僕はいろいろ思ってます。その上での演出をやろうと画策しています。

たとえば、ミーナは感情の起伏が激しいとか。常識人である程度聡明だけど、惚れっぽかったり都合が良かったりとか。

たとえば、ルナは頭良いし努力家って設定だけど、実際は現実から目を背けようとしているとか。(まあこれは仕方ないけど)第一印象で人の評価を大きく決めてしまうとか。後は、見方によっては彼女は「助けられるのを待っているだけで何もしていない」ともとらえられるかも。


第一章のみの公開のため、ルナやミーナの問題点に関してはあまり触れられていない……と思いますが(特にルナ)。後の話を作るときは、まあ間違いなく彼女らの性格的な問題は組み込むでしょうね。改善するか否かは……プロットによります。

自覚しているのとしていないのとでは、大きく違うと思っています。これは慣れて感じる力のため何も言えませんね。

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