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=BlanK † AWard=  作者: 久遠蒼季、すたりあ、緑茶、リブ本
《ChapterⅠ》
11/99

Ⅺ:迂回と視界

リレー小説『=BlanK † AWard=』

「Ⅺ:迂回と視界」 ※旧7話

執筆者:緑茶

   ○



 ハインツがその連絡を受けたのは、庫森の波止場で釣りに興じていた時だった。

 あいにくその日は最悪に近い釣果で、彼はそれを潮目の悪さのせいにした。

「……成る程ね。そりゃ俺の機嫌も悪くなるわけだ」

『ボウズだったのね? ハインツ』

 スマートフォンの向こう側の結子の声は相変わらず優しげで透き通っているが、彼女の声を前に隠し事は無意味だということはよく知っていることだ。

「ご明察で。――とにかく。俺は今からあいつらの高校に向かいます」

『お願い』

 彼は電話を切って、スマートフォンをポケットにしまい込んだ。

 そして釣り道具を慣れた手つきで片付けて、すぐ近くに停めてあった愛用バイクの後方にあるトランクに収納した。

 ――ドイツの某高級メーカー製の大型バイク。白と水色のラインが随所にあしらわれたクールな逸品。

 既に七年以上も乗り続けている、まさしく彼の相棒だ。……ただし恐ろしく奮発したため、向こう数年は懐が寂しいことになったが。

「おーう、なんや外人のにいちゃん、何や今日はもう帰んのかいや」

 釣り仲間のおっさんが陽気に声をかけてきた。ハインツは肩をすくめながらそれに答える。

「どうも今日は海に嫌われているらしい。また今度埋め合わせをしに来ますよ」

「おうおう、またなぁ」

 にしし、と歯の抜けたシワシワのおっさんは人懐っこさ百%の笑顔を浮かべた。

 ハインツは軽く会釈をしてからサドルにまたがり、ヘルメットをかぶる。

「……さて、と」

 エンジンをかけて、連絡の復習をする。

 ――灯結子は、要約するとこう言った。

 刀真たちが、高校でまずいことになっている、と。

「行くか。……メシが異常に進むような状態になってなけりゃいいがな」

 そんなことを言いながら、彼は波止場の灰色の地面に、バイクの轍を残しながら――。

 そこを、離れていった。


   ◯



 暗い闇の中で、彼女は身を潜めていた。

 季節に似合わぬ黒い外套の彼女――涼原美奈は、塚崎の協力者である。

 その場に居る理由はただひとつ――彼の結界が、何らかの理由で破られてしまいそうになった場合の保険。それ以外に、自分の役目はない。

 もし仮に彼がつつがなく自分の目的を終えれば、自分の待機は徒労に終わる。そして彼は無感情に自分を一瞥するだろう――それでも構わない。

 彼女は彼を羨んだ。妬みもした。そして何より彼を愛していた。

 彼女が彼に認められるためにしたことは唯一つ。自分の世界を彼に捧げること。自分はただの影として彼に仕えること――そして彼の世界を壊そうとするものに、刃を向けること。

 ――口元に笑みが浮かぶ。あぁ、自分はこんな大きな理由によって戦えている。

 そして彼女は――静かに、来ないかもしれない『その時』を待った。



   ◯


 

 《ウィル》を突き立てる。ありさはそのまま群がるハウンドを蹴る。

 蹴る、蹴る、蹴る、蹴る――身体を横倒しにして。

 弾かれたように四散するハウンドの群れ――その内の一体に、《ウィル》を投擲。

 ぐざり、という音――手応えを確信。残り十体。

 ――戻れ、と命じる。両刃剣が帰還。だ、だん。地面を踏む。

 ハウンドの牙はありさの肉体に食い込むことなく、ただ空気を食んだ。

 空中で剣を分割――二刀流に変化。視界の端に、一瞬不快な桃色。

 上を向き迎撃してくるハウンド。真っ向位置。突き立てれば――残り九体。

「……ッ」

 瞬間。――くらりときた。

 目の前に、何かが現れて、消えた。そして。

 一瞬遅れて、ハウンドは倒れて無力化した。

「この……」

 ザザザ、と――斬るべき相手を失ったありさは地面に轍を作りながら着地。

「あんた……またやったでしょ……!」

 手元でグルカナイフ状のアームド・ウェポンを弄ぶその小柄な少女は、毒蛇のような胡乱な笑みを浮かべて彼女を見た。

 《虫食い(モス)》――それを使用された時、毒島刃巫女を視界に映した者は、間もなく彼女を見失う。……視覚を一瞬、『食われる』のだ。

 刃巫女は舌を出して中指をありさに向けて突き立てる。――残り九体。

「そろそろさぁ、学習したらどうなの? あ・り・さ・ちゃん?」

 砂糖菓子を蜂蜜で弄んだような甘ったるい声で彼女は言ってくる――こちらが苛立つのを分かっているのだ。

「……」

 ――ありさはとにかくムカついたので、こう言うことにした。

 ハウンドが、迫る。

「――あっ、カツ丼が空飛んでる」

「えっカツ丼!? どこどこ!?」

 刃巫女は弾かれたようにキョロキョロし始める。

 その隙に――彼女を押しのける。

 ……そしてありさは、《ウィル》の斬撃をハウンドに浴びせた。

 このままだと、刃巫女の獲物になるところだった、危ない危ない。

「残り八体。――ねぇ刃巫女ちゃん、あなた、頭悪いでしょ」

 言ってやった。心底馬鹿にした声音で。

「……ッ!」

 恥辱と怒りで、刃巫女の顔が茹で上がる。

 顔を引き攣らせて、極めてぎこちない笑顔で彼女は告げる。

「そういうあんたは性根が最悪に悪いわよね。腐ったみかんをドブ川で濯いだみたい」

 ――かちん。

「口も悪いのね。でも頭がマヌケなら、その悪口の意味も分かってなさそう」

 ――かちん。

「性根も悪けりゃ目つきも悪い。ねぇ私の事ちゃんと見えてる? 指何本に見える?」

「今から折れば四本になるんじゃない?」

「なんですって……!? 何よあんた、今ここであんたと勝負してやってもいいけど!? どうせまた私に視界を食われるんでしょうけど」

「はぁ!? そんなのやってみなくちゃ分からないでしょ!?」

 ――地鳴りがしそうなやりとり。

 この場にハインツがいればひたすら苦笑する機械になるし、次郎が居れば唐突に『図書館に言ってくる』などと宣うし、刀真に至ってはそもそも姿を見せないだろう。

 侃々諤々――その隙を狙って、ハウンドが二人に向かって飛びかかった。

 二人はそちらを見ていない。

 牙が、躍りかかる――。

 ――ひゅっ。

 風をきる音が、二つ同時に炸裂した。

 そしてハウンドはあっさりと、二人にたどり着く手前で、無力化されたのだ。

 ……地面に、倒された一体が横たわる。

「――今のは?」

 《ウィル》を残心させながら、ありさが呟く。

「一人0・5体分」

 と、刃巫女。

「――山分けか。妥当ね」

 ――残り、七体。



   ◯



「……参ったな」

 校門前にバイクを停めたハインツは、呻いた。

 ――なるほど、確かにこれはまずいことだ。

 学校全体に極彩色の結界が張られており、侵入が出来ない状態。

 おまけに、そいつに干渉する手段が今のところ外部からでは皆無。

 ――そう、外部からでは。

「とりあえず、あいつ呼ぶか」

 ハインツはスマートフォンを取り出して、ある人物に電話をかけた。

 間もなく反応があった。

『もしもし』

「おうクジャク丸。今どこに居る」

『図書館に――』

「ならお前今暇だな? 暇だな、よし今すぐトーマ達の高校に来い。『|A・S・A・P(出来うる限り迅速に)』、だ。いいな。切るぞ」

『えっ、ちょ――』

 ――せめて要件を、と続いていたであろう声を無視して、ハインツは電話を切った。

 何、烏丸次郎は真面目だ。おまけに頭は相当に回る。すぐにでも駆けつけてくる。

「……しかし、だ」

 奴がここに駆けつけたところで、これはきっと魔力撹拌のたぐいだ。二人でどうにか出来るものではなさそうだ。

 と、いうことで。

「他に協力者が居ました、そいつどうにかすればどうにかなります、ってのを期待するかね」

 ハインツはぼやいた。

 口調そのものとは裏腹に、その声音に余裕はない。

 ――刀真達は、きっと戦っている。今すぐにでもそこに飛び込んで、助力してやりたいのに。状況がそれをさせない。

 どうやら『潮目が悪い』というのも、あながち穿った見方というわけでもなさそうだ。

「――私もそれを、期待したいところですが」

 声がした。

 かつ、かつ、という規則正しい、かつ神経質な靴の音。

 ハインツはそれが誰であるかという確信をもって声の方向を振り向く。

 ――なぜなら、その声は。

「お久しぶりですね。この白井秀蓮、今回ばかりはあなたに協力するはこびとなりそうだ」

 ――ついこの間、自分達と戦ったばかりの相手だったから。


   ◯



 レイドの硬い身体を、刃が通った感触がした。

 しかし浅い。ありさの《ウィル》は、ハウンドの刺々しい身体の約一部に突き刺さったにすぎない。――だが。

「――《ディスチャージ》ッ!」

 ありさの目が、青白く光る。すると、バリッ、という音がして。

 そのハウンドは、電撃に穿たれた。

 ぷすぷす――焦げ臭い匂い。

 《ディスチャージ》――突き刺した相手に直接電撃を浴びせる技。

 残り、六体。

 ――ありさは、元の姿に戻って呻く動物を見た。

 ……戦いのさなかは、まともに考えていなかったけれど。

 こうして、ふと考えてみると。――本当に酷いことだ。

「――動物を、こんな風に……」

 それは塚崎か、それとも『レイド』という存在そのものに対する言葉か。

 怒りと哀れみに彼女の目が揺れていたのはそれまでだった。彼女は再び、残りのハウンドに向けて《ウィル》を構える。

「……ふぅん」

 意外にもその言葉を聞いていた刃巫女の声は穏やかだった。

「何よ」

「あんたが苛立ち以外の怒りを見せるなんてね」

「……私はあんたとは違うのよ。ちゃんとした、戦う理由がある」

「――ハッ!」

 襲い来るハウンドに、刃巫女は刃を奔らせる。――残り五体。

「理由なら、私にだってあるわよ。あんたらアーセナルなんかとは違う、立派な理由がね」

「……それは、何?」

 思いの外素直に、疑問を口に出来たことにありさ自身驚いた。

「教えないわ。聞きたけりゃ、この勝負に勝つことね」

 ――ふっ。呆れたような、小馬鹿にしたような、何だかわからない声を出して、ありさは笑って言った。

「じゃ、追加ルール」

 ざくり。――残り四体。

「負けたほうが、そいつを教えるっていうのは、どう?」

 ありさの提案――刃巫女は、はん、と気を吐いた。

「冗談じゃない。どうせあんた、それを私に教える気なんかさらさら無いんでしょ?」

「わかってるじゃない。――だって私、勝つもの。あなたに」

 それは挑戦だった。煽りでもなんでもなく、純粋な挑戦。

 やはりそれは、刃巫女にとっても――悪い気はしなかった。

「言ってくれる。……乗ったわよ、その話」

 獰猛な笑みを浮かべて、言った。

 二人は再び――残りのハウンドに向かっていった。


どうもお久しぶりです、二回目の登板になる緑茶です。

いやぁバトルですね。しかし意外と難しい。おまけに他の方のキャラを動かすときた。

やりがいではあり面白いが、やはり難しいものは難しい。会話中心になってしまった……。

全ては己の弱さを認めた時に始まると誰かが言っていましたね。多分漫画です。


僕は今のところなんかタイトルに規則性がありますが、「◯◯と◯◯」という難しい縛りです。

なので割とすぐ崩れると思います。まぁ気にしないで行きましょう。中身で勝負です。


さて女子チ ームですが、やっぱり女の子は元気が一番ですね。二人共大変すこやかで素晴らしいと思います。

そしてハインツは一人だけ少し年齢が高めなので、「大人」として頑張って貰いたいところ。

もう一人の敵は一体どこに居るんでしょうね。こっちもこっちでさぁ大変だ。

そして刀真くんとゆうなちゃんは塚崎さんのわるだくみを粉砕することが出来るんでしょうか。次回が楽しみですね。では。

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