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=BlanK † AWard=  作者: 久遠蒼季、すたりあ、緑茶、リブ本
《ChapterⅠ》
31/99

ⅩⅩⅪ:スイッチとチャンネル

リレー小説『=BlanK † AWard=』

執筆者:緑茶

「このッ!」

 前後から襲い来るクナイを、ありさは《ウィル》を振り回しながら迎撃。

 それらは半分叩き落とされ、半分は地面に突き刺さる――影のある地面に。

「と、とととと……っ」

 つまづきそうになりながら、影の場所を変える。クナイは結局地面に突き刺さっただけ。

 ザッ、と地を踏みしめて、涼原を睨む。

「あんた近接でもめちゃくちゃ強いでしょ。だったらこんなことしてないでかかってくればいいのに。どうして」

「……」

 涼原はその言葉に反応を示さない。

 ――彼女には、『見えている』。

 ありさの影、その中にある感情の色を。

 ――煮え立つような、赤い色。怒りの色だ。彼女は今自分に心底苛立ち、一刻も早く打倒したいと願っているらしい。

 それは涼原の力。第Ⅲ章――《触影》と名付けられた力。目に見える者達の影から、その者たちが抱いている感情を、影の色によって判別する。赤は、怒りの色――。

 そこまでは予想通り。しかし妙に思った。……何故、微妙に『緑』が混ざっているのか。緑とは、喜怒哀楽の『楽』を示唆する。この場にいる誰もが――自分でさえ、そんな感情など現在持ち得ない。一体何が彼女に、欠片でもそんな思いを抱かせている――?

 ……何か。向こう側が相変わらず不利である筈なのに、状況を変えうるだけの何かを、握っているということなのか。

 気を取り直して、後方の不思議な風の力を使う少女を見る。……彼女に至っては、感情がまるで読めない。喜怒哀楽、全ての色が混ざり合い、絶妙なバランスで――凪いでいる。心理的揺さぶりは効きそうにない。

 ――やはりこいつらは、何かを、仕掛けるつもりなのだ。涼原はそう思った。


 しかし。その時、その何かを警戒し、いたずらに後退することを彼女は良しとしなかった。

 彼女は焦った。だからこそ、この者達を打倒する必要があると、それでこそ自分と塚崎の完全さが保証されるのだと――そう、考えてしまった。

 完全なる信奉――そこからくる、他者の各々の戦いへの完全な侮蔑。

 それが彼女を支えている強さでもあり――そして、どうしようもない陥穽であるということ。

 ……間もなく、涼原は、思い知らせることになる。


「では来なさい。影達には何もさせないわ。あなたの言う近接でも、あなたを完全に捻り潰してあげましょう」

 見下すように笑い、涼原はありさに対して指をクイと向け、曲げた。

 言葉通り――うぞうぞと蠢いていた黒達は今やただの影法師に過ぎなくなっていた。

「……なら。なら、言われなくたって、そうしてやるわよ。――えーと」

 ありさは詩乃のほうを見る。

「詩乃です。詩は、そのまま詩を吟じる、の詩で、乃は乃木将軍の乃、で――」

「乃木将軍って誰だっけ。まぁいいわ。とりあえず詠唱お願いッ!」

「わかりました」

 微妙にズレた気の抜けるようなやり取りの後――ありさは涼原に向かって、駆けた。

 そして詩乃の、詠唱が始まる。

「……閃きたる雷の精霊――」

 厳かな言葉の響きとは裏腹に、詩乃自身のどこかあどけない声音が、それを紡いでいく。まるで童話のように。遥か彼方から伝わる物語のように。

 ありさは駆ける。

 警戒気味に投げられた幾つものクナイをさばき、前に進む。

 怖くない――怖くない。

 ……――脳裏に描くのは、あの姿。

 あの複合レイドの姿。アレとは違う、目の前の存在は、アレとは違う。目の前の彼女には理由がある。立派な立派な戦う理由があるのだろう。それは自分などではかなわない立派なものなのかもしれない。……ああ結構だ。それはそれで結構だ。好きにやるがいい。

 だけど許せないのは、その後だ。目の前の女は、確実に距離を詰めていくその女は、侮辱した。自分だけじゃない。他の、大切な仲間達の戦いすら侮辱した。

 許せない。それが許せない――と、同時に、だからこそ、怖くない。

 あぁ――目の前のこの女は、人間なのだ。理屈の通じない本能で動く怪物ではない。こうして他者を貶めて、それを打算のうちに入れる――そんな、たった一人の人間だ。

 ……人間と戦うのが嫌? そうだ、それは認めてやる。

 しかし、対峙するのは怖くない。自分と同じレイヤーの中に、この女は居る。だから、戦える――……!

 どこかぎこちない、自分に言い聞かせるような感情と論理の奔流――それを自分の意志で無理やり戦意として錬成して、ありさは《ウィル》を強く握る。

「轟き渡る雷鳴――」

 詠唱は朗々と響く。

 そして。

 ――自分に届く、最後のクナイを打ち払い。

「《ディスチャージ》ッ!」

 ありさは左右にあったコンテナをタ、タン、と足で踏みつけ、飛翔――涼原に向けて、青白く紫電を迸らせる《ウィル》を、突き付ける。

「……」

 クナイと《ウィル》が衝突したのは僅か数秒。当然ながら涼原は足を後ろに摺り――。

「後退なんてさせない! あんたの相手は、このあたしッ!」

 ありさは涼原のかかとに、自分の足を引っ掛けて、思い切り手前に引き込んだ。

 咄嗟に――姿勢を保つため涼原は左足を踏ん張るしかない。その結果、ありさとの距離を更に詰めることになり――。

 ……ゼロレンジでの刃と刃の攻防を余儀なくされる。

「このおおおッ!」

「くッ……不愉快な……ッ!」

 冷静さといえば、やはり涼原はその大部分を欠如していた。そもそも今更《触影》を使ったところで、どうにもならないのだ。詩乃という第三者の介入があった時点で、彼女の中で、完璧が崩壊した。彼女と塚崎だけの世界が崩壊したのだ。それが今の醜態を招いている。

「くッ……!」

 涼原は、大袈裟な動作でクナイを振りかぶる。

 ――その動作は、あたかも『その一撃で全てを終わらせる』ような動きで……しかしその隙の多い動作自体が、ありさの油断を誘うためだったのか。時間は緩慢になり、その動作に対するありさの対応から、この読み合いが意味を成してくる――が。

 ……ありさはその駆け引きから、身を引いた。

 大振りな攻撃は――逆に言えば、それは状況から離脱するにはもってこいのチャンスで――しかし今の状況でそれをやるのは、せっかくの有利からも抜けだすということで――しかしあえてそれをやるというのはつまり……。

「待てッ!」

「あと――よろしくっ」

 自分の敵対者が、入れ替わるということを意味する。

 そう――それは僅かな間の出来事で。

 詩乃が、涼原の目の前に出てくる。そして、詠唱は続く。

 瞬間的な出来事。

万象(ばんしょう)貫く(ほこ)となりて――」

 涼原の頭脳がフルに回転する。

 彼女は見ていた。目の前の少女の、でたらめな技を。

 それが何なのかは当然わからない。しかしあの嵐のような大規模攻撃と、それをなすための詠唱――そんなものを再び起こさせては、何が起きるのか分からない。

 涼原は詩乃の操る力については知らない。だからこそ、その焦りは加速する――そう。この少女が前に出てきた時点で、自分は相当に後手に回ってしまった。このまま交代しても、彼女のあのような攻撃が来るだろう。そしてこのまま接近戦で、詠唱を完成させる事を許してしまえば……――それはぞっとしない想像だ。あの両刃剣を握る少女にずっと対応できるような状況を作るべきだった。彼女と対峙している間なら、後方でこの少女が詠唱を完了しても、対峙者を盾代わりに使うなど、色々やりようはあった。しかし今、詠唱を続けるこの少女と一対一になる今の状況は――非常に、『まずい』。何が起きるか分からないのだから。

 だから涼原は、冷静さを、余裕をかなぐり捨てて、詩乃に対応しにかかった。

 とにかく――再びあの両刃剣を持つ少女と対峙する状況を作り出さねばならない。そのためには目の前のこの少女を地に屈服させるというやり方ではダメだ。大袈裟なほどに後退させ、また入れ替わりが起きるような事をしなければならない。つまり。

 

たった今、どういうわけか、詠唱が、止まった。

 その隙を、利用しないわけには、いかなかった。


「させるものかッ! ――私の影達よ、この少女を縛り上げろッ!」

 それはⅣ章――《黒套》の力。自らの影を操る、比類なき柔軟性を持つ力。

 詠唱途中の少女を、涼原の影から伸びる黒い腕が縛りつける。その四肢に、絡みつく――少女が苦悶に歪む。

「何故お前たちは、この状況下で――」

 こんな風に、足掻いてみせるのか――そう、問うた。それの答えなど、ここに来てはもはや、分かっていたようなものだから。だから涼原は、彼女達を恐れて――。

 詩乃を思い切り、蹴り飛ばした。槍のような蹴りが突き刺さり、縛り上げていた影達はプチプチと弾け、詩乃は吹き飛び――。

「――突き穿て、神衡(しんこう)閃雷(せんらい)

 ――その瞬間、詠唱の続きは果たされた。

「……!」

 ……――詩乃の手から発せられた何かが。

 どこかの誰かに、投げ渡された。

 詩乃は勢いを殺しきれないまま、ザザザと地面を削ぎながらよろめき、後方へ倒れこむ。

 涼原はそれには目もくれなかった。

 自分の犯した過ちを、知覚したから。一つのことに集中しすぎて、外に起きている状況――自分の見ているものが、そのために用意されたものであるかもしれない、そんな状況を見落としたのではないかと、そんな恐怖に駆られたから。

 だからただその輝きを――その時目の端に浮かんだ輝きの在り処を、追った。


 夜空を背景に、コンテナの上に――ありさがいる。

 その手には槍が――雷を迸らせた光の槍が握られている。

「な……――」

 そうか。

 ――涼原は理解してしまった。

 真の狙いは、これだったのだ。

 はじめから、あの少女が攻撃をする予定で――つまりそれは。

 完全なる、自分の――読み合いにおける敗北。

「……七槍七雷(しちそうしちらい)。今は一本だけですが。かわすことは、出来ないでしょう」

 口の端から血を流しつつ、ゆっくりと動揺をかけらもしていない少女――詩乃が起き上がり、涼原に告げる。

「これを以って。あなたの敗北です」

 ――瞬間。

 反射的に、涼原は返していた。

 そうしなければ、自分の積み上げて来たものが全て破壊されると思ったからだ。

「ふ、ざ、け、る……なッ!」

「では。少し痛いですが、我慢して下さい」


 瞬間。ありさは叫び、それを投げつけた。

 涼原は対抗しようとした――。

 ……どうやって?

 それは、自分に飛来するそれは自身が発光し、強い衝撃を発し――やがては、直線の雷となって、涼原を襲った。


 しかしそれは涼原には当たらなかった。

 ありさは狙いを彼女から外した。

 それは涼原のすぐ知覚を穿ったが、地面に穴を開けただけではなく、その槍の周囲に纏った雷撃と衝撃が、大きくススとヒビを創りだした。

 ……つまり。今この瞬間、涼原がそれに当っていれば。

「残り六本。まだ、撃ち出せますが。如何でしょうか」

 ――嫌というほど、突き付けられる現実。

 何故なら自分を見下ろすその少女の手には、二本目が渡されていたから。


 ……塚崎に、どうすべきかと仰ぎたかった。

 しかし、いつもなら簡単に想像できるような彼の言葉が、どういうわけかその時は全く浮かんで来なかった。

 だから涼原は、自分で考えるしかなかった。

 自分で考えて、自分でこう言うしか、なかった。

 ……唇を、血が出るまで強く噛んで。

 その場に、力なくへたり込んで。屈辱のすべてを込めて――重々しく。

「……――私の、負けだ」

 そう。……詩乃の予告通り――決着は、ついたのだった。



   ◯


どうも緑茶です。詩乃の提案した作戦、実はこんな内容でした。

中々に大胆ですが、さてこういうことを恐れなくやれてしまうというのが本当の戦いのコツなのかもしれませんね。

涼原と詩乃ともどもに、まるで性質の違うところで強いものを持っていると思いますが、

そのどちらも、ありさちゃんには何か考えさせるものがあったりするかもしれませんね。

そろそろ全体的に決着が付きそうですね。どうなるか、私自身も楽しみです。

では次回お会いしましょう。

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