プロローグ
俺は雲が覆いつくす町を歩いていた。
比較的家から近くにある、いわゆる「マニアショップ」で適当な同人誌や小説を買ってきた帰り。その本の話の内容は、ある種俺の憧れでもあった。
単純な話。異世界行って、強い力を持つ主人公が、ハーレム築いて無双する内容。俺自身ひどくご都合主義的で、オタクの願望を丸写ししたちょっとアレな内容だってわかってる。でも、現代世界であまり恵まれない俺は異世界というモノへ期待せざるを得なかった。
それに、俺なら異世界へ行ったらそんな状況を作れそうな気がする。神様からチートをもらえるとかそんな期待じゃなくって、しっかりとした理由もある。
そうやって歩いていると。突然、何やらガラの悪い連中が俺を取り囲んだ。
数は、だいたい10人。俺はそれを見て心底うんざりした。いつもいつも、俺はこんな状況になってしまう。
「てめぇ、三浦隆也だな?」
「……だったらなんだよ?」
俺は面倒くささを醸し出しながら男を睨む。男は威圧の姿勢を崩さないまま、俺へガンを飛ばしてきた。
「この前てめぇにお世話になった仲間がいんだよ。だからよぉ、お礼しに来たってわけだ」
ああ、やっぱりか。俺は心底嫌な顔で、ため息を吐いた。
「お礼、ねぇ。ああ、クソ。なんでおめーらそんな面倒なマネすっかなぁったくよぉ。とりあえず、てめぇら俺の最高に最高な気分を害したって事。よーく覚えておけよ」
「何ごちゃごちゃ言ってんだ! やっちまえ!」
男たちは俺に襲い掛かる。バットを振りかざし、拳を握り、鉄パイプをぶん回しながら。俺はそれを見た瞬間、右手を大きく振り上げて、それをそのまま勢いよく振り下ろした。
直後。男たちが、上から押さえつけられたかのように地面に倒れだす。ギシギシと音を立てて、連中は圧迫感に悲鳴をあげていた。
「グアアァァ……! て、てめぇ何をした!?」
「うっせーんだよ。ちょっと寝てろ」
俺はそう言って圧力を強める。連中の叫びはさらに大きくなって、しばらくするとそれは完全に止まっていた。
「ったく」
俺はそう毒づいて、空を見上げる。思えば、記憶にあるのはこんな力を持っていたから疎まれたような物ばかりだ。現代じゃこんな力、持っているだけ毒なんだ。
俺は、俗にいう超能力者だ。今不良に使った力は“念力”というモノ。俺は他にも、テレパシーやら念発火やら、いろいろな能力がある。それを持っている俺は、人間社会ではひどく恐れられてきた。
両親から嫌われて、話した記憶はもうない。クラスメートからは畏怖の対象であると共にバカにする対象でもあって、石を投げられるとか机に落書きされるとか、そんなのは日常茶飯事だった。人から離れたかったんじゃない、人から離れさせられた。
そんな風に生活していた俺は、当然孤立した。
孤立してしまった俺は、逃げ道にアニメとかゲームとか、そういうオタク道に進んでいった。人との関わりも断って、学校へも行かなくなって、暇つぶしに家の外へ散歩に行ったりこうして何かを買うときくらいしか外へ行かなくなった。
ざっくり言うと、俺は人生の敗北者だ。
みんなに嫌われるのは超能力のせい。不良に絡まれるのも、俺の超能力に挑んでくるバカがいるから。つまり、超能力のせい。そんなこんなでバカ丸出しのニート予備軍……いや、ニートになったのも、超能力があったからだ。
もしも、こんな力がなかったら。それを考えない日は無かったくらいだ。
「……あぁー。なんか、良い事ねーかなぁ」
俺はうつろな目のまま、空につぶやく。そうすると、俺の目に変な物が写った。
――光……? よくわからない光がふわふわ浮かんでいる。
……ん? 待て、あの光なんか近づいてくるぞ!?
俺は驚きながら、高速で迫ってくるそれを見つめるだけしかできなかった。いつの間にか。俺は、光に包まれてしまっていた。
体の感覚が、なくなっていく。どこかへ、吸い込まれるような――。俺の意識はそこで、止まってしまった。
【技術解説】
○生いたち
多少不幸な生い立ちがいい。現在もその状況が続いている、という内容なら成長に使えるし、「もう解決してる」なら「大人になったキャラが他のキャラを導いたり救ったりする」という演出に使える。