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=BlanK † AWard=  作者: 久遠蒼季、すたりあ、緑茶、リブ本
《ChapterⅠ》
13/99

ⅩⅢ:スカーレット・ドライバー

リレー小説『=BlanK † AWard=』

「ⅩⅢ:スカーレット・ドライバー」 ※旧9話

執筆者:久遠蒼季

   ○



 斬る、払う。返す一閃で弾く。

 迫り来るラットの群れを、刀真は的確に手にした《ガーディアンズ・アーム》で捌いていく。形状は鞭。大多数を相手取るなら最適解である。遮蔽物のない校庭の中心で、刀真はアームド・ウェポンを頼りに大立ち回りを演じていた。

 バックステップと同時に手首のスナップをきかせ、刀真は柄のトリガーを引きながら振るう。後端に太いワイヤーを結んだ刃は瞬く間に鞭となり、前方のラットたちを大きく薙ぎ払う。返す刀で横へと腕を振ると、追従した鞭と刃が横から迫る一団の接近を牽制する。そうしてもう一度トリガーを引いてワイヤーを巻き取り、短刀の状態へと戻す。

 最適解、とはいったが状況は芳しくない。

 刀真の視線の先に立つ、一人の男、塚崎。距離、およそ四十m。彼の有するアームド・ウェポン。形状は一見して短剣に見えるが、今だからこそわかる。

アレは短剣ではなく指揮棒(タクト)である。

 塚崎のアームド・ウェポンの動きに合わせ、ラットは刀真へと襲いかかる。その一団を凌いだかと思えばすぐさま背後から別の一団が迫る。辛うじて反撃に転じても、倒すべきラットはそこにはなく、後ろへと下げられている。

 深追いしない、シンプルなヒットアンドアウェイ。塚崎はそれを適宜、アームド・ウェポンを介して指示しているだけ。だがその戦術はこれ以上もないほど効果的に働いている。撃破できたのは、僅か二体だ。加えて少しでも校舎の方へと向かうそぶりを見せられれば多少無理をしてでもそちらに対処しなくてはならない。結果、それは綻びを生み、攻撃を受ける隙となる。戦闘を開始してからまだ十数分しか経過していないが、刀真の体力はかなり削られてきている。

 息が上がる。だが呼吸を整えなければ次に備えられない。左手の甲で汗をぬぐう。

 刀真がこの力を手にしたのはいくつかの偶然が重なったからだ。選択肢があったわけでもなく、よく考えた末のことでもなかったかもしれない。当然、生まれついての戦士などではない。

 それでも、今やるべき事だけはハッキリしている。

 任された仕事を、務めることが今やるべき事である。



 その戦いを、ゆうなは校舎内を慎重に移動しながら、窓越しに見ていた。

 状況は芳しくない。本音を言えば、今すぐにでも加勢したい。それでもそれでは刀真の努力が無駄になる。ここは信じるほかないのだ。

 ゆうなは少し目を閉じて、校舎内の階段を駆け上がる。あたりを見回せば塚崎の結界によって昏倒させられたと思しき生徒たちが大量に倒れていた。かぶりを振ってゆうなはさらに階段を駆け上がる。

 塚崎の一連の行動から、いくつかの事が推測できる。

 一つ、塚崎がレイドを指揮できる範囲は少なく見積もっても結界内全域。

 二つ、指揮はレイドに限られ人間には使えない。使えるのであれば生徒を大量に操って人質にした方がよほど効果的である。

 三つ、動体感知能力はない。あるのなら、初手でレイドを差し向けられて詰まされている。

 四つ、敵は校舎後端とグラウンドに戦力を集中させている。

 以上のことから、敵は動いている物ではなく、魔力反応、つまり起動している《アワード》を感知していると推測される。言い換えればアームド・ウェポンさえ出さなければ、位置は捕まれないという事だ。

 そして、作戦の要となる最後のピース。

 五つ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 敵が結界を張る地点として選んだのは、ここ東庫森高等学校。ここにはアーセナル庫森支部の面々が三人も在籍している。事前から準備をしているのであれば、ここ以上に狙いをつけやすい場所はないだろう。

 しかし、毒島刃巫女が転校してきたのは昨日の話だ。昨日の刃巫女からのリークも塚崎と関連があると見るなら、自分たちが農場跡地へと向かった為にこちらの計画が実行に移されたと考えるのが妥当である。計画変更にあたって情報を再収集する時間があったとは思えない。

 職員室から拝借してきた鍵を用いて、ゆうなは屋上へと繋がる扉を開ける。眼前にはただただ広い空間、空は極彩色の結界。トラップの類いがない事に胸をなで下ろす。

 左手に《アワード》を構え、改めて戦場を見下ろす。刀真の限界はそう遠くない。

 結界内で起動しているこちらの《アワード》は三つ。敵が把握している武装魔導師(ウィザード)の数も三人。となれば、この手にしている四冊目の《アワード》)を、塚崎は把握できていない。

 これは賭けだ。もし気づいているなら奇襲は最大限警戒しているだろう。反撃の手はずも。

 問題はまだある。

 結界内の魔力反応を探知できるなら、奇襲を行う事はかなり困難である。《アワード》を開いて起動待機の状態にするのに一秒。アームド・ウェポンの形成に一秒。間合いを詰めて一撃を入れるのに一秒。計、約三秒。初手から気付かれれば、対応するには充分な時間である。

 故に、この強襲は一秒で行われなければならない。

 屋上の端、非常階段部分は周囲が塀に覆われ、一番端の柵は低くなっている。身を屈めたまま塀へと近づき、校庭へと視線を向ける。校庭で依然繰り広げられる戦闘。そこから少し離れた所に塚崎。ここからの直線距離はおよそ三十m。取るべき方策は定まった。

 自分でもわかるぐらいに心拍数が上がっている。失敗すればどうなるか、考えるまでもない。心臓の音が五月蠅い。乱れそうになる呼吸を必死に押さえつける。失敗のイメージが次から次へと溢れ出してくる。

 それでもあそこには自分を信じて戦っている仲間がいる。なら、応えなければ嘘である。

 意を決し、ゆうなは非常階段から離れ、屋上の端へと向かう。助走距離は十分。左手は撃鉄を起こすように《アワード》へ。

 ダンッ、と踏みしめ、ゆうなは駆け出す。初速からトップスピードへ。脇目もふらずに駆け抜け、跳躍して非常階段の柵へ足を蹴り、

(――ッ)

 飛ぶ。

 干上がる喉、宙に放り出される肢体。それでも、すぐさま空中で姿勢を制御し下を見据える。すぐさま《アワード》を起動したい衝動に駆られるが、恐ろしい程の理性でそれを抑えつける。

 まだ遠い。

 すさまじい勢いで迫る地面。景色が流れる速度も速い。

 二十m、十五m。

(今ッ!)

 指で《アワード》の表紙を弾いて、宙へと放る。落下するゆうなの後を追うように光の紙片が追従する。

「リアクト・――」

 形成される赤柄の長槍。異変に気づいた塚崎がそちらを向いて目を見開く。だがもう遅い。

「オンッ!!」

 インパクトの瞬間に槍に焔を纏わせ、最大の一撃を持って、ゆうなは槍を叩き付けた。遅れるように、《アワード》がゆうなの傍らへと浮遊する。

 辺りに粉塵が舞う。瞬間敵に視界が遮られ、二人の姿が見えなくなる。塚崎からの攻撃指揮が途切れたのか、ラットたちは刀真への攻撃を止めて後ろへと下がり、隙なく周囲を取り囲み、間合いを計る。

 一陣の風が吹き、視界が晴れる。

 そこには槍を振り下ろしたままの姿勢のゆうなと、

「なるほど、そう来たか」

 光刃を纏うアームド・ウェポンを以て、それを受け止める塚崎の姿があった。

 これこそが、塚崎の秘中の秘。彼の《アワード》の能力、レイドを操るⅢ章 《イトクリ》を自身に接続して体を外側から操作し、オートガードと卓越した戦闘技術を得る。そして魔力を攻性エネルギーとして纏うⅡ章 《ミチカラ》。光刃と身体外部操作、そしてオートガード。それが指揮棒(タクト)のアームド・ウェポン《シキカク》の秘奥である。

 上空からの強襲は想定外であった。確かに驚愕もした。《イトクリ》によるオートガードがなければおそらく敗北していただろう。だがそれまでである。返す刀で斬り伏せれば決着はつく。


 だというのに、ゆうなはなお、凛と笑う。


 槍を掴む手首を捻り、ゆうなは光刃から切っ先をそらして地面へと着地する。そしてそのままの姿勢から槍をグルリと回し、背後も見ずに槍を打ち付ける。

「なッ――!?」

 今度こそ、塚崎は驚愕する。オートガードが作動しその一撃は止まるが、それを手応えで確認するや否や、ゆうなは槍を縦に回転させ、今度は石突きの方で穿ちにかかる。その攻撃が弾かれれば、次は槍と共に体を回して袈裟に斬りつける。

 斬撃、刺突を重ね合わせた連撃。全て光刃によって防がれるが、それすらも織り込み済みである。体を大きく捻りながら槍を振るい、背後へと回りつつ背中を打ち抜きにかかる。奇襲にすら似た斬撃が塚崎を襲うが、驚異的な反応速度で光刃をそちらへと向かわせそれを弾いた。

 だが、塚崎の表情は厳しい。

神速の自動防御。それは肉体の限界を超えることを意味する。《イトクリ》による身体操作に肉体の方が追いついていないのだ。

「調子に乗るな!」

《イトクリ》に命じ、必要な戦闘技能を体に伝わせる。ゆうなの槍の側面に光刃を当て、そこから手首を回しながら大きく腕を振り上げる。剣道でいう巻き技の極致。回転の力に巻き上げられ、ゆうなの長槍は遙か遠く空を舞った。

 これで敵は武器を失った。後は振り上げた腕を下ろし、無防備な相手を斬るだけだ。

 ブウンッ、と斜めに振られる光刃。

 だがそれよりも速く、ゆうなは動いていた。大きく身を屈めてその一閃を回避すると同時に、左の手で自らの傍らに浮かぶ《アワード》に手を伸ばし、()()()。それに併せて宙に浮かんだ長槍も光の塵と消えた。

 今度こそ、完全なる無手。自ら最後の命綱を捨てるその行動は塚崎の理解を超えていた。

 しかしそれこそが、ゆうなの見いだした活路であった。

 迫る塚崎の刃。その攻撃に合わせ、ゆうなは正確に塚崎の前腕へ掌底を叩き込む。担い手を弾かれて、その切っ先は見当違いの方向へと逸れる。続く一閃も、最高速へ唐突する前に塚崎の手首に掌を当て、その回転を以て腕を弾く。どれだけ鋭利であろうと、剣の形状を取る限り、振るうのは人。であれば始点である腕を止めれば続く攻撃をいなすことはできる。

 それは所詮、その場しのぎに過ぎない。少し頭が冷えて攻撃のパターンをいじれば天秤はすぐに塚崎へと傾く。

 だからこそ、ゆうなはこの手を選んだのだ。

 バッと転身し左手を塚崎の目の前に突きつける。その手には先ほど閉じられた《アワード》。ゆうなは躊躇うことなく指でその表紙を開いた。

「リアクト・オン!」

 溢れ出す光の紙片に遮られ、思わず塚崎の目がくらむ。追撃を避けるために大きく後ろへと跳躍し眼前を確認すれば、そこには紅蓮の槍を携えたゆうなが凛然と立っていた。

「投降して」

 槍を突きつけながら、ゆうなは告げる。こちらの勝ちだと、その一言が全てを物語っていた。現に塚崎に策は残っていなかった。自動操作にして校舎裏から侵攻させているハウンドは残り僅か。ラットも数体。何より、目の前に現れた少女は《アワード》を用いた戦闘に対する練度が違う。この戦闘の結果は既に出て――、

 ガチャンッ、とその場にいた全員の思考を遮る音が校庭に響いた。発生源は遙か先の校舎。奥へと逃げ出すように駆けていく人影が見えた。

 塚崎の行動は、誰よりも速かった。

その場で大きくアームド・ウェポンを振るう。その動きに合わせて、すさまじい速度でラットが校舎へと駆けだした。

「ッ、待て!」

 咄嗟のことに一歩遅れ、ラットと対峙していた刀真は《ガーディアンズ・アーム》のトリガーを引く。だが、その一閃を遮るように一体のラットが方向転換し、射出された刃へと突撃した。刃を受けたそのラットは輝核を砕かれ弾け飛ぶが、一団を追うはずだった刃もまたあらぬ方向へと飛んでいた。

(しま――)

 刀真の喉が干上がる。ここからではもう間に合わない。ラットの進軍が止まらない。

「ハアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」

 その瞬間、校舎とラットを遮るようにゆうなは飛翔していた。槍から噴き出す焔を推進力にその距離をゼロへと変える。そしてすれ違いざまに槍と焔を以て全てのラットの輝核を討ち抜いた。

「キャッ、ぐっ……!!」

 その代償として、焔で無理に加速した勢いを殺しきれず、地面に叩き付けられ、受け身もままならずバウンドする。

 そしてそれが勝負の分かれ目となった。

 僅かな隙を見逃さず肉迫した塚崎は、迷うことなくゆうなを背後から光刃で斬りつけた。

「浅いか」

 噴き出す鮮血。それでもゆうなは咄嗟に身を捻り被害を最小限に留めていた。しかしもう後はないと判断した塚崎は腕を大きく振りかぶった。

「捕、まえたっ!!」

 飛びつくように跳ね起きたゆうなは、左手で塚崎の手首を掴みあげる。その予想外の反撃に塚崎は目を見開くが、少女は止まらない。

「スカーレット・――」

 ガコンッ、と右手に携えられた槍の穂先が開き紅い光が臨界まで収束する。

「ブレイカァー!!」

 放たれる紅蓮の直射魔力砲撃。校舎を紅く照らすほどのそれは、担い手が倒れるのと同時に虚空へと消えた。その一撃に全魔力を込めていたのか、ゆうなはその場に倒れ伏した。

 対する塚崎は辛うじて身を捻り直撃は回避した。だが掠った左腕は内側の魔力部分を焼かれ黒く変色していた。少し動かすだけでも激痛が走る。自然回復にはかなりの時間を要しそうだ。

「だが、いずれ治る腕一本と《アワード》が一冊。買い物としては高くない」

 倒れたゆうなの傍らに転がる紅い装丁の《アワード》を、塚崎は右手で拾い上げ、後方へと下がった。

「連れ合いも外で会敵したようだ。引かせてもらう。では()()()()()

「ッ、待て!」

 刀真は武器を構えて駆け出す。それを視認した塚崎は武器をその場で振るう。それに併せて光刃が放たれ、一直線にゆうなへと飛来する。優先順位をすぐさま修正し、刀真は横っ飛びに跳ねて光刃を斬り落とした。

 そうして顔を上げたときには、塚崎はハウンドと合流し、遙か遠くまで去っていた。ありさと刃巫女と戦っていたと思しきその個体は、口に大量の輝核を咥えていた。

「畜生ッ……!!」

 奥歯を噛みしめ、刀真はその場に立ち尽くす。

 結子とアーセナルの処置班が現場に到着したのは、それから十分後のことであった。



 校舎の中を、その少年は走っていた。息が切れる。

 今日彼は、午前中病院に行った後、午後からの授業に出る予定だったのだ。

 予定通り学校について教室に着いた途端意識が遠のいた。そしてふと目を覚ますと周りではみんなが倒れ、空は異様な色に染まっていて、校庭では誰かが何かと戦っていた。遠くて誰かはわからなかったが、不意に立てかけてあった教材を倒してしまい、慌てて駆けだしたのだ。

(あれは、一体……)

 ぐらり、と再び視界が歪む。立っていられそうにない。

 少年、咲良優は再び深い闇の中へと意識を落としていった。


さて、3週目でございます、久遠蒼季でございます。



やはりリレー小説というのは難しい物でして、どうしても「語れること」と「語れないこと」が出てきてしまいますね。

ページ数の制約、というヤツですけど、そこが腕の見せ所です。


速く育たねば。



本編の方は、といいますと、さらに急展開でございます!

物理的な急降下もありましたしね!


ゆうなの戦闘はやはり書いていて楽しい物です。

刀真もホントは書いてあげたかったんですけど、ページのハザマに消えてしまいました……。


最後に登場したあの少年は一体……?



次回も目が離せない、ような作品を書きたい物です。







それでは、今日はこの辺りで。

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