ⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅥ:解析(カリキュレート)
リレー小説『=BlanK † AWard=』
執筆者:久遠蒼季
一足で地面を蹴り、ゆうなは横っ飛びに跳ねる。眼前のレイドの注意を引くように穂先に焔を纏わせ、脇腹を穿ちにかかる。振るわれた腕に阻まれて当然のように焔は霧散するが、狙いはそこではない。
槍本体をそのまま滑らせるように顔面へと放つ。再び焔を逆巻かせながら、先程と同じように顔面を狙う。レイドは身を捻る事でそれを躱し、一度後ろへと飛んで体勢を立て直しにかかる。
焔が改めて掻き消えた事を確認すると、深追いせずにその場で槍を構え直す。
(うん。やっぱり違和感)
魔力無効化は完全な物ではない。それは先の数手で判明した。それを有効圏内、と口にしたが、どうも違うように感じる。明確に存在するはずの突破口が、酷く歪んで見える。
ゆうなの頭の中で、何かが警鐘を鳴らしている。
これまで数多くのレイドと戦ってきた。今回のメンバーの中であればハインツに次いで、レイドの撃破数は二番目である。その経験が、何かをかき立てている。
(落ち着いて、思考を止めないで)
槍を手元で回しながら、レイドから視線を切らさないようにしながら、自分に言い聞かす。こちらの出方をうかがっているのか。
順番に、状況を紐解いていく。
一つ、対峙しているレイドはD1クラスである。
一つ、対峙しているレイドはエネルギー状の魔力を霧散させる能力を有している。
叫びと共に、レイドがゆうなへと突撃してくる。その動作に合わせ、ゆうなはあえて前へと踏み込む。振り上げられた腕に沿うように体を回し、右方へと飛び退く。回避動作を取りながら、ゆうなはなお思考を回す。
チェック項目、対象がエネルギー状の魔力限定であるとそう判断したした理由は?
――こちらの魔力の塊であるアームド・ウェポンが霧散していない。また打突時の肉体に纏った身体補助の魔力に影響はない。
一つ、対峙しているレイドの能力には有効範囲がある。
チェック項目、そう判断した理由は?
――相手は〈イースターエッグ〉から一定距離を保ち続けている。加えて一度だけ焔がわずかに通った。
飛び跳ね攻撃を躱し、しかしそれと並行して思索を進める。
チェック項目X、焔が通ったタイミングを考査せよ。
ゾクリと、背筋に冷たい物が走った。
そう、ここだ。
ここが違和感の原点。
焔が通った時、果たしてレイドと〈イースターエッグ〉の距離はそれまで以上に離れていただろうか。
脈打つ鼓動とは裏腹に、研ぎ澄まされていくようにレイドの攻撃を長槍でいなしていく。
チェック項目Y、制約は『距離』。それ以外の可能性を考慮しなかった理由を述べよ。
心の中の冷え切った何かが、詰問するように言い放つ。
そう。
そうだ。
どうして他の可能性を考慮しなかった。
精査、再検討、エミュレート。眼前に出現した魔力の焔について。
仮定A、無効化開始が認識したタイミングからの起動――、否。
眼前に魔力反応を感知しておきながら展開が遅れるという事はない。一番の情報源である視覚情報で遅れが出るなら、そもそも腕への攻撃の時点で遅れが出る――、否。突発でないなら無効化を常時展開している可能性あり。
任意展開と仮定。
重要検討項目、実戦開始。
ゆうなは腕を跳躍で躱しつつさらに前へと踏み込みながら焔を奔らせる。今度は大きく伸ばし、鞭のようにしならせレイドの背部を狙う。だが、レイドの体に到達するよりも速く、焔は掻き消えた。
無効化開始はレイドの自発行動である――、否。不意を突いた背後への焔の完全無力化にラグがな――、違和感。
何故、焔はレイドの体に触れるより先に霧散した?
重要検討項目、タスクを一番上に。
槍を振るいながら、ゆうなは地面を蹴る。
その光景に、茜は息を飲んでいた。
確かに、自分は時間を稼いで欲しいと言った。
突破口が見え、策を練り始めた。
だが、あそこにいるアレは一体何だ?
口元がせわしなく動いている。何かを呟いているようだが、内容までは耳に届かない。だが、その様子は鬼気迫る物があった。
アレが本当に日本の十代の少女だというのか。
その時不意に、グルリとレイドが腕を大きく回しながら、茜の方へと転身した。
ゆうなは、その実かなり焦っていた。
一つの最重要項目を見落とす程に。
そう。
レイドが何を意図しているか。
つまり、二人の立ち位置を分断しようといるという狙いを見落とす程に。
気づいた時には手遅れであった。前触れなく隆起する緑色の壁。それはゆうなを岩壁へと押し込めるような形で行く手を阻んだ。
「茜さん!」
ゆうなは緑壁へと槍を叩き付けるが、魔力が霧散し砕くには時間がかかる。
茜も焦りはしない。
ただ冷静に、自らに迫る脅威に対処しようとしていた。
意識の波の間隙を縫った攻撃。原理不明だがレイドは緑の壁を構築する事でゆうなとの分断を完璧に成功させた。そしてその緑の壁が槌のように左右から迫ってきている。正面には腕を振りかぶるレイド。背後は岩壁。
対応は――、
「オォラァッ!」
「剣技・斬滅剣ッ!!」
瞬間、左右から迫る緑壁が砕かれた。片方は太い杭により、もう片方は飛来した少年の刃により。
「遅くなって、ゴメン!」
さらに後方から叫び声と共に、弾幕のような魔力弾がレイドへと飛来する。視線を向ければ次郎が小型の魔法陣を大量に展開させ、掃射していた。
だが、それらはレイドに届くと同時に霧散し、消える。
そんな事は、次郎は百も承知である。
「ミチルさん!」
呼びかけに応えるようにミチルは眼前に展開した《見張塔からずっと(オールアロング・ウォッチタワー)》に意識を集中する。
「! そのレイドの背中!」
「あいよ!」
さらに応じるのは十条寺である。緑壁を砕いた《承黒》のⅢ章、《乱牙》は次弾装填済みである。僅かな動作で回り込むように照準を定め、その杭をレイドへと撃ち放つ。
レイドは両腕で地面を叩き付けながら遙か後方へと跳躍し、無理矢理にその巨大な杭から逃れる。〈イースターエッグ〉の元へと舞い戻ると、全身の毛を逆立てて一同を睨み返した。明らかに今までとの対応と異なっていた。
「増援を呼ぼうと思ったら、その緑の壁で防がれててね。その壁も魔力弾を霧散させた。そこでこう思ったんだ」
次郎は笑みを浮かべながら告げる。その後ろでは十条寺と刀真が、ゆうなを閉じ込めていた緑壁を二人がかりで破砕していた。
「〈イースターエッグ〉を守るレイドは二体いるんじゃないかって」
先程まで戦っていたレイドの背中――、丁度有袋類の袋が背中にあったらこうなるのだろうか、毛の合間から昆虫の瞳のような物が覗いていた。
つまり、片方のレイドが壁を作る能力を有し、もう片方のレイドが魔力を霧散させていたのだ。
「となれば、必要なのはレイドの位置を正確に調べる事」
その少し後ろで、ミチルが微笑んでいた。
「で、どっちが壁を作ってどっちが魔力を霧散させてるのかは――、今のでハッキリしたよね」
壁と大型レイド、レイドと昆虫型のレイドを次郎は交互に指さす。D1クラス以下のレイドに、言語を明確に理解する機能はない。だが、わずかに身じろぎしたように見えた。
「話は道すがら聞いたが、俺らの出番みたいだな」
「正直、俺もキツいんですけどね」
十条寺の笑みに、刀真は一つ息をつく。刀真のⅢ章は魔力の攻性エネルギー変換であり確かに相性が悪いが、その代わりにⅣ章の力がある。
「けど」
刀真は刀を構え直し、ちらりと横目でゆうなを見る。そこには大怪我こそないものの、傷だらけのゆうなが少しバツが悪そうに立っていた。
改めて、レイド達へと向き直る。
「俺はお前を許すつもりはない」
「それじゃ、ここからが本番だね」
次郎も笑い、それに合わせるように全員がアームド・ウェポンを構え直した。
さて、パスが続いたため私の番です。
こういう戦闘中の高速思考が好きで書いてみたんですけど、なかなかどうして、うまくいきませんねー。
それでも突破口は見えてきた様子。
彼らの次なる一手は――?
それでは、今日はこの辺りで。




