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=BlanK † AWard=  作者: 久遠蒼季、すたりあ、緑茶、リブ本
《ChapterⅡ》
48/99

ⅩⅩⅩⅩⅧ:卵より先に生まれしモノ

リレー小説『=BlanK † AWard=』

執筆者:久遠蒼季



   ○



「ッラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 ハインツの右腕が、放たれる。それは幹のように太い脚部へと突き立った。

 だが、そこまで、それ以上拳が進むことはない。

 ハインツ、ゆうな、刀真がD1クラスレイドに強襲を仕掛けて戦闘を開始し、早二十分。

緒摘山の山頂近辺は、一面の氷に覆われていた。

戦闘の開始前にぬかるむ足場を嫌い、ハインツが不意を突いてレイドを縫い止めるように氷漬けにしたのだ。それが功を奏して対象の両足を縛ることに成功し、三人は動かない相手へと一方的に攻撃を仕掛けられる立場となった。

「剣技・斬滅剣!!」

 刀状態の《ガーディアンズ・アーム》の刃が蒼い光を放ち、レイドの片足を捉える。降りしきる雨を斬り裂くそれはしかし、相手に傷を付けるに至れない。

「硬い……!」

 拘束されていない翼が刀真へと叩き付けられる。バックステップでそれを躱し、痺れる腕を振り上げて改めて構えを取る。

 敵はD1クラス、レイド・ラプター。元が何科の鳥だったのかも判別できないほどの巨大な有翼種は、両の足を氷に縛られながらもなお、その翼を大きく振り回しハインツたちを苦しめていた。

「ユーナッ! 輝核の位置はまだかかりそうか!?」

 後方で《クリムゾン・ブレイザー》を砲撃形態に変形させたゆうなへとハインツは叫びかける。

 レイドの弱点は、その体表に出現している、取り込んだ輝核。それを砕けばレイドは輝核と分離し元の生物へと戻る。故にその破壊が急務なのだが、ラプターはその羽毛を以て全身を覆い、どこに急所があるのか未だに判別がついていない。

「ごめん、もうちょい待っててっ!」

 叫び返しながらもゆうなは眉間に皺を寄せる。

(攻撃の通りが悪い……)

 このレイドが得た特性は、恐らく魔力密度を高めた超硬化。練り上げられた魔力が体内から全身を補強しすさまじい強度を誇っている。ハインツの凍結からの破砕も、芯の強度が高すぎる為に撃破に至れない。

おかげで相手は動けないというのに状況は好転していない。周囲への被害を考えずに大技を使えば撃破そのものは可能だろうが、被害が出てしまえば元も子もない。

輝核の位置。それさえ知ることができればいい。刀真は構え、駆け出す。戦闘を開始してからゆうなはラプターから視線を切っていない。であればこの一連の戦闘でまだ視界に収まっていない箇所が候補に挙がる。

斬滅剣(ざんめつけん)・――」

 氷の大地を滑るように移動し、刀真はラプターの翼の付け根へと潜り込む。そうして柄のレバーへと指をかけ、一気に引く。

翔刃(しょうじん)!!」

 刀の鍔の上部に備え付けられたブースターが青い奔光を巻き上げ、唸りを上げる。刃は天へと向けられ、刀真を連れて空へと上る。豪速を以て振り上げられた一閃はラプターの片翼を大きく跳ね上げた。

 強烈な一撃を貰い、ラプターは姿勢を崩し後方へと倒れていく。

「見えたっ!」

 ゆうなの視線がラプターの一点を捉える。

 そこは翼の付け根の僅か下。跳ね上げられたことにより、覆っていた羽毛が散ったのだ。

「スカーレットォ・――」

 それを見逃すゆうなではない。

「ブレイカーッッ!!」

 槍の穂先、《クリムゾン・ブレイザー》の先端から放たれる紅い魔力砲撃。阻む物のないそれは違うことなくラプターの輝核を砕いた。

「ギェアアアアアアアアアアアアアアアアアアッアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」

 耳をつんざく、サイレンのごとく野太い咆哮。あまりの事に三人は耳を塞ぐが、その僅かな間にラプターは姿を消し、大きな輝核だけが残されていた。

「はぁ、疲れた……」

 大きく息をついて、刀真は《アワード》を閉じながら首や肩を回す。右手で前髪を掻き上げると雨で張り付いてそのまま降りてこなかった。

「ホントだねー。やっぱりD1ともなるとしんどいねー」

「でも、解決出来てよかった」

 たはーっと笑うゆうなに、刀真も笑い返す。苦戦はしたが、ともかくこれで一件落着である。幸い、土石流も未然に防ぐことができた。下で動いているセイルの面々にも連絡を取って撤収し、警報を解けば全て完了である。

「いや、そうでもないみたいだ」

 自身のケータイ電話から顔を上げたハインツの表情は厳しい物であった。その面持ちに、ゆうなと刀真の表情がこわばる。

 画面に映っていたのは、結子からの短いメール。

『レイドを撃破次第、セイルの面々と共に至急支部へと戻りなさい』



   ○



 緒摘山での戦闘から一時間後。アーセナル庫森支部の面々とセイルの三人はゼラニウムへと集まっていた。本来なら地下の支部で話すべきなのだが、本来他の小規模魔導結社は部外者であるということとそもそも収容スペースの問題で、必要な資料だけ持ち出して上に集合したのだ。現在、店の看板はクローズドである。

 一同は既に着替えも済ませてある。手元にはコーヒーもあり、至れり尽くせりである。だが、その表情は誰も明るくはなかった。

「集まってもらったのは他でもないわ」

 八人を呼び集めた結子は、話を切り出した。

「まず、ありさちゃんと次郎くんが遭遇した状況ついて説明してもらえるかしら?」

 視線が二人へと向く。緒摘山での戦闘には参加できなかった二人ではあるが、結子としては彼女たちが見た物の方が事と次第によっては重要と捉えていた。

「変な気配を感じたからそっちを調べてたら大きな穴があってね。僕らは、まぁ落ちたんだけど、その上から何かに襲われたんだ」

 すらすらと、次郎は答える。

「何かって?」

「たぶん、レイドだとは思うんだけどね。暗くてよく見えなかったよ。サイレンみたいな叫び声を聞いたら、どこかに行ったけど」

 そう言って肩をすくめる。

「……ハッキリしたわね」

 その情報だけで十分だったのか、結子は目を深く瞑り、息をついた。

「これを見て」

 結子は横に積んであった資料をテーブルへと広げる。それは決して新しい物ではなかった。どこか古文書めいた、まるで日本史の教科書に載ってそうないくつかの紙片のカラーコピーであった。

「資料室から手がかりを見つけて、さっき本部から送ってもらったの」

 文字の他には絵も描かれていた。それは巨大な鳥と、それを取り囲む人々。その手には鍬や鋤が握られていた。巨大な鳥の下には僅かに何か白い物が描かれているようにも見える。

「結論から話すと、この件はまだ終わってないわ」

 誰もが予想していた答えであったが、それでも平然とはしていられなかった。これから始まるであろう戦いの厳しさに、皆表情が険しくなる。

「この資料そのものは数百年前の山奥の……、所謂妖怪の言い伝えなんだけど、どうもこれと同じ経過を辿ってるみたいなの」

 少し間を置き、結子は続ける。

「注目して欲しいのは、この鳥の下に描かれてるもの。これ、卵なの」

 一同の視線が絵に集まる。いわれてみれば、鳥はその場に留まって卵を温めているように見えた。

「ってことは……」

 思わず、ありさは結子へと視線を向ける。

「えぇ、恐らく。もう既に卵があるわ」

 でもそれだけじゃないの、と結子は資料を指さす。

「この卵の特徴はね、伝承によると周囲にあるものを自分を守るための手下に変えていったそうよ。そして、孵化すると災いを成す」

 しん、と水を打ったようにゼラニウムは静まりかえっていた。この話が真実であれば、今日の戦闘は、ほんの前哨戦に過ぎない。卵は恐らく、強力なレイドを内包している。加えて先程のラプターがこの卵の随伴に過ぎないとなれば、状況はかなり悪い。不意打ちを仕掛けて動きを止めた挙げ句、あれだけ撃破に苦労した相手がただの手下などと、悪い夢のようである。ありさと次郎を襲ったレイドは、ラプターが撃破されたことを知って卵の元へと帰ったのだ。

「さらに悪いことに、この卵の干渉圏内がだんだん広がっていってる。本部からの連絡と、それに合わせてさらに調べてもらって、判明してるだけで既に四カ所。山から町の方に、地下から通路が作られてるわ」

 住宅街へと伸びる近道。そこを通るレイド。それが何を意味するか、考えたくもなかった。最悪の結末が足音を立てて近づいているのが嫌というほど理解できた。

「……卵って、中身は何なの?」

 僅かでも情報を得ようと、ありさは結子へと尋ねる。だがそれに対して、結子は首を横へと振った。

「未だに、卵の孵化した情報は残ってないの。未然に防いだのか、あるいは――」

 濁した言葉の先に何が待っているのか。想像に難くない。

「ともかく、現状を把握できたなら、対策よ」

 パンッと両手を打ち、結子は庫森町の地図を広げた。

「えっと、セイルの――」

「十条寺だ」

「えぇ、十条寺さん。緒摘山の方はどうでしたか?」

 話を振られ、腰を上げて十条寺は一同を見渡す。

「基礎はしっかりしてたぜ? アレなら、普通の大雨程度なら土石流は起きねぇよ。普通の雨ならな」

「それなら、十分」

 結子は地図に赤いマーカーで丸を打っていく。その位置は、四カ所。

「明日から、アーセナル庫森支部、災害救助魔導結社・セイル合同で、囲い込みを行っていきます」

「囲い込み?」

「ってなんですか?」

 十条寺とミチルは首を捻った。

「穴の先には必然、卵があるわ。だからこの通ってる穴を利用するのよ」

 結子は丸から緒摘山に向けて矢印を引く。四本の矢印が向かう先はその根元を指していた。

「具体的にはどうするんですか?」

「庫森支部の設置型の結界式を使います」

 茜の問いに結子は返す。設置した地点から内側を区切る魔力結界。それを四点の穴から一定間隔で設置していけば、強固な多重結界が結ばれる。

「使い捨てになりますが、致し方ありません」

 魔力をとも無く特殊な道具や機材は、そう安価な物ではない。かなりの消耗となるが、人命には変えられない。

「明日の朝、この八人をツーマンセルの四組に分けて、作戦を決行します。レイドとの激しい戦闘があるでしょうから、今日はゆっくりと休んでください。泊まりたい人は、ここの二階をお貸しします」

 ゼラニウムの二階は居住スペースである。部屋数にも余裕はある。人が泊まる分には問題はない。

 そうして細かい作戦は明日の朝の打ち合わせとなり、会議はひとまず解散となった。明日に向けて休まなくてはいけない一同は、思い思いの行動を取り始めた。

「あーあ、いっそ刃巫女ですらいて欲しいぐらいね」

 隣に座るゆうなに、ありさはぼやく。

 塚崎の一件が終わると同時に、アーカイブの面々は庫森町から引き上げた。上でどんなパワーゲームがあったのかは知らないが、大規模魔導結社同士の競合を避けるためとのことだ。刃巫女の転校も、アーセナルの処理班により、塚崎の学校襲撃事件の記憶処理と同時になかったことにされた。

「でも、私たちがやらなきゃ、だね」

「……そうね」

 天気予報は、明日土曜日も変わらず雨。

 まだ止みそうにもない。


久遠蒼季でございます。


さてさて、一段落かと思いきや話はまだまだ続きそうな予感。

ここからが、本番ですね!




作中であっさり倒しているようには見えますけど実際問題

・不意打ち

・両足拘束

・使えるのは両翼だけ

この条件で3人でよってたかって殴りかかって撃破に数十分かかっているという(笑)


果てが見えないモノです。




それでは、今日はこの辺りで。


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