ⅩⅩⅩⅩⅩⅧ:エンゲージ
リレー小説『=BlanK † AWard=』
執筆者:久遠蒼季
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探索開始から、およそ三時間。戦闘もなく奥へと進み、ゆうなは三本目となるボトルを設置した。側面のボタンを押して離れるとその上端と下端から白い光が伸びて本体は宙に浮き、壁づたいに白い光の幕を張った。後は定着するまで十数分待つだけである。
「レイド、出てこないね」
「そうですね」
ゆうなもミチルも《アワード》を起動させ、アームド・ウェポンを携えている。ミチルの前に浮かぶ《見張塔からずっと》のスクリーンの方には魔力反応が二つ。近辺にはレイドは存在しないようだ。
周囲は非常に暗い。地下へと潜っているのだから当然である。通り道に一定の光量を放つスティックを転がしながら進んでいるが、それでも十m先すら視線が通らない。
警戒と結界装置の設置を繰り返しているため移動速度は非常に落ちているが、未だに会敵しないのはなかなかに不安感を煽る。どの組からもまだ戦闘の知らせはない。定時連絡も途切れていないことから、恐らく順調に進んでいることだろう。
ゆうなたちが入った穴の入り口は、僅か直径一・五m程度の縦穴であった。身を屈めなければ入れないような、丘の斜面に開いた穴。だがここまで進んでみれば既に穴の直径は倍近くなっている。結界には副効果として周囲の保全があるため崩落の心配はないが、放置していればどうなっていたか。町の地下に広がる虫食いのような穴に、それを広げ続けるレイド。ぞっとしない話であるとミチルは深く息をついた。
対するゆうなは口に指を当て、今回のレイドについて思索を巡らせる。緒摘山の山頂で戦ったラプターが得ていた特性は魔力硬化。非常に硬度が高く、生半可な攻撃では傷一つ付けられなかった。あの時は辛うじて三人がかりで、それも不意打ちで動きを止めた上で輝核を破壊して撃破できたが、同じ特性が出てきたときに果たして対応できるのか。
さらに、特性は何も硬化だけではない。むしろ何が飛び出してくるか分からないからこそ怖いのだ。単純な属性付与から、本来その生物には備わっていないような生態的特徴の追加。四つの穴から出てくるレイドが何も一様とは限らない。どんなレイドでどんな特性を持っているかは全くの不明。相性が悪ければ撤退は十分視野に入る。
それ以上に何かを見落としている。
頭の中で誰かが囁くのをゆうなは感じた。
「大丈夫?」
ふと、ミチルに顔をのぞき込まれているのに気づいた。
「あ、いえ」
掌をひらひらと振って返す。
とにかく、今は作戦を前へと進めることが先決である。
そうして設置完了のアラームと共に、二人は奥へと歩き始めた。
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「こちらハインツ。三つ目の装置を設置した。どうぞー」
『私もだよー』
『こっちもだね』
とゆうなと次郎。
『まだ指定位置まではかかりそうだな』
と十条寺。
定時の連絡を入れつつ、結界が定着するまでの間、ハインツは壁に背を預けて一息ついていた。
チラリと横目でありさを見る。指で《ウィル》を軽く回しながら同じように結界の定着を待っていた。
「……何よ?」
視線に気づいたのかありさはハインツへと目を向ける。
「いや、作戦の進行状況を考えてただけだ。気にすんな」
「あ、そ」
やはり、どこかいつもと調子が違うと、ハインツは感じていた。軽口のやりとりをする余裕すら内容に見える。
(まぁ、原因が思い当たらないわけでもないが……)
目を閉じて思い返すのは、ありさが庫森支部に加入してから少し後の頃。あの時も、今のように雨が降っていた。
ありさだけでなく、庫森支部に暗い影を落とす。過去の失敗。
(何か言ってやれればいいが……)
言葉は空虚に、洞窟の暗闇へと消えていくようであった。
○
ゆうなの手元には大型の、軍用にも近いライト。マップである《見張塔からずっと》を見るミチルが後衛であり、ゆうなが前を照らしながら歩いている。足下はもちろん整備などされておらず、歩く速度は自然と遅くなる。浮き石などを踏まないように注意も必要である。
フッと、手にしていたライトの光が奥へと広がった。ゆうなは振り返って軽く目で合図し、少し前へと踏み出して先を照らしていく。
光が広がった理由は、反射するものがなくなったから。つまり、一定上の広さの空間が広がっているということだ。
通路は途切れ、急斜面となっていた。それでも底はまだ見る事ができた。ライトを回してみると天井が遠い。左右の壁も徐々に遠くなっている。壁の材質に特に変化は見られない。ちょうど半径十m程の球体のような空間に接続しているようであった。
もともとあった空洞を通路が貫通したのか、それともレイドがわざわざこういった空間を作ったのか。どちらか判別はつかないが、この広さは十分警戒が必要である。
ゆうなは腰のホルダーから一つ、ピンポン球サイズの金属の球を取り出す。一定時間、空間の広さを検知して適度な光量を放つ使い捨ての魔導具。この作戦のために用意された、いくつかの補助道具の一つである。
ふわりと宙へと放ると、そこで制止し周囲を照らし上げた。壁は広がり、奥で収束している。対岸には通路も見える。予想通り、球体を通路が貫いているようであった。
わずかに息を飲み、二人は意を決して斜面を下る。常に傾斜がついた足場はどうにも踏み心地が悪い。
そうして傾斜が下降から上昇へと変わろうとした瞬間。
ミチルの手元のマップに表示されている魔力反応が一つ増えた。
「ゆ――」
と、その名を呼ぼうとしたときには、既に決着はついていた。
駆け抜ける一閃。その姿を視認したゆうなは、手にした《クリムゾン・ブレイザー》で眼前に出現したD3ハウンドの輝核を貫いてた。
(速い……!)
地面に滑るように着地するゆうな。その姿を見たみちるの心境は驚嘆の一言に尽きた。
もともと、この作戦には一つの不備があった。
それはツーマンセルという組み分け上、直接戦闘能力を有さないミチルとのコンビは、片方に戦闘の負担が寄りかかるということである。敵はD1クラスのレイド。つまり、それを単独で打ち破ることが出来なければこの作戦は成立しない。
この条件を安定して達成できるのはゆうなとハインツの二人だけであった。他のメンバーも他の条件が重なればD1クラスの単独撃破は可能かもしれない。だが安定してという条件を加味すれば、該当するのはこの二人しかいない。もう一つの事情からこのような組み分けとなったが、現状はこれがベストである。
小規模魔導結社セイルは、《アワード》の力を災害からの人命救助へと向けた。対するアーセナルは戦う事に焦点を当て、その技を磨いてきた。所謂、専門性の違いである。
これが戦いのただ中に身を置くということ。
だがそれは、この年齢の少女が到達できる場所なのか。
「ミチルさん! 反応カウントお願いしますっ!」
ゆうなの声にハッと我に返る。現在ミチルの位置は空洞中央。つまり球体上の空間全てが、丁度《見張塔からずっと》の有効圏内である。
「小型が五……、十……。まだ増えてる!」
しかし、それは裏を返せば通路の奥が探知圏外であることを意味する。
増え続ける反応は、奥から奥から溢れ出す小型レイド――D3ハウンドの進軍であった。
「焔薙槍ッ!!」
サイドステップと共にゆうなは槍を大きく横へと薙ぐ。それと同時に焔を迸らせ、眼前の数体を纏めて薙ぎ払う。着地と共にバックステップしさらに後方の二体を斬る。そこからさらに身を捻り跳ねるように全身、腰だめに構えた槍を振り抜く。
「反応、十時方向天井から接近!」
「どもっ!」
ぐるりと回した槍の穂先は違えず指示された方向へと向けられ、ゆうなはそちらへ振り返ることもなく砲撃形態へと変化させ真紅の魔力砲を打ち込む。壁へと張り付いて上空から奇襲しようとしていたハウンド達は一気に焼き払われる。
圧倒的な戦力差。一対多の場で息も切らさずに立ち回るゆうなの姿は、それが当然というように戦場を焔と共に舞っていた。
「大型の反応はっ!?」
ゆうなは単発の砲撃で群れを牽制しつつ、広間中央のミチルの元へと戻る。立ち位置を調整しながらミチルは《見張塔からずっと》に表示される周囲の魔力反応を探っていく。
「ダメッ、小型しかいない!」
その言葉にゆうなは心臓がドクンと脈打つのを感じた。
(しまった……!)
ほんの数刻前の、警鐘の正体。
それは、通路に各一体のレイドが必ず現れる保証がないという事。
「ミチルさん、全体にすぐに連絡を! D1レイドが他の所にいってるかもしれないっ」
それはこの作戦の根底を覆しかねないレベルの話であった。
「ゆうなちゃん……」
背中を預けるミチルの声もどこかか細い。
「でも、まずはここを切り抜けないとね……」
冷や汗が伝う額を拭い、ゆうなは《クリムゾン・ブレイザー》を構え直し、一息でハウンドの群れへと切り込んでいった。
久遠蒼季でございます。
さてさて、いよいよ会敵です。
地の底で敵にまみえるというのは、なかなか息が詰まりそうな状況ですね。
今回の作戦ですが、どうにも穴があった模様で。
人数に限りがあるのでどうしても限界がありますけど、どうなることやら。
それでは、今日はこの辺りで。




