1 菊池守(ターミナル駅)
菊池守は編集部を飛び出してから、桐山茜と訪れたことのある場所をずっと探し続けていた。
初めてデートをした遊園地、彼女の誕生日に連れて行ったイタリア料理店、クリスマスに奮発して宿泊した高級ホテル、何度も通った映画館、水族館に動物園、記憶にあるすべての思い出の場所に足を運んだ。
だが、どこにも茜はいなかった。
どこにいるんだ。どうして見つからないんだ。こんなに探しているのに。
あまりに茜のことばかり考えていたせいで、菊池の頭はおかしくなりそうだった。似た背格好の女性を見かけるたびに後を追いかけ、声をかける。
もちろん茜ではない。
あまりにしつこく声をかけていると通報されそうになるので、また場所を変えて茜を探し続ける。
もうどこを探していいのかすらわからなくなり、疲れ果てた菊池はいつのまにか電車の中で眠っていた。車庫に入るからと駅員に起こされて、ふらふらになりながら電車を後にした。
結局プロポーズをした彼女は行方不明になり、自分が記事を書いて煽った森村有希は自殺をした。
自分のせいでみんないなくなった。
言葉で人を救うどころか、人を追い詰め、死へと導いている。
なんのための言葉なのか。
あの時、あの瞬間、どうすればよかったのか未だに答えが出ていなかった。最初から答えなんかないのかもしれない。
大量に人が行き交うターミナル駅のホームに降りたとき、菊池はすれ違った女が持っていた薄いオレンジ色のエコバッグに釘付けになった。バッグの隅には猫のキャラクターが描かれている。
それはとても見覚えがあるものだった。
茜が使っていたものと良く似ていたからだ。
茜がそのキャラクターを好きだと聞き、何年か前の誕生日にプレゼントしたものにそっくりだった。
キャラクターの生誕五周年を記念して千個限定で生産されたノベルティグッズということもあり、そんなにありふれたものではなかったはずだ。
通し番号が振られていて、手に入れた番号が「0222」とわかったとき、茜が「猫の記念日みたいで嬉しい」と喜んでいたことを思い出す。
茜なのか。
そう期待しながら、菊池は人ごみをかき分けるように改札を抜け、エコバッグの持ち主のもとへ近づいて行く。人の流れに逆いながら、何度も人にぶつかり、通行人の荷物に足を取られ、なかなか近づけない。
遠くから見える後ろ姿は婦人警官の制服姿で、明らかに茜より背が高く、茜の可能性が低いことに途中で気付いてしまったが、一応確かめずにはいられない。
そのとき、エコバッグを持った婦人警官がトイレに入った。おかげで菊池は、相手が中で用を足している隙に追いつくことができ、出てくるところを狙って声をかけようと待っていた。
しかし、出て来た女は婦人警官の姿ではなかった。普通のOLのような白いシャツにグレーのタイトスカート姿になっている。
だが、同じエコバッグを持っているということは同一人物ではあるはずだ。中で着替えたということだろうか。不審に思いつつ、思い切って声をかける。
「あのすみません」
「なんでしょうか、急いでるんですが」
一瞬こちらを振り返ったのは、やたらと綺麗な女だった。どこかで見たことがあるような気がする。
事件関連の写真資料か、テレビ映像の素材か。だが頭が混乱していてうまく思い出せない。
もちろん茜ではない。
歩みを止めない女と並走するように歩きながら、さりげなくバッグの端に付けられたタグを確認する。「0222」だった。
なぜ茜のバッグをこの女が持っているのだ。
女はバッグから取り出したスマートフォンで、パズル系のアプリを遊んでいるようだ。
よく見ると、そのスマートフォンも茜が持っているものと同機種で、保護カバーまで良く似ている。
どういうことだ。
「人違いでした、すみません」
女が去って行くと、菊池は足を止めた。少し距離を置いてから、その女を尾行することにした。




