ⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅤ:木霊する咆哮
リレー小説『=BlanK † AWard=』
執筆者:久遠蒼季
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「いやぁ、参るねぇ……」
引きつった笑みを浮かべながら、十条寺はが汗で滑りそうになる《承黒》を握り直す。D1クラスハウンドを相手取っているが、状況は芳しくない。距離はまだ離れている。本来であれば破砕砲を持つ十条寺の方が有利なはずの距離である。
「ゴァアアアアアアアアアアアアアア!!」
およそ獣とも思えないような叫びと共にハウンドの腕がその場で振り下ろされる。それに合わせて骨や関節が砕けるような音が響き、丸太のような腕が伸展する。それはまるで鞭のようにしなり十条寺へと迫る。
襲い来る豪腕に《承黒》を盾と構える。鈍い衝撃と共に、狙い通りにその侵攻は黒塗りの破砕砲により防がれる。
「ッマジか!」
伸びたハウンドの腕が受け止めた《承黒》を中心に、巻き付くように逆側から爪を向ける。
十条寺は咄嗟に銃床手前のレバーを引きながら身を屈める。それと同時に輪上のアームカバーの内側のグリップがグルリと回る。固定された支えを失った砲身は必然的に回転し、ハウンドの腕の下を滑り込むようにして十条寺は強襲を回避した。
(……一旦、砲撃は諦めるか)
バックステップで距離を取りながら、ハウンドの元へと還っていく腕を見送る。グリップの回転機能は、本来砲撃時の姿勢を調整するための装置だ。輪の中で三六〇度動かし、安定し衝撃を逃がすのに最適な角度で固定する。しかし、きちんと固定せずにトリガーを引こうものなら、弾丸こそ発射されるが反動でどこに飛ぶか分からない。それどころか体への負荷で肩が外れかねない。
ハウンドの変幻自在の攻撃をかいくぐるには、ひとまず《承黒》の取り回しを最優先に動かなければならない。
一瞬、十条寺はハウンドから視線を切ってその奥を見る。地面に倒れ伏した刀真がそこにはいた。
獣の咆哮と、何かが空を切る音。激しい衝突音、岩の破砕音。人間の次第に荒くなっていく息づかい。
それだけが刀真の耳に木霊していた。
全身が痛い。
背中から壁に打ち付けられ、今も鈍い痛みが体を支配している。起き上がろうとしているのに、鉛でもくくりつけられているかのように腕も足も重い。
自分は何をしているんだと、頭の中で誰かが吼えた。
音から察するに十条寺は戦闘を続行している。
だというのに砲撃音は一つも聞こえてこない。十条寺は今、防戦一方に追い詰められ窮地に立たされているのは間違いない。
そんな状況下で、自分は不意を突かれて負傷し、のうのうと地面に転がっている。
今すぐに立たなくてはならない。
でなければ、先の戦いで一体何を誓った意味があるのか。
全身に力を籠める。骨も肉も軋む。呼吸が荒くなっていくのが分かる。それでも、何が何でも立たなくてはならない。
「おい、刀真ぁッ!」
洞窟中に響くような叫びが辺りに残響した。
声の主は、間違いなく十条寺。今は紛れもなく作戦行動中である。倒れていることを叱咤されるのかと、思わず身が固くなる。
「無茶しようとすんじゃねぇぞ!」
耳に届いたのは、その真逆の言葉であった。
地面に伏せるようにハウンドの一撃を躱しながら、十条寺はさらに続ける。
「俺とお前は昨日今日の仲だ。お前がどんな経緯で戦い始めてどんな覚悟で戦ってるのかおれは知らん!」
首を伸ばし牙をむくハウンドを、十条寺はすんでの所で横っ飛びに避ける。戦いの最中に集中を切らすなど自殺行為のはずだというのに、それでもなお叫ぶ。
「けどな、確実に言えんのは、頑張ることと無茶は違うってことだ! お前にはお前の戦う理由があるんだろうが、それでお前が無茶したら意味ねぇだろうが!」
十条寺の言葉が頭に響いていく。
「とにかく、あぁ、上手く言えねぇけど、とにかく自分を大事にしろってことだ!」
さらなる追撃を後方へと跳びながら回避し、十条寺はようやく、望んでいたものを胸ポケットから取り出し、咥えた。
それは一本のタバコ。火も灯されず、紫煙をくゆらせることもない、けれどそれで十分であった。
「つーわけで、もうちょいオッサンを信じて頼れよ」
はい、久遠蒼季でございます。
今回はオッサンメインです。
頼りになる年上っていいですよねー。
一人で頑張りすぎても、張り切りすぎてもダメなんですよね
それでは、今日はこの辺りで。




