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言葉が人を殺した日は、綺麗な夕焼け空だった  作者: 白野こねこ
【裁かれる人々】後編B 腐った現実
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13 森村信人(老人ホーム)

 たった一人で田舎に帰ってきた森村信人は、老人ホームの待合室で流れていたテレビのニュースに目をやった。


「最終世界シリーズ関連で発生していたとみられる一連の自殺は、五人目の被害者であるブロガーの宮野光雪さんを含めて、すべて薮中真理子容疑者による偽装自殺だったことが、警視庁の調べで新たに判明しました。また、薮中真理子容疑者の自宅では、行方不明となっていた桐山茜さんの遺体のほか、ペンタグラム社に勤めていた佐倉美月さんの遺体も発見されています」


 つい数日前には、自分の腕で抱きしめていたはずの女が、死んだ人間の名前としてテレビの中から聞こえてくるという状況が、あまりに現実感がなさすぎて、不思議となんの感情も湧いてこなかった。


 今度こそ本格的に心が壊れてしまったのだろうか。

 もうあの闇から引き戻してくれる人間はいないのに、どうすればいいんだろうか。


 森村は、ふいに佐倉美月がこちらを見て笑っているような感覚に襲われた。周りを見回すが、もちろん誰もいない。


 存在しないはずの亡霊に、森村は心の中で話しかける。

 死亡フラグを立てたのはこっちだろ。

 なんでそっちが殺されてるんだよ。


 プロポーズしてほしいんじゃなかったのかよ。

 もう疲れたよ。助けてくれよ。


 頭突きをかましてくれよ。

 なんとか言えよ。


「硫化水素による自殺を図ったとみられる薮中真理子容疑者は、現在昏睡状態が続いており、警視庁では容疑者の回復を待って、詳しい事情を聞く予定とのことです。なお、偽装自殺の被害者である宮野光雪さんは、ベストセラー作家でありながら匿名であらゆるゲームに対して執拗に批判めいた記事をブログに掲載していたことが明らかになっています。過激なブログ内容について、ネットなどで批判が集中しており、発行済みの書籍などの書店から引き上げ、およびネットでの販売自粛を出版社が検討しているとのことです」


 聞こえてくるのはニュースを読み上げるアナウンサーの声だけだった。

 どうやら死んでしまった女には、テレパシーは通じないみたいだ。


 森村は大きなため息をついてみるが、体は重苦しいままだった。

 一緒に来るって約束したくせに。結局一人で来る羽目になったじゃねーか。


 そう心の中で毒づきながら、怒りだけを原動力として、なんとか母親がいる個室までたどり着いた。

 妹の有希の骨壺が入った箱をかかえ、部屋に入ると母はテレビを見ていた。


「母さん」


 振り向いて森村を見た母の目は、正気だった。

 どうしてこのタイミングで、まともになるんだ。森村の胃はキリキリと痛み出した。


 母は何も言わず、両手を差し出す。

 森村は箱から小さな骨壺を出し、促されるままに手渡した。母は骨壺を大事そうに抱きかかえた。赤子の頭を撫でるように、何度も優しく、骨壺をさすり、抱きしめる。


「有希……堪忍な……迷惑ばっかりかけて。許してな……」


 森村は、その場に崩れ落ちた。母の前で、子供のように肩を揺らして泣き続けた。






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