初来店
石畳の両側には、武具屋、薬屋、火事屋、食堂、さらには占い屋など様々な店が並んでいる。この王都の随一の商店街ゆえにここは通りには買い物客などが行き交い、まっすぐ歩くのも難しい。
財布が軽いときに、買い物を楽しそうにしている人を見ているのは中々にツライものがある。そこで歩きやすくて誘惑の少ない路地に入ることにした。そこは普段通らない細い道だ。大通りから一本入ると、住宅が多いので人も少なく歩きやすい。
5分ほど歩くと店があった。以前通ったときの記憶を呼び起こしてみたが、そのときにはなかったはずだ。その店は、石造りで重厚な壁で出来ていた。扉も斧を叩きつけてもすぐには壊れなさそうな頑丈なものだ。店の名前はでていないが、看板にはアイテムギルドのマークがついている。普通ならこういう敷居の高そうな店は入らない俺だが、その日は何故か扉に手を伸ばした。
冒険者なんて仕事をしていると、ちょっとしたアイテムのおかげで生き残れたり、助かったりすることがある。そんなわけで、どんなものを売っているのか見るだけのつもりだった。
頑丈な作りの扉を開けていく。手入れをされているのだろう1度動き出した扉はスムーズに開いていく。扉のイメージにそぐわない軽やかなベルの音『チリリーーン』と響いた。
「いらっしゃいませ」
上品な音楽のような女性の声が迎えてくれる。しかし、人は見えない。
「ご自由にご覧下さい。お探しのものがありましたら言ってくださいね」
さらに声が続くが人は見えない。開いたドアを押さえたままだったことに気づき中に入った。頑丈な扉がしまると、外の音は聞こえなくなった。
店内を見渡す。20帖ほどの広さだが、所狭しと商品が置いてある。それらを見ていると何屋かわかなくなった。なぜなら剣や斧といった各種の武器、錆び付いたチェーンメイルや、磨きたてのように輝く盾といった防具、カウンターの向こう側には回復用のポーション、冒険者用のテントや炊事セット。空き瓶まである。壁一面が棚になっているが、そこにもギッシリとものが置いてある。中には誰が買うのだろうと不思議に思う絵の具セットまである。
「当店は、道具屋です。色々なものを売っていますが、買い取りもしています。本日はどちらのご用件でしょうか?」
再び素敵に耳に響く声が俺に届いた。
見ればカウンターの内側に女性が立っている。どうやら、先ほどまでカウンタの内側の椅子に座って作業していたようだ。
しかし、素晴らしい女性の声は俺の耳を素通りしていく。
なぜなら俺の五感はすべて視覚に集中していたからだ。
その理由は女性の容姿だった。
年齢は20歳ぐらいだろうか。髪はセミロング。金色に輝きながら柔らかなウェーブで肩にかかっている。
目は控えめな二重のなかに、知性を感じさせる輝きのあるブラウンの瞳。その上にある眉は柔らかなアーチを描いている。鼻はスッキリと鼻筋がとおっている。ピンク色の唇は両端が軽くあがり微笑んでいる。
身長は160cmほどだろう。清潔感のある白のワイシャツをざっくりと着こなして手には30cmほどのブロンズ像と布をもっていた。どうやらブロンズ像を磨いていたようだ。細い腕は華奢にみえるが、重い像を軽々と扱っているところは力が以外に強いのかもしれない。
昔々、村を出るとき爺ちゃんが俺に教えてくれた。
「女との出会いは一期一会だと思え。良いと思った女にはアプローチあるのみ!!出会いの女神に前髪があっても後ろ髪はない!!」
「そのココロは!」
「通り過ぎたら掴むものがない」
そんな会話思い出した。
この店は、販売も買い取りもしているようだ。しかし俺に売るものはない。そうなれば彼女の問いへの答えは1つだ。
「か、か、買いです」
初めての店で不安になるのが、俺の持ち金で手が届く商品を売っているかどうかだ。冒険者としてはまだまだ低ランクの俺の財布は非常に軽い。その軽さは、仕事の報酬で次の仕事までの宿屋を稼ぐというぐらい自転車操業だ。貯金と言う言葉など俺の辞書にはないぐらいだ。
そんな俺の財布には銀貨10枚と銅貨8枚、石貨少々しかない。おまけに今夜の宿と食事に銀貨1枚は予約済みときている。
とりあえず周辺の商品をみると値札がない。これが一番困る。上級冒険者が買い物するような高級店なら俺には手が届かないものがほとんどだろう。
しかし神は人に超えられない試練は与えないというではないか。きっと、持っているお金で買えるものがあるはずだ。
買うとしたらなんだろう。冒険者の俺にとって必要なもの。剣士にとって必要なもの。武器か防具ということになる。
「剣士をしてるんですが、武器か防具の買い換えを考えているんです。手頃な値段のものしか買えないんですが……」
予算オーバーで買えなくても、とりあえず欲しいものを言ってみた。
彼女は少し考えてから、コツコツと靴音を響かせながらゆっくりとカウンターの中から出てきた。
「今の武器や防具を見せていただきますね」
歩く姿は軽やかでリズムを踏むダンサーのようだった。彼女に似合いうのはドレスじゃないかと思わされる。実際にはユッタリとした白のシャツに膝下まであるブラウンのスカート。胸元から膝下まである分厚い皮のエプロンをしている。皮の雰囲気はもう何年も愛用しているのか、使い込まれていながらも味わいが出ている。
彼女は俺の横に立ち、その手をそっと差し伸べてきた。彼女の動きと共に花のような香りを感じた。魅力的な女性が側にくることで俺は緊張してしまったが、彼女は気づいていないようだ。俺の装備している革製アーマーの表面や固定具を触れて確認していく。
「失礼しました。防具はボックルの皮のチェストアーマーですね。軽さと丈夫さのバランスが良くて人気ですよね。少しバックルの部分に痛みがでてきてますね。ちょっとした痛みのときにメンテナンスしてあげると長く使えますよ。では武器のほう見せて頂けます」
差しのばされた彼女の手に、俺は剣を鞘ごと外して手渡す。大柄な男が横になれるほど広いテーブルの上に柔らかく厚みのある絹布を広げて、受け取った剣を置く。改めて自分の剣を見ると鞘の皮もひび割れて今にも壊れそうだ。中身の刃も恥ずかしいほど刃こぼれしたままで手入れが出来ていなかったことを思い出す。しかし、今さら取り戻すわけにもいかない。道具の手入れを見れば、その持ち主の力量も判るから大切にしろとベテラン冒険者からアドバイスはよく耳にした。しかし、安物に対して愛着がわくこともなく壊れたら使い捨てぐらいだった。彼女が俺の剣を見て、冒険者として見限ってしまうのではないかと不安になり背中に汗が噴き出してきた。
「鉄製のグラディウスですか。刃も何度も研ぎ直しされていますね。どうしても研ぐ回数が重なると刃の長さが短くなり、薄くなってきます。使い勝手やバランスも変化してきますので、そろそろ新しいものを検討する時期でしょうか」
そう言いながらも手を止めず、刃身の歪みなどをチェックしていく。刃を上向きにして剣を水平に持ち上げる。右手で柄を握り、左手は刀身に添えて向きを変えながら様々な角度で確認していく姿は凛々しく美しかった。舞踏や剣士、格闘家、料理人、いずれの職業でも一流と言われる人達の動作は美しい。無駄がないからなのだろうが、彼女も一流に近いものを鑑定に素人の俺でも感じた。ただ若くて可愛いだけの店員さんかと思ったが、商品の鑑定能力も極めて高そうだ。実際その見極める眼差しだけをみれば、名刀といわれるものを見ているのではないかと錯覚させられる。
もちろん剣士にとって武具や防具の手入れは常識だ。俺自身冒険に出るたびに手入れもしている。獣を切って肉の脂がつけば切れなくなり錆も出やすくなるからだ。しかし100%の手入れか言われればそうではない。「このぐらいはいいや」「帰ったらやろう」そう思って放置している事も多い。
俺のようなEクラスの冒険者と違い、A級冒険者の装備は古かったり傷があっても風格を感じさせる。それは日頃の手入れを欠かしていないということなのだろう。凹めば打ち直し、皮が痛めばオイルを使って手入れしたり補強したり、刃がかければ研ぎ直す。それをまとめてするか、日々手入れことで装備の寿命も大きく違うのだろう。大規模なパーティーを組んだときに野営地で夜を明かすときも、一部の冒険者達は武具の手入れをしていた。今日の傷みは今日解消して、明日それらの能力が100%発揮できるようにするためだろう。
冒険者として、予想外のトラブルにあったとき生と死をわけるのは僅かな差の時がある。その一撃があと少し強く入っていれば倒せたのに、倒されてしまう。そんなことが武具の手入れ不足で起きたときに後悔してもしきれないことを十分に知っているからだろう。
それに引き替え、俺はどうだ。金がないから安い装備しか買えない。そんな安い装備だから壊れたら買い換えればいいという思いしかなかった。しかし、彼女の剣を見る眼差しはどうだろう。鑑定能力も高そうな彼女からすれば、壊れかけた屑のような剣など何の価値もないだろう。それでも、その扱いはとても丁寧で愛おしささえ感じてるのではないかと思わされる。単純に商品に対して値段をつけるだけの商人の目ではい。ベテランの冒険者が自分の命を預ける武器を見る目のように、あるいは鍛冶職人が改心の一作を作り上げたあと眺めるものに思えた。
そんな彼女の視線や扱いに俺は手入れもしていないグラディウスを見せたことに対する恥ずかしさを覚えた。鑑定の時間に耐えきれず剣を握って店を飛び出そうかと考えすらしてしまった。それでも店に留まっていられたのは、彼女の顔に俺を嘲笑するようなものがなかったからだ。
「先ほど見せて頂いたチェストアーマーのほうは、少しメンテナンスしてあげればまだまだ使えますね。ただ剣のほうは歪みからクラックが入りそうな感じがします。こちらの買い換えをご検討されてはいかがでしょうか?」
今使っているグラディウスという剣は、1年前冒険者になると決断したとき銀貨6枚で購入したものだった。基本的な装備のグラディウスは銀貨10枚程度で売られているが、見習いの鍛冶職人が作ったと言うことで安く売っていたものだ。実際戦いで使っていても、鋭い切れ味というよりも、たたき切るという手応えだ。皮膚の厚い魔獣などに斬りかかっても、肉の途中で止まり骨を断ちきれなかったことが何度もある。以前からいつかは買い換えなければと自分でも思ってはいた。
「では剣をお願いします」
「わかりました。幾つか候補をご用意いたします。ご予算は?」
財布の中を考えれば銀貨10枚以下で買いたいところだ。しかし、言葉にするとなると緊張してくる。実際に金額を言ったとたん怒ったらどうしよう。
「当店でそのようなランクのものは扱っておりません。お帰りください」
耳に優しく響く彼女の声で拒絶されたとき、俺の心はガラスのように砕けるかもしれないと不安になっていく。それでも財布の中身以上には出すことができないので予算を伝えることにした。
しかし、微妙な見栄をはってもしまうのが俺の悪いクセだ。
「銀貨10枚程度の予算なんです」
「判りました。ちょっとお待ちください」
予算を伝えても彼女の笑顔に変化はなかった。それを確認できたので金額を伝える前の緊張感が、大きく緩んだ。それは、彼女の反応から少なくとも予算内の商品があるからだ。それでも出てくるものを確認するまでは不安な気持ちは消えない。
彼女はカウンターの裏に歩いて行き、その奥にある扉を開けて出て行く。扉の隙間から見えるところには棚があり、そこに色々なものが並んでいる。どうやら、そこは倉庫として使っているようだ。隙間から見える棚に商品が整然と並んでいるところを見ると整理整頓が好きな几帳面な性格なのだろう。そう思うと、こちらの部屋の雑多な置き方はディスプレイとして面白くするためにワザとしているのかもしれない。買うものが決まっている時には整理された棚のほうが見やすいが、特に目的はなく面白いモノに出会いたいときには雑多な雰囲気のほうが探す楽しみがある。
やがて、彼女がいる扉の向こうから金属の音がガチャガチャ、ゴトゴトとしてきた。恐らく目的のものを探しているのだろう。響く音からすると扉の向こう側は結構広そうな感じだ。やがて音がしなくなり彼女が3つの武器を持って戻ってきた。金属の武器3つの重さを考えると、俺でも持ちかねるが予想以上に彼女は力があるのだろうか。。
テーブルの上に3つの武器を順番に並べていく。
「まずブロードソードです。片手剣ですから防御力を高める盾を装備できて扱いやすいので人気ですね。銀貨12枚になります。次がバトルアックスです。振り回す筋力は必要ですが破壊力は抜群です。銀貨8枚になります。最後が今と同じグラディウス。銀貨10枚になります」
ブロードソードは歴戦の剣士にも人気で以前から欲しいと思っていたが財布の中身を全部使っても予算オーバーだ。バトルアックスはドワーフのように筋力が強いものが扱うと高い破壊力がある。しかし俺の筋力では重さに振り回されてしまい攻撃後の隙が大きくなってしまうだろう。その点グラディウスは予算ギリギリ範囲内だ。刀身を見ると今の元とは違って刃の輝きも違い良く切れそうに見えた。
「これ、これにします!このグラディウスに」
その言葉を聞くと、彼女はグラディウスを手に取り素敵な笑顔を俺に向けてくれた。
「きっと、あなたの冒険にお役にたつと思います。それでは銀貨10枚になります」
おんぼろな財布を開け銀貨を10枚数える。
数え出してから気づいた。銀貨1枚は今夜の宿代に必要だった。慌てて銅貨を数えたら8枚。2枚足りない。石貨はわずかしかない。しかたない今はとりあえず銀貨10枚払ってあとで今夜の宿代は誰かに借金するか。しかし借金をする相手の当てもない。
今夜は宿屋で明日から行う依頼の打ち合わせをパーティーメンバーで行う。全員で宿屋に泊まり、揃って朝に出発する予定だった。そのためにも銀貨1枚は絶対に必要だ。
冒険者という仕事はいつ死んでも不思議じゃないので、通常俺たちに金を貸してくれるような人はいない。
財布と睨みあいをする俺を彼女が心配そうに見つめる。
「大丈夫ですか。剣の品質に問題がありましたか?」
俺の心の中だけで大きな叫びがでる。あなたの問題でも品質の問題でもありません。僕の財布の中身の問題なんです。そう思ってすぐに説明した。
「す、す、すいません。この後の支払いがあって銀貨9枚銅貨8枚が精一杯なんです。また出直してきます」
俺はテーブルの上にのっていた自分の剣を握った。恥ずかしくて、この場を一刻も早く立ち去りたい。足は出口に向かおうと動き出すところだった。
そのとき、彼女は手をポンと音をたててあわせた。音に驚き俺は振り向いた。彼女の顔を見ると瞳もキラキラしている。なにか良い考えが浮かんだようだ。
「そうだ、今までお使いだった剣を下取りにしたらどうでしょう?」
下取りという言葉は初めて知った。
それまでもモノを売ったり買ったりすることはあった。改めて詳しく説明を聞くとモノを売っても金額には換算するが現金では受け取らない。別のモノを買うときに、先ほど換算した金額を差し引いて購入するというものだ。メリットとしては下取りのほうが買い取りより金額が得だということだった。
なんとなく理解はできたが、クラックのはいった折れかけの剣なんて価値もないのではと思った。
恐らくその疑問を感じ取ったのだろう。さらに説明してくれた。
「剣とかは溶かして金属にすることも出来ますし、壊れかけの剣でも欲しいという人もいますから、価値については心配しないでください」
そこまで聞いて俺も安心をした。
「助かります。じゃ、その買い取りでお願いします」
財布から銀貨9枚銅貨8枚を支払う。素敵な女性の前で貧乏なところを見せてしまった恥ずかしさで、すぐ持ち帰ろうとした。そんな俺の手を、彼女の手が優しくおしとどめた。
「少し待ってください。1度ここでグラディウスを装備してください。お願いします。」
決して俺の手を強く押さえているわけではない。柔らかく包み込まれるような感じで手が触れているだけなのに、いざ動かそうとするとガッチリと固定されている。彼女の顔を見ると真剣な表情だ。
諦めてうなずく。そうすると、口元をほころばせながら手を離してくれた。
「装備したら1度構えてみてくださいね」
鞘を腰のベルトにつけてから、グラディウスを抜く。そして構える。それらを彼女は少し離れて確認していた。
「はい、けっこうです。収めて頂いて結構です」
グラディウスを鞘に収めると、彼女が近づいてきて俺のベルトと鞘をチェックした。その後ベルトから鞘ごと取り外し、鞘の金具を調整していく。工具を使う姿も様になっているので、こういう作業に慣れているようだ。手早く調整は終了した。そのまま手に取り俺の横にしゃがみ込んで取り付けてくれる。
「もう1度剣を抜いてから構えてください。お願いします」
その言葉に俺はうなずき、手を剣の柄にやる。
どうだろう。まず柄を握りやすくなった。手になじむ感じがする。それは鞘から抜くときも同じでスっと鞘の中で剣が当たる感触もなく抜くことができた。構えたときも柄を握り直す必要がなくなった。
わずかな時間の調整で扱いやすさが変化したことに驚いて彼女を見た。
「腕の長さや、剣の抜き方によって金具の適正位置が違ったりするんです。武具屋さんほど本格的には調整できないですけど。では仮留めの位置で問題ないようですので、そこで設定しておきますね。」
けっして自慢とか上からの目線ではなかった。それは装備について詳しい職人が、初級の冒険者に対してアドバイスするというものだった。再度鞘をベルトから外して彼女に預ける。
今まで買った店や、冒険者仲間が通う店で武具を買っても鞘の調整などしてくれるところなどなかった。俺自身、そんな調整の必要など感じたこともない。しかし奇襲されたときなど、剣を抜いて構える時間がコンマ数秒でも違えば生死の境になることもあるかと思えば、その知識がなかった自分が恥ずかしく思える。
調整中でも喋りながら、手を止めずに金具を固定していく。
「初回サービスで、ミラージュ特製の携帯食料2個おつけします。新しくできた製品で栄養だけじゃなく、小さいのに満腹感もあるんでお勧めです。次回からは購入してくださいね。食べ方の説明書も入れておきますね」
調整の終わったグラディウスを渡されたので俺はベルトに装着していく。その間に彼女は再びカウンターの内側に戻り、棚に置いてある壺のなかから丸い玉をを取り出し袋に詰め始める。商談成立に彼女は機嫌が良いようだ。向こう側を向いているので表情は見えないが声の調子も一段と明るい。俺は携帯食料いらないから、そのぶん値引きをして欲しかったが、その声を聞くと交渉する気もなくなってしまった。
可愛くて、人柄も良くて、道具の知識もある。
明日からの仕事は数日かかりそうだが、その数日会えないことももどかしく感じるほど素敵な女性に出会えた。
また来よう。そう思うと働く意欲が熱く、熱く燃え上がってきた。
袋詰めが終わり彼女は振り返って、手渡してくれる。
「ご挨拶が遅れました。道具屋ミラージュの店主をしているシュトバルク・アリスです。またのご来店を心よりお待ちしております」
その言葉を発する彼女の笑顔はその日見たなかで一番素敵なものだった。
しばらく見惚れていたが、我に返り慌てて俺も自己紹介する。
「エスパーク・リュート 冒険者レベルEです。また伺わせて頂きます」
そう言いながら深く頭を下げて挨拶をして出口に向かう。扉を開けると軽やかなベルの音が俺を送り出してくれる。
あの笑顔がまた見たい。すぐに見たい。
明日からの冒険でガッツリ稼いで、また買い物だ。
出会いの女神は、道具屋ミラージュにてアリスに出会わせてくれた。
通うために頑張ることってないですか?
僕はあります。