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言葉が人を殺した日は、綺麗な夕焼け空だった  作者: 白野こねこ
【裁かれる人々】中編A 記憶の中の優しい人々
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4 編集長 / 林田(トワイライト編集部)

「大丈夫かあいつ……なんかものすごい顔してたけど」

 編集長の独り言のような問いかけに、菊池の隣席に座っていた中年編集者の林田が声をかける。


「有給とって、傷心旅行にでも行くんじゃないですかね。あ、寿司なら俺が代わりに行きましょうか」

 林田は年中遅刻や突発的な欠勤を繰り返していて、面倒臭い仕事から逃げるための嗅覚だけは誰にも負けないという食わせ物の編集者だった。


 相変わらずの調子の良さに編集長は苦笑した。


「あほか。寝言はちゃんとご褒美がもらえるような、まともな記事を書いてから言ってくれよ」

「無茶言わないでください。まともな記事を書こうにも、デカいネタは菊池みたいなお気に入りにしか任せないから無理でしょうが。いつもこっちにはカスみたいなネタしか振らないくせにイケズですわ」


「それ本気で言ってんのか。カスなネタでも良い記事に仕上げるようなやつにこそ、信頼して大きいネタを任せてるんだよ。最低限のことすらできてないやつにデカいネタを渡すわけがないだろうがよ。そんな当たり前のこともわからんくせに、ぽっと出の若い奴に大ネタ取られて嫉妬してみっともない姿をさらすとは、お前も落ちたもんだな」


 辛辣な編集長の言葉にも林田は微動だにしなかった。出っ張った腹をさすりながら空笑いをする。


「バカの一つ覚えみたいに、これみよがしにルーキーだけ依怙贔屓しまくってる人に言われたくないですわ。まぁ俺たちみたいな老いぼれよりも、なんにも知らない新人のほうがバカみたいに言うことを聞くから楽ちんでしょうけどね」


 林田のあからさまな嫌味を聞いて、編集長は鼻で笑う。


「言うね。お前も昔はお気に入りだったろ。それを裏切ったのはお前のほうだ。勝手に落ちぶれたくせに廃人みたいになったあとも使い続けてやってるんだから、感謝されることはあっても憎まれ口を叩かれる覚えはねぇんだが。まだ上に噛み付く気力が残ってるなら、ぜひその意欲を記事にぶっ込んでいただきたいところだけどな」


「嫌ですよ。気に入られたら菊池みたいにエグい仕事までさせられて、頭おかしくなっちゃいますからね」

「じゃぁ仕方ない。首を切られるのをビクビクしながら、適当な仕事をしてればいいよ」


 編集長は冷ややかな眼差しを投げかけてその場を立ち去ろうとした。


「あのさ、お偉い人は菊池のこと期待してるってわりに、全然ちゃんと見てないみたいだから一応忠告しときますけど、あいつ、もうそろそろヤバいですよ」


 林田は菊池の座っていた席をちらりと見る。

「いくら期待の新人とは言っても、恋人の家族がやらかした事件まで書かせるのはやり過ぎですよ」


 編集長は嫌悪感を隠しもせず、林田を威圧的に見つめている。

「出来ると思ったから任せただけだ。ちゃんと結果も出してる」


「PVさえ稼げば編集者がどうなろうと結果オーライですか。PV至上主義も結構ですけど、人は壊れたらそこで終わりだってこと、もうちょっと学習したらどうですか」


 林田は嫌な笑いを浮かべる。


「どうせアイツがダメになったら新しい替えを用意すればいいと思ってるんだろうけど、いい加減に一部のルーキーだけに期待して潰してを繰り返して、現場の指揮がだだ下がりってことに気付いてくださいよ。最終的に潰れていくやつの尻拭いをさせられるのは冷遇されてるこっちなんですから」


「ロートルのくせに、口だけは達者だな。人の心配をしてる暇があったら、とっとと仕事をしろ。尻拭い以外の仕事があるといいけどな」


 編集長は険しい顔で言い捨てるとデスクに戻っていった。






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