ⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅨ:支配者
リレー小説『=BlanK † AWard=』
執筆者:久遠蒼季
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「キャッ――!!」
ハインツの眼前に突如、黒い影が飛来する。ほとんど反射的にその影を受け止め、地面を蹴って後退した。やはりというべきか、眼前の敵に弾かれたありさであった。
だが落ち着いている余裕はない。現状、あのレイドの形状を勘案すればすぐさま打開策を打たねばまた同じ事の繰り返しに――、
「控えろ、人間」
ゾンッ、とそれらの思考を押しつぶすような声が、闇の奥から響いた。
周囲に人間などいるはずもない。
だとすれば、何が声を発したのか。
まさか、という思いと同時にそれ以外はないという思考が脳を駆け巡り、喉が干上がっていくのを感じた。
空間が、ゆったりと照らし上げられていく。中心点は、先程の蜘蛛型レイド。
元が節足動物であるという事を除けば、他のレイドと比較しても体躯はそう大きくない。全長、およそ二mほど。形状も一般的な形態をとっており、レイド特有の体躯の変化は見られない。
一点、その背に大きな瘤があること以外。
メリメリと、その瘤にヒビが入り、長細い何かが突き出された。
さらにもう一本。
それが腕であると気づくのに、そう時間はかからなかった。
間もなく、その瘤からソレは顔を出した。
毛に覆われた胴体に、細長い腕。腕の先端は長く鋭い爪となっていた。人間の上半身を模しているようにも見えるが、本来頭があるべき場所に顔はなく、首がそのまま太く伸び、中央には縦に大きく裂けた口から歪な牙がずらりと並んでいた。下の蜘蛛の複眼が補っているのか、目はなかった。
「して、何用だ、人間」
レイドは縦に裂けた口を動かす。どういう理屈で発生できているかは理解できないが、そこから聞こえてくるのは、間違いなく日本語であり、二人に対して話しかけていた。
ハインツもありさも硬直していた。それは、その異様な形相にではない。レイドが人語を解しているというその一点であった。
そう、それは。
「お前が、〈イースターエッグ〉の中身か」
Cクラスオーバーのレイドの特徴であった。
「その呼称は知らぬが、彼の卵より生まれたのは我である」
ハインツは、チラリと空間の天井に開いた孔に目をやる。恐らく、その上が本来〈イースターエッグ〉がある場所なのだろう。つまり、卵の中身は既に今もぬけの殻で、上で注意を引きつけている間にこちらから本命が街へと出るという計画だったのだろう。ありさとハインツが選択していたルートはどこかでさらに地下深くへと潜るルートへと切り替わっていたのだろう。
「それで」
レイドは口を開く。
「貴様らが我の最初の贄でよいのか」
ただ一声、それだけで押さえつけられるような威圧感が二人を襲った。
「お断りだな」
抱えていたありさを離し、ハインツは拳を、アームド・ウェポンを構える。
「そう生き急ぐな。我は格別争いを好まぬ」
淡々と、レイドは言葉を紡ぐ。
「日に人間を五十人。贄を用意出来るならこの場に留まっても構わぬぞ?」
奢りも嘲りもない、ある意味純粋な言葉。
だが、そんな物。
「「断る!!」」
飲む理由はどこにもない。
「そうか」
決裂が意味することはたった一つ。
かくて戦いの火蓋は切られた。
久遠蒼季でございます。
という事で、なんとラスボスが登場してしまいました。
上で戦っている皆さんと別れたまま、立ち向かうありさとハインツの運命は――?
それでは、今日はこの辺りで。




