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第9話 ツンデレ姫と白馬の野蛮人

 時間が経って夜になり。俺は風呂から上がって、着替えをしていた。

 ルナにもう一着同じ見た目の服を借りて、それを着替え用のカゴに入れていた。でも、なぜかカゴの中に服はなく、俺はズボンとパンツ、そしてシャツだけを着て廊下を歩くハメになってしまった。


 メイドさんたちの視線が痛い。俺は目つきが悪かったり顔が爽やかイケメン風ではなく男臭いこともあって昔から「野蛮」という評価を受けてきた。そんなワイルドな顔つきの俺が、上半身をシャツだけで歩く。妙なおっさん臭さに気が滅入った。


 そして扉の前にたどり着き、俺はルナの部屋に押し入った。


「ルナ! お前、俺の服取ったな!」


 ちょっと不機嫌さを醸し出して放った言葉だが、ルナはなんとも思ってないように「ごめんですわ」と謝った。正座するように座って俺の服をいじっている。てめぇ……。


「服を取るならよ、せめて言っておいてくれよ! おかげでシャツだけで歩くおっさんみたいじゃ……。

 何やってるんだお前?」


 針を持って、チクチクと緑の服の袖に何かを縫っていた。ワッペンのようなものだろうか?


「なんでもいいですわ。わたくしの戯れですの」


 ルナはそう言ってプイッとそっぽを向く。俺は怪しさ満載の彼女に意識を集中させて、その思考を読む。

 流れてきた言葉は、あのワッペンのようなものはルナが作った「ヒーローの証」ということを示したモノ。俺はつい、プッと笑ってしまった。


「わざわざそんな物作らなくていいのによ。しかも手作りって」

「タ、タカヤ! わたくしの思考を読んだんですの!?」

「ああ」

「違いますのよ? これはわたくしの戯れで趣味、そ、そうですわ! ワッペンやアップリケなどを作る練習をしてましたの! 縫い付けているのは勝手で、別に好意とかでは……」

「んなもん思考を読んだ時わかった。お前は俺に恋してるわけじゃなく、それは俺のためにわざわざ作った物で、風呂場からわざわざ俺の服を取ってわざわざ縫い付けてるってことも……」

「違うって言ってますの! 殴りますわよ?」

「おー、こわいこわい。しかし、よくよく見ると凝ったデザインだな」


 俺は縫い付けられているそれを見る。盾の真ん中に、王冠を被って剣を掲げた、馬にまたがるマントの男。白で表されたそれは、まさに白馬の王子様。


「ほうほう、俺を王子様と認めてくれるのか」


 直後、ルナは顔を赤くしながら俺の脛を殴りつけた。座っているのにナイスパンチ、俺は走る衝撃に涙を浮かべた。


「ガァァー! てめ、いってーじゃねーか!」

「鍛え方が軟弱ですわ。脛が弱いですと蹴り技の時にどうするつもりですの?」

「俺は脛固い方なんですー! ローキックがあれば超能力なくてもラスボス倒せる強さがあるんですー!」

「痛がり方から考えるとそうとは思えませんわ。体も普通ですし」


 俺はそう言われて自分の体を見た。

 ……おかしい。確かに腹筋とか多少は割れてたし、筋肉ももっとあったはずだ。でも今は、そこまで大したレベルじゃない。

 首をかしげてこの疑問を考える。答えが出ないで唸っていると、ベランダから「タカヤ様」とミーナの声が聞こえてきた。


「少し、お話をしたいのですが」

「ああ、いいぜ」


 俺はルナと握手を交わしたあのベランダへと歩く。

 ベランダへ出ると、ミーナは空を見上げて少し長めの銀髪をゆらゆらと揺らしていた。ゴスロリチックな黒のメイド服がよく似合う、そんな彼女は真顔で綺麗な月を見つめていた。


「隣へ来てください」

「お、おお」


 俺はミーナの隣に立つ。と、ミーナはため息をついてから口を開いた。


「あなた、お嬢様と何がありました?」

「何って……別になんもねーけど。なんで?」

「お嬢様が、あのような紋章を作るのは初めてです」


 ミーナの言い方はどこかキツかった。未だ彼女には踏み込めていないと痛感して、俺は苦々しく顔を笑わせる。


「そうなのか。俺はてっきり、お前には作っていると思っていたよ」

「……。それで、何があったのですか?」

「別に。ガーネットとかいう奴が絡んできたから追っ払っただけ。俺はルナのヒーローだ、ってな」

「ヒーロー? またなんとも子供臭い」

「ガーネットにも言われたよ、それ」

「そうですか。……でも、理由は納得です」


 ミーナはそう言って、なぜか冷めた目でルナを見つめた。


「お嬢様は、どこかで求めてましたから。辛い状況にいる自分を、助けてくれる誰かが現れるその時を。……認められようと尽力して、それでもダメだった。だから、いつの間にかそんな風になってたのでしょうね」

「……へぇ。俺は知らず知らずに、あいつの願いに応えてたんだな」


 と、直後。ミーナは俺に険しい目を向けた。


「言っておきますが。私は、あなたを信じてなどいません」

「え?」

「隠すのも嫌なのでハッキリ言いますが。確かに、お嬢様にここまで信頼されたあなたへの嫉妬もあります。しかし、一番の理由はそうではないのです。一言で言いますと、“反吐が出る”。あなたの言動はいちいち下心が見えて、吐き気がするのです。私やお嬢様を、ただの性玩具としか見ていない。そんな気を、あなたから感じるのです」

「おいおい、そんな気無いって……」

「おおよそ見当ついてます。お嬢様を含めた、美女だらけの桃源郷を作る気なのでしょう? その強力な力を使って」


 俺は思わず言葉に詰まった。


「やはり、図星でしたか。強力な力で安全な場所に居座って、多数の女を侍らせて、自分にとってどこまでも都合の良い環境を作り上げる。……その下品な心を見るたびに、私はお嬢様が心配になります。この男に騙されて、都合が悪くなれば捨てられる、そうなるのではないのかと」

「俺はんなことしない!」

「果たしてどうでしょうか。……いずれにせよ、私はあなたを信じない。私はお嬢様を……いいえ、ルナを。あなたから守り抜きます。世界一の親友に誓って」


 こいつ、好き勝手言いやがって……! 俺はミーナに怒りを向けた。しかし言いたい放題言ったミーナは、俺に背を向けてさっさと去ってしまった。ベランダから出て、ルナの部屋の扉から出て行くミーナに、俺は意識を集中させた。


 ――≪痛い≫?


 その思考は、確かな謎を孕んで俺の頭に強く残った。

【技術解説】

□なんか重要そうなアイテム

言葉が思いつかなかった。作品において、「なんかコレ展開的に重要そうだな」というのを作るのは結構良いやり方。ただし、下手をすると今回みたくクサクサになるから注意(前回もクサかったけど)。

今回の重要そうなアイテムは、「ヒーローの証であるワッペン(紋章)」。ペンダントでも花でも何でもよくて、かなり使い勝手が良いがクサクサ演出になりやすい諸刃の剣。十分に気を付けよう。もうすべての面においてこの演出がうまく言っているのは、某有名マンガの麦わら帽子とかでしょうか。


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