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=BlanK † AWard=  作者: 久遠蒼季、すたりあ、緑茶、リブ本
《ChapterⅠ》
25/99

ⅩⅩⅤ:その手にある力

リレー小説『=BlanK † AWard=』

執筆者:久遠蒼季

「ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

 咆哮と共に魔法陣が岩塊に弾き飛ばされる。あまりの衝撃にコンテナの上にいた次郎と詩乃は咄嗟に地面へと飛び降りる。見れば光弾を受けていた中心点にそびえ立つ影。一体のハウンドが猛然と雄叫びを上げていた。

「なるほど」

 呟く先には、輝核を砕かれて倒れ伏して消え行く、もう一体のハウンド。二体の間でどういったやりとりがあったかは分からないが、片割れが盾になる事で窮地を凌いだようだった。

 ちらり、と詩乃は見渡す。砕かれたコンテナの残骸、明滅する電灯、こちらに向かってくる刃巫女と白井。それらを一別すると詩乃は隣でハウンドの様子を伺う次郎へと声をかける。

「ここはみなさんにお任せします」

 次郎が振り返った頃には、もう詩乃の姿はなかった。

「げっ」

 任されたからには、と気を取り直して次郎がハウンドを見ると、転がっていたD2クラスの輝核を飲み込んでいるところであった。



 コンテナに背を預けながら、ありさは息を整える。ハウンドを一体撃破してた後、涼原の姿を探していた。ただでさえ遮蔽物が多いコンテナ街だというのに一連の戦闘を通して足場はかなり悪くなっている。視線が通らない場所も増えている。遠くで聞こえる戦闘音。音の大きさから考えるに、恐らくは残りのハウンドだろう。依然、涼原の位置は掴めていない。

「あの」

 突然の声に跳ね上がりながら振り向く。慌てながら武器を向けるとそこには詩乃がいた。

「お、驚かさないでよ……!」

「失礼しました。では本題ですけど」

 ありさの小声の抗議も何のその、詩乃は自らの用件を果たしにかかる。

「あなたの能力と、相手の能力を簡潔に教えてください」

「はい!?」

 唐突な要求に思わず声が裏返る。

「何でアンタに教えなくちゃいけないのよ!?」

 武装魔導師(ウィザード)にとって能力とは急所中の急所である。攻略するための策を企てられれば致命傷に繋がる。そうやすやすと教えられる物ではない。

「何故と聞かれれば、作戦が立てられないからです」

 だというのに詩乃は、あっさりと告げる。

「現状、D2ハウンド一体とストレイ・ウィザード一人。こちらの戦力の半分以下ですけど、イレギュラーがあればこの戦力差は容易に覆ります」

 淡々と告げながら、ありさに背を向けて周囲に視線を向ける。

 目的を見据えて、邁進する。その背姿は、よく見知った少女とどこか重なった。いつだって前に立ち、朝日のように笑うあの少女の。

 淡々として分かりづらく冷たく見えたり、その上どこかズレているような印象さえ受けるが、その根幹にはきっとあの彼女と近い物があるのだろう。

「……わかったわよ」

「ご理解いただけて何よりです」

 そうして手短に、ありさは自身の能力と判明している限りの涼原の能力を伝えた。それを聞いた詩乃は口元に手を当てて数秒思案する。

「では私の力も伝えておきます」

 言いながら、詩乃は傍らに浮遊する自らの《アワード》を指さした。

「章能力三つの並列運用。一つを属性指定、一つを形状指定、一つを動作指定に用い、これらを言の葉を以て魔力で紡ぎ、力と成す技術体系を詠唱魔法と呼びます」

 私のはフィルマ式詠唱魔法です、とさらに付け加えるが、そもそもの初めて聞く単語の羅列にありさの頭はショート寸前であった。

「もう一回いい?」

「つまり、あなたの仲間の尻尾の人が魔法陣でやる事を、呪文という形で発生する事により力を使っています」

 次郎の障壁や魔法弾は魔法陣を描く事により発生させ、その種類により威力・弾速などを調整できる。詠唱魔法は、それを発声により行うのだ。

最も効率よく魔力を変換させて力に換えるために編まれた言の葉の集大成、それが詠唱魔法である。無論、章を三つ併用するという特徴上、Ⅱ章からⅣ章まで一気に解放できない者は詠唱魔法を扱う事はできない。例えば、大組織などに所属して潤沢なスピリアを用意するなどしなければ、この条件は満たせないだろう。

 こうして詠唱魔法を扱う者は、魔術師もしくはスペルキャスターの称号を得る。

「それで、作戦ですけど――」

 詩乃はありさに近づき、耳打ちする。その内容にありさは口を手で隠し、目を細める。

「アンタ正気? いくらなんでもアンタの負担が大きすぎない?」

「いえ」

 ピッと、指でメガネをなおす。

「勝つためなら普通です」

 じっと見つめられ、思わずありさは目をそらす。その策には、確かに勝機があった。

「……わかった。乗るわよ」

「ありがとうございます。それではバーストシフト、開始しましょう」



   ○



 夜の木々に囲まれた闇の中で塚崎と対峙しながら、刀真は右手で《アワード》を掴み、左手で受け取った小瓶の蓋を指で弾く。そして躊躇わず《アワード》へとその小瓶の中の液体、スピリアを注ぐ。液体は魔導書に触れる前に文字の形を成し、開いたページへと吸収されていく。そうして刀真の《アワード》の周囲に浮かぶ三つの光球の間に、不定型な光が形成された。これで新しい章能力を解放させる準備は整った。

「なるほど、スピリアか。どうやら新たな能力を解放させる準備も整ったようだな」

 塚崎は取り乱す様子もなく、刀真とゆうなを見据える。

「それで、一体どのような能力を得るつもりだ?」

 思わず刀真は息を飲む。章能力を解放するに当たって重要なのは、明確なイメージ。問題がなければ能力は完全な状態で発現する。だがそこに陰りがあれば、何か欠点を孕んだ物となる。本部から戻った結子が、手にしていたはずのスピリアをすぐに刀真へと渡さなかったのは、これを考えた為である。追走戦、加えてゆうなの《アワード》が奪われている状況で冷静に能力を構築するのは至難を極める。

(どうする!? 相手は強い。近接能力が高い。でも、だけど――)

 様々な思考が駆け巡る。今まで出会った武装魔導師(ウィザード)の能力が頭を駆け巡り、選択肢が無限に広がっていくのを感じる。

「刀真くん」

 そんな中、絡まった糸を立つような凛とした声に、ハッと振り返る。そこにはいつも通りのゆうなが立っていた。

 いや、いつも通りなどではない。体のあちらこちらに絆創膏が見られたし、服の下からは包帯が覗いていた。無理をして駆けつけたのだろう。

 結子は刀真にスピリアは混乱を招く原因になると渡さなかった。それでもゆうなは、今の刀真に必要であると感じたのだ。それが彼の助けになると、未来に繋がると。足を止める事になるなど、僅かにも浮かばない。

「自分の想いを信じて」

 それは、彼女の信頼に他ならない。

「さぁ、いつまでも待つ気はないぞ?」

 塚崎は《シキカク》その形状の通り指揮棒のように振り上げる。それに併せて塚崎の背後のサッカーボール大の岩が五つ、浮かび上がる。それは空中で制止し得物を見据える獣のように待機していた。塚崎のⅡ章 《イトクリ》は無生物であれば、魔力糸をつけて容易に操れる。岩を掴む事などたやすい。

「では採点と行こうか」

 豪速を以て放たれる五つの岩。しかし《アワード》を起動した状態の武装魔導師(ウィザード)は魔力に覆われ、生半可な物理攻撃は通じない。

「クッ……!」

 それはつまり、ゆうなが全くの無防備であるという事を意味する。刀真は《アワード》を空中静止状態へと戻し、魔力を籠めて振り抜く。

「剣技・斬空剣(ざんくうけん)!!」

 中空で振り抜かれる一閃。その刃から蒼い半月上の衝撃波が放たれ、迫り来る岩を砕く。返す刃でさらに剣閃を放ち残る岩も全て粉砕する。

「がら空きだ」

 その声に、刀真の喉が干上がる。岩を砕くために放った剣閃の死角から、塚崎が零距離まで迫っていた。慌てて刀をそちらへと向ける。辛うじて光刃を纏った切っ先を受け止める事に成功するが、体勢が悪くバランスを崩す。

「刀真くんっ!」

 刃が捻られ、拮抗が崩れる。姿勢制御がままならない刀真の背に、《シキカク》の刃が迫る。そこから刀真は地面を蹴りながら刀身に籠めた攻性魔力を炸裂させ、その勢いを利用して力業でその刃を弾く。

その時、刀真は気づいた。

《シキカク》の光刃が解かれている事に。

「ガッ……!?」

 直後、背後からとてつもない衝撃を受け、口から空気を絞り出される。想定外の痛みに視界が歪む。襲い来たのは先ほどの岩の残骸。それでも魔力を通して相応の加速度を持たせれば威力は上がる。塚崎は魔力糸を用い、先ほどと違い岩に十分な魔力を籠めて殴りつけたのだ。

 追撃に迫る塚崎。防御の為に右腕鎧装を回すが間に合わず、塚崎の蹴りが刀真の胴へとねじ込まれる。

「ゴッ、ボォッ……!!」

 しっかりと練り上げられたハンマーのような一撃に踏みとどまりきれず、刀真はごろごろと地面を転がる。痛みを無視し、受け身を取って立ち上がると、目の前の状況に絶句した。

 大木を背にしたゆうなに突きつけられる《シキカク》。刀真という守りを失えば、こうなる事は当然の帰結であった。

「あまり人の命を奪いたいと思わないが、奪った《アワード》が使えないなら仕方ない」

 塚崎は決して甘い相手ではない。この距離から逃れる術は、ゆうなにない。

「所有者を失えばどうなるか、試すほか無いだろう?」

 その言葉に全身の毛が逆立つのを、刀真は感じた。

「その人から刃を放せッ……!」

「君の言葉を聞く道理がどこにある?」

 その冷たい視線に、それが脅しでない事が見て取れた。

 目の前の光景に心拍数が跳ね上がる。呼吸も荒くなる。歯が鳴り、視点も定まらない。木々に囲まれた夜闇の中、月光に照らされた二人だけが、目に焼き付いた。

 塚崎は、そんな彼からふっと視線を切った。《シキカク》切っ先が僅かに後ろへと下がる。それが何を意味するか考えるまでもない。

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!」

 叫びと共に、刀真はグリップのトリガーを引く。刀の刃が外れ、ワイヤーが結ばれた刀身が勢いよく射出される。刃は一直線に塚崎へと向かっていく。

 だが、刀真は気づいてしまった。

 この刃は、届かない。距離に対して、速度と残された時間が足りていない。

 これは、あの時の再現。校庭で逃げるラットの背に放った刃と同じ道を辿る。その想いが届く事はない。

 迎える結末も、変わらない。

 自分は何の為に力を求めたのか。何を望んで力を使うと決めたのか。

手を伸ばしても届かなかった、忘れられない、暗く影を落とす過去。もう二度とそんな結末を見ない為ではなかったのか。

 塚崎の刃がゆうなの首にさしかかる。

 この手が届かない為に、大切な人が失われる。

(そんなことは、認められない――!!)

 瞬間、蒼い奔光が閃いた。


 ガインッ、と鈍い金属音が響く。

 かくて、塚崎の凶刃は刀真の刃に弾かれていた。


 想定外の出来事に、塚崎は目を見開く。あの距離からでは、間に合わない。それは今までの戦闘から把握していた、覆らない決定事項のはずだ。驚愕に満ちた瞳で、《シキカク》を弾いた刃を見る。

(蒼銀のユニット――)

その後端にはワイヤーの他に、先ほどまではなかった機械的なユニットが二つ、銀色の刃を挟み込むように付属していた。

 刀真は手首を捻り、さらに奥の木の幹へとワイヤーを絡ませてトリガーを引く。巻き取られる強烈な速度を以て、刀真は宙を駆ける。そうして得た運動エネルギーを糧に、短刀を放り出し、空を舞いながら右の拳を握り締め、弓を構えるように引く。その勢いに身を任せ塚崎へと拳を向ける。それを視認した塚崎は《イトクリ》の身体外部操作を用い即座に防御姿勢へと移ろうとする。

 だがその光刃が触れる瞬間、刀真の右拳が蒼い光を噴き出し加速する。自動防御の先を行く速度を得た鉄拳は、塚崎の顔面へと叩き付けられる。

 ドゴンッ、という鈍い音と共に、鎧装を纏った拳が塚崎の顎を穿った。爆発的な痛みに視界が揺らぐ。

「チィッ!」

 姿勢を崩しながらも塚崎は地面を蹴って後退する。対する刀真は滑るように着地し、放り出していたグリップを掴み、再びトリガーを引く。それと同時に刃は定位置へと戻り、短刀の形を成す。

「アンタがどれだけの理由で戦ってるのか知らないし、俺が戦ってる理由なんて、それに比べちゃ、大したこと無いのかもしれない」

 刀真は自らの右腕鎧装と短刀に視線を落とす。そこには、人智を越えた力が宿っている。確かにきっかけは偶然でしかなかった。戦いを続けてきた理由も、あやふやな動機だったかもしれない。ヒーローごっこと揶揄されても声高に否定はできない。

「でも、俺はもう後悔したくない。だから、覚悟を決める」

 けどそれは、尻込みする理由にはならない。その心には、大切にしたいと思えるものが確かにあった。


「――俺は手を伸ばし続ける。そして、(みんな)を護ってみせる。それが俺の想いだッ!!」

 護る為に戦う。それが刀真の想いであった。


 そして、その為の力がここにはある。

 刀真の《アワード》は今や四つの光球を纏っていた。そこに現代には失われた文字で綴られる、新たな物語。

 Ⅳ章 《その翼は誰が為に》。


みなさま、久遠蒼季でございます。


なかなか時間がかかったような短かったような、そんな7週目です。

リレー小説というのは難しいものでして、何を書いていて何を書いていないか。

そんな事をつねづね思い返しながら、いつも原稿を読み返してます(笑)



さて、塚崎編もいよいよクライマックス!

いろいろと蒔いてきた種が芽吹いてきた頃ですね!



物語の中身にすこーし触れますと、彼は戸惑いながらも、ついに覚悟を決めました。

人を、護ると。

果たして、その結末は……!




それでは、今日はこの辺りで。


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