7月の扇風機
暑すぎる7月
あたしの扇風機が壊れた・・・。
「あぁーつぅーぃぃぃぃッ!!!!」
風速ゼロの教室で、あたしは喚く。
「ぎゃんぎゃん元気だね」
風質ゼロの教室で、爽やかの代名詞は諭す。
「だってだってだってだって!こんなにあっついんだよ? なのになんで海にも行けず、いや、そんな贅沢は言わないさ、海水プールでいいから!・・・うそ、ごめん、これも贅沢だった、せめて私営プール、いや、校内プールでいいから行かせておくれ!!!」
「弥生君、君は何のためにここに居るのかな?」
この暑さの中、ネクタイひとつ緩めることなく彼は言う。
「そもそも君が赤点など取らなければ、うきうきワクワク海やら川やら海水プールやらバーベキューやら花火やらクーラーがガンガンにきいた室内でかき氷を食して頭キンキンにすることだって何だって自由に出来ていたんだよ?」
扇風機ひとつないこの教室で、そんな悲しいマシンガントークはやめてくれ山岸君。暑くてたまらんよ。
「ほら、あと3ページ。もう少し頑張ればすぐに終わる量だから」
「なら代わりにやって」
「帰っちゃおうかな」
「えーとまずこのXを当てはめるのは・・・」
ちくしょう。 テストなんて女子高生の敵だ。テストさえなければ赤点なんて取らずに済んだし、 騒がしさのカケラもない夏休みの校舎で追試に苦しむことなどなかったのに!!
今頃、同級生の女子たちは浴衣の着付けに必死なんだろう。
「行きたかったなぁ、今夜の花火」
「行きたいならほら、終わらせる」
このやろう、山岸め。君の脳みそを少し分けなさい。だいたい何だって毒を吐きながらそんな爽やかでいられるんだ。君は知っているのか、クラス内での自分のあだ名を。素敵な扇風機☆だぞ。クーラー世代の現代にあって、あえての扇風機チョイス。
・今時髪も染めたことがないなんて、古風でステキ!(まりあ)
・クーラーっていうと、冷たい感じじゃない?だけど山岸はさ、涼しいけど冷たくはないんだよね、絶対。(ともか)
だって。知ってた?知るわけないだろうなぁ。なんていうか、爽やか? 国語の授業で爽やかを具現化したものを挙げなさいって言われたらクラス中が君を指すと思うよ。
「行きたい?」
「んぁ?」
「だから、行きたい?花火」
「行きたいよそりゃ。女の子の夢さ。浴衣着て、彼氏と待ち合わせして歩くの!」
「彼氏、いるんだ」
「夢の中ではね」
あ、冷たい視線禁止ー。
「山岸君はいないのですか」
「何が」
「彼女」
「いたらこんな暑い教室いないよね」
ですよね。スミマセン。教室に居た私を見つけたばっかりに。君は帰るところだったのにね。先生に開放されたら次は私に拘束されて。すまないねぇ。
「彼女にしたい子なら目の前で絶賛独り言中だけどね」
そうか、申し訳ないねぇ。
・・・・ん?
「気付くの遅いし」
え?
「というわけで、付き合ってください。ちょうどいいから花火も行っちゃいましょう」
えぇ??
「嫌?」
嫌といいますか!
「顔真っ赤だけど」
そりゃそうでしょうよ!好きな人からの告白で赤くならない女子がいましょうか!
「あ、好きでいてくれたんだ」
墓穴!!
「ならオッケーということで。よっ」
・・・・・!!!
なんですか! 今の何! 机越えてきたけど! 顔面超近かったけど!! 近いっていうか!!!!
「ごちそうさまです」
えええええええええええ!!!!!!
「いつまでも爽やか扇風機じゃ、好きな子モノにできないしねぇ」
(一回帰らしてください。)(なんで?)(や、やっぱ浴衣とか着たいじゃないですか)(制服でもいいのに)(可愛くとは言わないからせめて浴衣マジックを求めます!)(それ以上可愛くなられると困るんだけどなぁ)(!?!?!?!!)