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=BlanK † AWard=  作者: 久遠蒼季、すたりあ、緑茶、リブ本
《ChapterⅡ》
51/99

ⅩⅩⅩⅩⅩⅠ:前夜

リレー小説『=BlanK † AWard=』

執筆者:緑茶

「……という感じなので。わからないことがあったら、私か支部長に聞いて下さいね」

 二階の説明を終えたゆうなが、翻ってセイルの面々に言った。

「……」

 ――三人とも沈黙している。

「? ……どうしたんですか?」

 ゆうなが不安そうに三人に聞いた。とりわけ、特に神妙な顔をしている十条寺とミチルに。

「いや、なんつーかだな。アレだな。最近の子はしっかりしてるな……」

「そうですねぇ~、私達と大違いだよー、特に武さん」

「全くだな。――……ミチル、お前後で覚えてろよ」

「えっと……」

 ゆうなは戸惑うが、そこへ茜が言葉を投げ込む。

「この二人はいつもこのようなノリですので、お気になさらず」

「あ、あはは……」

 ゆうなは困ったように笑う。

 そして内心思う。

(『いつもこのようなノリ』なのに、色々と難なくやってみせている。やっぱりこの人達、凄いんじゃないかな……)

「まぁとにかく。親切な案内、ありがとよ」

 十条寺がニカッと笑う。茜も頭を下げる。

「うんうん。――じゃあ、そういうわけで。このまま寝ちゃう…………というわけには、いかないよ……ねっ♪」

 不意に、ガバッと、ミチルがゆうなの後ろから抱きついた。

「ひゃっ!?」

「お風呂。入りましょ?」

 んふふ、という軟体生物のような笑みを浮かべてミチルが言った。

「あ、そういえば……」

 言われてみてからゆうなは気付いた。もう明日に備えて寝てしまおうとばかり思っていた。

 ――頭の中が、明日どう動くか――そのことでいっぱいだった。

 我知らず、緊張しまくっていたということだ。常に全力では、気負うべき時に気負えなくなる。ゆうなは少しだけ自分を恥じた。

「あるよね、お風呂?」

「まぁ。私達二人、ここに住んでるので……」

 茜は妙に大袈裟な動作で顎に手を当てて頷いている。

「言われてみれば、ですね。では、誰から――」

「え? 茜ちゃん、何言ってるの?」

「え」

「お前な…………何考えてるのか大体分かったが。ここは他所様の家だぞ……」

 十条寺がため息を付いて頭を掻いた。

「分かってます♪ だからこそ、親睦を深めないと、でしょ?」

 そうして、ミチルは茜にも抱きついた。

「えっと、せ、先輩。その……まさか?」

「もっちろん。皆で入るの。女子会よ、女子会♪」

 ミチルは一人で盛り上がりながら、きゃー、などと言い始めた。

 ゆうなはなんだか話が広がってきたな、と思いつつまだここに上がって来ていない二人の『女子』を思った。

 支部長は――大袈裟な言い方をすれば、ワーカホリックだ。常に何かを考えて動いている。だから今も、明日のことを考えているのかもしれない。手伝いたいと思う反面、それは自分の領分ではない、という思いもある。だから、まだ一日を終える気はないのだろう。

 そして――もう一人。

 ……なぜかわからないけど、何かなんとなく、不安で、心配で。

(ありさちゃん……大丈夫かな)

 ――そう、思った。


「やけにかしましいな、おい」

 ハインツ達男連中は皆なんとなく廊下に出ていた。既に就寝準備は出来ているのだ。

 女性約三名が何やら風呂とかどうとかで騒いでいるらしい。

 ハインツは普段は行きつけの銭湯があるのでそこで済ましていたが……今日ばかりはここのやっかいになるだろう。

「なぁ、トーマ。こういうのはなんだっけ? シュウガクリョコウだったか? なんかそういうテンションなんだろ、これ」

 ハインツが聞く。

「まぁ……そんな感じ……なのか……?」

 確かに、普段と違う場所で眠るとなった時の、この妙に浮ついた感じはそれに近いものがあるが……しかし、やはり緊張感に欠けるのでは。刀真はそう思わずにはいられない。

「なのか……な?」

 ――回答に困ったので、刀真はなんとなく隣でぼうっと窓の外を見ていた次郎に振ってみた。

「え? 修学旅行? え、僕は……その、あはは。――そう、なんじゃないかな……」

 ――なんとなく、要領の得ない返事をされた。

「おーっす。……はぁ、なんでこう女ってのはああも何でも楽しそうなのかね」

 そこに、やや疲れた顔をして十条寺がやって来た。

「何やら大変そうで」

 ハインツが肩をすくめながら言った。

「全くだよ。年長者ってのはこれだからな。……俺の部屋は」

「あぁ。ここですね。俺の部屋の隣」

「おう。ありがとうな。……――カタい顔して、どうした?」

 不意に、刀真の顔を、十条寺が覗き込んできた。

 一気に距離を詰められたその遠慮のなさに少し気圧されながらも、刀真はこれまた要領の得ない返事をする。

「いや、その……何というか。余裕、っすね。皆」

 皆、というのはセイルの三人のことであり。

 彼らからは一切の焦りや緊張が感じられない。まるで本当に明日修学旅行に行くかのようだ。

「あらら。『明日のことを考えると眠れそうにない』って顔に書いてあるな」

 十条寺が少し大きな声で言った。

「どれどれ。あぁこりゃマジだわ。お前会議の時の油性ペン使っただろ」

 ――すかさずハインツが悪ノリする。

 ……正直めんどくさい。次郎は大人二人の茶目っ気から上手いこと逃げおおせたようで、後方で笑っている。なるほど、流石後方支援の役どころだ。なら支援してくれ、頼むから――そんなことを心の中で吐き捨てる。……大人二人が的を得ているのが余計に面倒だ。

「で、だ――」

 咳払いをして、十条寺が言葉を紡ぐ。

「時に……人間が、一番力を発揮できる精神状態ってのは。一体何だと思う?」

 ――不意に、そんなことを聞かれる。

「お前も聞いとけ」

 ハインツが次郎を小突く。

「う、うん」

「えっと……」

「簡単な話だ。そいつはな――『凪』だ」

「凪……?」

「そう。凪。穏やかな海面のごとく、だ――……あれは、何年前だったか。どこかの国で、馬鹿でかい崩落事故があっただろ。作業員が大量に閉じ込められた」

 それは有名な話で――ニュースにもなった。刀真は頷く。

「削れていく体力。助けがいつ来るのかも分からねぇ。普段の仕事で『予定外』は起きても、そこまでのイレギュラーに遭遇することなんて、まず無いからな。……――そんな彼らだが。助けが来て、無事に地上の光を浴びるまでの間、どうやってその極限状態を耐え凌いだか。知ってるか?」

 そう、それも確か、ニュースになったことで……。

「……聴いてたんだとよ、音楽を。――忍ばせてたプレーヤーで、『いつものように』。……もしそれが無くって、自分が置かれてる状態が異常だって事を余計に意識させられてたら、どうなってただろうな。心に傷の一つや二つ、付いてたかもしれん」

「……」

 ハインツは微笑しながら腕を組んで、その話を聞いている。

 十条寺は窓の外を見ながら、ふっ――……と、息を吐きながら続ける。

 その在り方に、確かに積み重ねてきた年月と経験を纏いながら。

「俺達の仕事は、救助で、救命だ。毎日が予定外で、当初の作戦通りコトが進んだ事なんざ、本当に限られてた。そんな中で……そんな異常だらけで、どうやって最善の結果を出してきたか、っていうのは。そいつは、平常心、だ。いつも通りの気持ちで状況に立ち向かう。じゃなきゃ、先に心が負けちまう。――俺達の力が各々の望む心の顕れなら。そいつを何よりも強くするには。俺達自身が心を強く保ち続けるしかねぇのさ。……――あぁ、長くなっちまった。悪いな、かっこつけて」

 十条寺は渋く苦笑する。

「まぁ、こんなこと言っちゃいるが……俺達は見ての通りいい加減だからな。話半分に聞いておいてくれ」

「いやいや。素晴らしい名調子だ。俺じゃあ勝てねぇな」

 ハインツは賞賛する。

「俺がお前さんみたいないい顔をしてりゃ、もっとサマになってたんだがな。顔面偏差値を半分ほど寄越せ」

「勘弁して下さいよ。半分も渡せば、土砂崩れになっちまう。縁起でもねぇ」

 そう返して、刀真を見る――。

「いや。あの……、その。ありがとうございます。確かに、その通りかもしれない」

 刀真は、軽く頭を下げて、そう言った。

 緊張は正直欠片も取れていないように見えるが、それでもそう言ったのだ。

「驚いたな。お前そんな素直な奴だったか」

 ハインツはからかうように言った。

「俺を何だと思ってるんだ……そんなにひねくれたやつかよ……」

 呆れ顔で刀真がそう言うと、十条寺が愉快そうに背中を叩いてきた。

 ――と、そこへ。

「あのー、取り込み中ですか?」

 ミチルがふわりとした口調で尋ねてきた。

「うんにゃ。もう終わった」

 十条寺が肩をすくめながら返す。

「あ、じゃあ、私達先にお風呂、いいですか?」

 ミチルがハインツに問う。

 彼は男連中を見渡して、

「まぁ――いいと思うぜ。お先にどうぞ」

 と返した。

「ありがとうございます♪ ……あ、覗かないでね、おにーさん」

 口元に指を当てて、ウィンクしながら言ってきた。

「そんなことをしなくても、あんたは十分すぎるほどに綺麗だからな、フロイライン」

 芝居がかった動きで、頭を下げる。

「あらあら。ありがとう♪」

 ミチルは微笑みながら腕を振って、去っていく。

 そうしてまた、にぎやかな声が聞こえてくる。

「……――胸焼けしそうなやりとりだね」

 次郎は苦々しい笑みを浮かべながら言った。

「あんたにしか出来ねーよ……」

 刀真も続く。

「あー、悪いことは言わねぇ。あいつだけはやめとけ」

 十条寺も眉間を押さえながら言った。

「いや、ちょっと言ってみただけじゃねぇか……真に受けられてもな」

 ハインツは困り顔でそう言って、次郎と刀真を見る。

「風呂空いたら、お前ら先に入れよ。呼んでやるから」

 武はその言葉に頷く。

「じゃあ、俺……」

「おう。後でな」

 刀真は部屋に戻った――が。

「……どうした?」

 次郎が、ぼうっと、外を見ている。

 その様子に、何もおかしなところは、ない。

 無いのだが……どういうわけか、何故かやたらと気になった。

「え? いや、僕は別に何も……」

「そうか? 俺にはそうは思えねぇが……」

「大丈夫。大丈夫だよ。じゃあね」

 バタン――扉の音。


「……なんなんだ、あいつ」

「色々、あるみてぇだな。そっちも」

 しみじみと十条寺が呟く。

「まぁ、ね。……――ふぅ」

 ハインツは大きく息を吸って、吐く。

「……今のお前さんの状態、当ててやるよ。大方お前さんも、明日のことを考えちまって眠れやしねぇ。違うか?」

「……半分正解」

「じゃあ、後の半分はこれだ。――年長者の重責。俺らが居るにも関わらず」

 ハインツは苦笑しながら諸手を挙げた。完全正解、というサイン。

「オトナってのは、大変だ」

 その言葉に、わかるぜ、と付け足してから、十条寺は言った。

「俺は――大人ってのは、『なる』もんじゃなくて……『する』もんだと思うね。そうやって悩みながらも、しっかり年長者として動いてるお前さんは、十分に大人だよ。そいつは、安心しな。おっさんを信じろよ。……――それでも何か、忸怩たるもんを抱えてるってなら。どうにか出来るのは、自分自身、だがな」

 それだけ残して、十条寺は去っていく。明日は頼むわ、と付け足してから。

 ……ハインツは自嘲気味に笑いながら、握りこぶしを作った。

 ――忸怩たるもの。そこまで、見抜かれていたとは。


 それぞれの思いを胸に、夜は終わっていく。


お久しぶりです緑茶です。

ゼラニウム広いですね……支部長すげぇな……。

今回執筆していた部分が途中で消えたりして大変でしたが、それでもなんとかなりました。

やっぱり平常心ってのは大事ですね。

ではまたお会いしましょう。

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