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=BlanK † AWard=  作者: 久遠蒼季、すたりあ、緑茶、リブ本
《ChapterⅠ》
3/99

Ⅲ:ハインツという男

リレー小説『=BlanK † AWard=』

「Ⅲ:ハインツという男」

執筆者:緑茶

   ○



 次の日の朝。ハインツは、高校へ行く前の刀真達をゼラニウムに呼び出していた。

「朝から悪いな。でも、言っとかなきゃいけねぇと思ってな」

 まだ眠たげな刀真とありさ、完全に目が冴えている様子のゆうなに向けて、言う。

「……今まで、俺達はレイドを倒してきた。それが人々の日常を守ることにつながるからだ」

 そうだよな? という視線を、刀真達に投げる。

「そりゃ、まぁ……」

「そんなこと言うために呼んだの? 私達を」

 刀真は困惑気味にうなずき、ありさは抗議した。ゆうなは黙ったまま聞いている。

「まぁ聞けや。――俺達は、ただそれを永劫繰り返し続けていればいいと、気を抜けばそんな風にさえ思えそうな状況だった」

 だから――何も難しいことを考える必要はなかった。ただ戦えば、それでよかった。

「だが、この間からのレイド出現頻度の急激な増加。多分今夜も、現れるんだろうな――なんとなく、()()()()()()()()()()。……お前らもそのへんは、なんとなく感づいてるよな?」

 口火を切ったのはゆうなだった。

「うん。多分、みんなその場その場で必死で……あんまり表には出してなかったけど。みんな、頭の片隅には、いつもあったと思う。その『いやな感じ』が」

 ゆうなは意思を確認するように、刀真とありさの方を見た。

「……正直、それは俺も、思ってた」

「え? 思ってたなら言えばよかったじゃない。……私もだけど。でも、それが何?」

 刀真は考えこむように俯く。

「あー、ありさよ。何にせよ自分らに出来るのは戦うだけだから、それ以上でもそれ以下でもねぇって口ぶりだな」

「そうだけど。他に何かがあるわけでもないんじゃない? 大丈夫でしょ、私達なら」

「おい、おい……」

 刀真が不敵なありさの発言に対して不安そうに言う。ゆうなは苦笑する。

「何にせよ、だ。支部長は『保留中』と言ってるが、偶然が積み重なりゃそれは必然だ。だから、これから先俺達の日々に、何かの変化が訪れるかもしれねぇわけだ」

 無論、それがいつになるかは、どんなものになるのかはまるでわからない。だからこそ、今言うにしては少々大袈裟に過ぎるかもしれなくても、釘を差すようにこれを告げておく必要がある。ハインツはそう判断した。

「そうなった時大事なのは、自分の足元がどれだけ固まってるかってことで――あぁ、別に脅してるわけじゃねぇ」

 朝っぱらから呼びつけてこんな重い話をする自分自身を苦々しく思いつつも、ハインツは続けた。今のうちに、いや――まだあれこれやる余裕がある今だからこそ、言っておいたほうがいいことだと思ったからだ。

 頭を掻きながら――自分より年下の少年少女達に、告げた。

「ただ、自分達が今ここに居て、戦っていることの意味ぐらいは、きっちり考え始めてもいい頃合いだ。そいつは自分で考えたもんなら、なんだっていいからよ。来るべきその時が、この先の人生で何回も訪れる『立ち止まって、何かを考える時』の、多分最初の地点だ――」

「……あぁ。とりあえず、意識はしてみるよ。でも、どこまで出来るかどうか分からない」

 不安そうに、しかしながらしっかりとハインツの方を向いて刀真は言った。

「んー。そういうことか……ごめん、ハインツ。大事なことよね、それはすごく」

 素直に謝罪するありさ。それを見て優しげに微笑して、ゆうなはハインツの方に顔を向けた。

 ハインツは満足したのか、その様子に対して頷いて、手を叩いた。

「ほら、話は終わりだ。お前らは戦いもそうだが、勉強も同じくらい大事だぜ。解散!」

 その話は、それで終わった。



  ◯



 ハインツ・アルブレヒト――二十四歳。ドイツ人。

 刀真達がやってくるより前、庫森支部設立に伴い、海外支部から異動。以降、庫森支部の兄貴分的存在に。

 趣味――釣りとバイク整備。

 刀真曰く――『ときどきめんどくさいけど、頼りになる先輩』。

 ゆうな曰く――『明るくて気のいいお兄さんみたいな存在』。

 次郎曰く――『ずっとコート着てるけど暑くないんだろうか』。

 ありさ曰く――『名前がこれ以上ないほどケチャップ』。

 結子曰く――『極普通の青年』。



 一面の荒野の中に、彼は居た。

 くすんだ金髪とコートをはためかせながら、ハインツ・アルブレヒトは前方を見据える――疲労の溜まった目で。

 彼は戦っていた――そしてそれはまもなく、終わろうとしていた。

 目の前に、巨岩が三つ行儀よく並んでいる。ゆうに二m半はある。

 彼は呼んでも答えるわけのないそいつらに愚痴を言いたくなったが、やめた。

「……まぁ、俺が呼んだわけだしな。お前らを恨むのは筋違いってわけだ」

 そう言って――フッと笑ってみせる。そのまま、両手を胸の前で水平に合わせる。中国の抱拳礼だ。

 その肘から拳にかけては、メカニカルなグローブのようなもので覆われており、その側面には自動拳銃のスライドのような部位が見えている。これが彼のアームド・ウェポンである。

 目の前で祈るように重ねられた拳――ハインツはそれを、勢い良く後方へ引く。

 キリキリ――スライドが引き絞られる音。ガチャン――弾丸が装填される音。

――足を広げる、裾がはためく――左拳、右拳、音速を超える勢いで空を殴る、次の瞬間。

 空気が、爆ぜる――轟音が荒野に響く、それは銃声。拳から放たれた弾丸。

 左右順に銃弾が、彼のアームド・ウェポンたるガングローブ――《エンテグート》《アレスグート》から放たれ――その時には既に。

 ハインツは駆けていた。彼は視線を左右に一回ずつ、慌ただしく動かした。

正面の巨岩は、銃弾の到来を待ち続けていた。――いや、しかし、ならば。

 ――正面に居たハインツは、どこにいる?

 巨岩の、上空。

 ……彼は。

 ――()()()()()()()()()()()

ハインツは駆ける勢いのまま地面を『殴り撃ち』、その衝撃を利用して空中に飛び上がっていた――。

 その時――左右二つの巨岩。その下部に、弾丸が炸裂した。先ほど、正面に向かって放たれたはずの弾丸が。

 これこそが彼の《アワード》の力の一つ――アームド・ウェポンから放たれた銃弾の軌道を、瞬時にプログラミング、任意の軌道を描いて着弾させる。

ハインツの身体はジェット噴射のように勢いのついたまま、正面の巨岩へアプローチ。

 左右の巨岩、弾着点。

 それはパキン、と軽い音を立てて――凍った。これも彼の《アワード》による力。放たれた銃弾は、着弾した瞬間、氷結する。

 その状態の左右の巨岩を尻目に。

 ハインツは正面のハウンドの眼前に着地。大地が放射状に、僅かにめくれ上がる。

 口から――白く冷たい吐息。

 そして、その右拳が、正面の巨岩に向けて振り抜かれる。

 ぐらりと空気が揺れ、土煙が舞い――。

「――砕け散れッ!」

 ハインツは吠える。その拳が、爆ぜる――超至近距離射撃。

 瞬間、巨岩は、バキバキと氷結する――一つの巨大なオブジェのように。

 彼はもう一度それに拳を浴びせる――すると、樹形図のようなヒビが氷に入り。

 巨岩ごと、氷像を粉々に砕ききった。

 彼は身を翻し、足元が凍りついた二つの巨岩にも、同様に拳を振るった。

 ――あとには巨岩の欠片と、溶け始めた氷の礫の数々が残った。

それからまた冷気に塗れた吐息をこぼし――。

「……あー、シュールこの上ねぇな。この状況」

 ――そう、ぼやいた。

 その時。

「お疲れ様。そんな無茶も、そろそろキツくなる頃合いよ」

 凛、とした落ち着いた女性の声が響く。

 すると、ハインツの周りを取り囲む荒野の情景が、緑のグリッド線に覆われ、たちどころに消失した。

 ……ハインツは、いささか無機質な窓のない、それでいて相当にだだっ広い空間の中に立っていた。

「まだだ……まだもうちょい、色々考えて……動くようにしねぇと」

 彼はそう言うと、その空間の中の一角、自動扉のある入口付近にドカッと腰を降ろした。

 彼のもたれかかる壁に、もう一人居る――すらりとした体躯を白いワイシャツとタイトなジーンズで包み、髪を後ろにコンパクトに纏め、優しげな風貌を、右目の眼帯が引き締めている。

 支部長の灯結子だ。彼女は何か壁にあるコンソールのようなものを押していた。

 ――ここは『カフェ・ゼラニウム』の地下に存在する庫森支部――そこに備わった設備の一つ、シミュレーションルームである。ヴァーチャルリアリティ空間を展開し、様々にトレーニングが出来る。

 ハインツは羽織っていた厚ぼったいコートを脱ぎ、その下の黒いタンクトップも脱いだ。鍛え上げられた細身の筋肉質の身体に、じっとりとあますところなく汗を掻いている。

 くすりと結子は笑い、何かを彼に投げ渡す。

「さすがだ――おそろしく気が利く」

 スポーツドリンク、それからタオルだ。短いながらも真実味のある感謝を述べると、ハインツは一気にペットボトルの中のドリンクを喉に流し込む。がっしりした首の奥で、喉が動くのが分かる。

「貴方は十分強いわ。少なくともこんな長時間のトレーニングは必要ないくらい」

 ――刀真達を学校に向かわせた後、ハインツがここにやって来てトレーニングを始めてから、既に三時間ほど経過していた。時刻は十一時を回っている。じきに正午だ。

「そういうことじゃないのは……貴女が一番解ってるでしょう」

 ハインツは胸回りの汗をタオルで拭い去ると、首にかけて、結子に言った。

「戦い方を……色々、模索していかねぇと、と思うんです。今はその入口だが……――年長者の、司令塔としての戦い方を、俺は身につけなきゃいけない、確かに俺が最強になれるのはインファイトだ。――だが、あいつらと一緒に最大の結果を生み出すのは、きっとそれじゃない。俺達は、チームなんだから」

 自分に言い聞かせるように――確かにハインツとしても、単純な力比べであれば、それなりに自信があった。今まで戦ってきた年月が、それの裏付けになるからだ。

 しかし、こうして新設された支部にやってきて、支部長以外の全員が自分より年下の少年少女という状況。――ハインツにとって、慣れた状況ではない。

「気負い過ぎは、余計に毒よ。貴方の緊張があの子達に伝わっちゃうもの」

 結子は、さらりと、しかしどこにも逃さないような口調で言う――。

「……貴女には、敵いませんよ。どうしようもなく、その通りだ……頼れる兄貴分であろうと必死になっちゃいるが。所詮俺は、まだ20そこらの若造だ」

 そうハインツは苦笑する。――指摘されて、それを認めることで逆に肩の力が抜けたのか、彼の表情は、疲労が伺えながらもリラックスしたものになった。

 ……灯結子という人は、自分から進んで何か状況を動かそうとする性格ではない。しかし、驚くほど周囲のことをよく見ている。だからどのタイミングで誰に何を言えばいいのか、すっかり把握している。そう、まるでこの支部という場所における、母親のような――。

「後でシャワーでも浴びなさい。汗を放置していたら、風邪を引いてしまうわよ」

「……あんたも。根を詰めすぎないほうがいいぜ」

 その言葉に、結子はくすりと大人の女性の笑みを見せて言った。

「大丈夫よ。こんなの、今までの色々に比べれば大したことはないわ」

「そうですか。……しかしまぁ、ほどほどにしてくださいよ。貴女のカレーを食べられなくなったら、皆残念がる」

 ――結子は今からも輝核とレイドについてのあれこれを、大量の資料にまみれながら調べるのだろう。しかしそんな重さを微塵も感じさせることなく、ひらりと手を振って、自動扉の向こうへ去っていった。

 天井から降り注ぐ大型クーラーの大雑把な冷気で身体を冷ましつつ、ハインツは、今朝の自分の刀真達への説教を思い出す――背伸びをして、嘆く。

「いきなりあんな風に発破かけちまってよかったのか……」

 自分が信用されていない、とは思わない。しかしながら、やはりああいう話をするには少々時間が浅い気もした。

 少なくともハインツも、皆も――胸のうちのすべてを語るつもりは全く無いし、別にそうする必要はない。

 だがここの全員が、自分も含め――多分色々なことを胸のうちに抱えている。

 ――あいつらの目を見れば、色々分かる。それが何かは分からなくても、何かを抱えているということは理解できる。

ハインツの考えはこうだ――そんな状態で各々が自家中毒に陥っていたのでは、どうにもならない。

 だからこそ、もしかしたらこれから先、自分達は互いを理解したうえで、庫森支部として結束を高める必要があるのかもしれない――それはきっと、俺達なら。俺達なら、出来る筈だ。

「これから始まるのかもな……俺達の、本当の戦いの日々ってやつが……」

 そう、呟いた。

 ……――そこで、腹が鳴った。

 天使の時間というやつだ。十二時よりは早いが、腹ごしらえをしたいところだ。

 とはいえ、いつもゼラニウムでタダ飯、というのは――成人男性としては、なかなかに心苦しい。

 彼はコートのポケットから財布を取り出して、中身を確認する……。

「……」

 すっかり忘れていた。

 この間阿呆の如く大量に酒を買ったのと、バイクの整備代で金がすっ飛んでいたのだ。

 ハインツは情けないため息をついて、のろのろと立ち上がる。

 それからわしわしと髪の毛を掻き、またこぼす。

「……支部長手伝って、バイト代貰うか……」

 無論それは喫茶店のほうの仕事である。

 ――彼は己のエプロン姿を想像した。

 ハインツは苦笑して、そのままずずず、と壁にもたれて、ほんの少しだけ眠った。


お久しぶりです、緑茶です。

今回はハインツ・アルブレヒトという登場人物その人についての話になりました。

彼は所謂兄貴分キャラではあるのですが、実際の24歳というのは果たしてそこまでどっしり構えられるものなのか?

という思いがありました。死ぬまで続けることになる「大人」になってたったの四年ですからね。

だからきっと彼はこれからも、結構泥臭く頑張っていくんじゃないでしょうか。

彼の色々については、これからもどんどん明らかになっていくと思うので、皆さんには是非、

今回の結子さんのような視点で、彼の物語を追いかけていっていただきたいですね。

ではまたお会いしましょう、ありがとうございました。

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