進撃の黒獣騎士と二人のエスケープ
エンフィールド大陸南部エグザルディア地方。
エンフィールド郡南部、農業都市バルドヴィッツ―。
奴隷戦士エウヌス・ブレダビス達、奴隷兵士達の蜂起によって起こった「バルドヴィッツの乱」を鎮圧する為にエグザルディア地方特務総督になった七大海賊の一人レイリー・ブラッドは、自らの総督新任を布告する為に集められたエグザルディア諸侯達をその場で討伐軍派遣の為に軍事招集し、僅か二日で討伐軍が農業都市バルドヴィッツに到着し、三日目の早朝、バルドヴィッツを包囲した討伐軍は、鎮圧を開始する。
急拵えの討伐軍で、反乱軍の鎮圧に誰もが長期戦になると感じていたが、レイリーの発案で城塞防衛用の大型大砲による砲撃で、強固な都市街壁を破壊し、無力化すると、戦のプロ集団であった安房の国守里見義堯の軍勢が一気に市内に突入し、反乱軍の本陣があったバルドヴィッツ代官所を完全包囲すると、レイリーと特務監察官オルフィナ・ランディの「黒獣騎士隊」が加わり、城攻めを開始する。
最初は、バルドヴィッツに攻め込んだ討伐軍より多かった筈の反乱軍も、半数以上が戦死し、レイリーを始めとする圧倒的攻撃能力を持つ討伐軍を押し返すことができず、残った兵力で、代官所に籠城し、激しい戦闘を繰り広げていた。
バルドヴィッツ代官所、三の丸―。
突如、馬防柵の隙間から何本もの槍が突き出され、首や脇腹を刺された里見軍の足軽兵達が次々と倒れていき、櫓から止めどなく矢を射掛けられていた。
「放てっ!!」
垣盾を持った足軽兵達が前に出て、矢を食い止めながら足軽の弓兵達が怯まず応戦するが、左右から敵の槍が繰り出され、更に前からも敵の歩兵が迫っていた。
「させるかっ」
馬防柵から突き出された槍を掴み、素早く刀を持ち替えた里見家家臣、酒井胤敏は、逆に馬防柵から刀を突き出すと、馬防柵の反対側にいた敵兵が短く悲鳴が聞こえて絶命する。
掴んでいた槍を刀で切断し、それを別に槍を繰り出してきた馬防柵の敵兵に突き刺して倒した。
「くっそ、これでは切りがない」
海賊女王アルビダ直属の特務監察官オルフィナ・ランディが指揮する「黒獣騎士隊」と呼ばれるほぼ獣人達で構成されている三部隊の一つ「魔砲獣騎士隊」の部隊長、魔神族の牛の獣騎士ハーゲンティ・レッドブルが、胤敏達が手を拱いていた三の丸の城門を上級攻撃魔法で、無理矢理破壊すると、里見軍と黒獣騎士隊で一気に三の丸に突入するが、胤敏を始め、同じ里見家家臣、酒井胤治や黒獣騎士隊のハーゲンティ達も、その光景を目にして、驚愕した。
黒獣騎士隊「猟撃獣騎士隊」の部隊長、魔神族の狼の獣騎士マルコシアス・ブラッドヴォルフが、オルフィナに言われて、木箱のまま整理されず山積みになっていた三郡行政府の資料からやっとの思いで見つけ出したバルドヴィッツ代官所の見取り図では、代官所の三の丸は、西側に闘技場があり、東側に建物が無い広場だけの敷地がある様に記されていたが、目の前に現れた実際の光景は、迷路の様に張り巡らされた馬防柵と小さな櫓、更に空堀や土嚢が積まれ、大軍では攻め難く、少数ででも十分に防衛できる構造に改造されていた。
城攻めは最終的に投入できる兵力と物量で決まることを知っていた胤敏は、その瞬間、ここに来て、敵が籠城戦で侵入した軍勢を切り崩す策に出たのだと察した。
先陣で三の丸に突入した胤治が槍を振り、馬防柵で囲まれた狭い通路で勇猛果敢に奮闘するが、付き従っていた足軽兵達が、次々と敵の術中に填まって倒れていく。
ETC.・・・・。