モモ姫様と攫われた麗しの侍女?
女装男子(筋肉)対応作品です。色んな意味で残酷な描写がありますのでご注意下さい。
リクエスト短編第一弾になります。リクエストありがとうございました!
ー姫君の侍女シナモン・ロールは預かった。かえして欲しくば金貨50枚を持って〇〇にある小屋までもってくる様に。
平和な国ツーティアに大事件が起きました。モモ姫様の侍女であるシナモン・ロールが誘拐をされてしまったのです。モモ姫様の部屋の扉に脅迫状は貼ってありました。モモ姫様は脅迫状を破り取り、自らの騎士のもとへ急ぎました。
「シュナイト大変!シナモンちゃんが誘拐されたの、助けにいかなくちゃ!」
モモ姫様は護衛騎士であるシュナイトにシナモン・ロールの救出を手伝う様頼みましたが、
「大丈夫でしょう、ほっといても」
返ってきたのは冷たい一言でした。
「ひ、酷い!か弱い侍女が誘拐されたのにシュナイトの剣は誰の為のものなの?」
モモ姫様は珍しくシュナイトを全力でなじりました。それ程にシナモンはモモ姫様の大切な人だったのです。
「私の剣は姫だけの物です。」
「えっ、ああ…そうなの?ええっと」
シュナイトのマジレスにモモ姫様はうろたえてしまいました。しかしうろたえている暇は無いのです。こうしている間にもシナモン・ロールはチンピラに酷い目にあっているのかもしれないからです。
「じゃなくて、もういい、シナモンちゃんはモモ一人で助けるからシュナイト、金貨50枚貸して!」
騎士にお金を借りるお姫様なんているのでしょうか?…ツーティア国にはいるんです。モモ姫様位でしょうが。幸いシュナイトの家は大金持ちであっさりと金貨50枚借りる事に成功しました。金貨50枚と愛剣「アルバート☆ソード」を持ったモモ姫様は馬を駆け、指定された場所へ急ぎました。そんなモモ姫様を見送るシュナイトの後ろから犬の王様が現れました。
『おい、どうした、モモ姫はどこに行ったんだ?』
「ロール卿が誘拐されたそうです」
『…ほっといても大丈夫だろ』
犬の王様は虚ろな表情でモモ姫様の後ろ姿を見送りました。
「オラッさっさと歩けよ!」
小屋より少し離れた場所に馬車の置き、中から頑張って攫ってきた侍女を苦労の末に何とか引きずり出しました。チンピラはシナモンの両手を背中側に縛り後ろからぐいぐいと押しながら早く歩く様促しています。小屋に着くと外から部下に声をかけ、扉を開ける様に言いました。
「遅かったっすね、うわああああああ」
チンピラの部下はシナモンの姿を見るなり悲鳴をあげました。シナモンの身長は190cmあり、他の侍女よりもちょっぴり大きめだったのでびっくりしたのでしょう。
「お…おのれ化け物!ボスを離しやがれ」
勇気あるチンピラの部下の一人がシナモンに短剣を向けます。
「お前ら何やってんだ?拘束しているから大丈夫だぞ?」
チンピラの部下達にはシナモンがいきなりチンピラのボスを人質に部屋に乗り込んで来た様に見えたみたいで、特別抵抗する気配の無いシナモンを見て安心しました。
「大丈夫だ。この女以外とおとなしい」
「お、女…?」
チンピラの部下達に動揺が走ります。確かに侍女の格好はしていますがどう見ても、頑張っても、屈強なオッサンにしか見えません。何で禿げた頭にフリルの付いたカチューシャしてんだよ、とか、スカート短過ぎなんだよ糞が、とか思っていました。生足でないのが唯一の救いです。しかし誰一人ボスに突っ込める勇気のある者はいなかったのです。
「おい、こいつを捕まえとけ」
チンピラのボスは部下の一人にシナモンに巻かれた縄の先を部下に渡しました。部下は恐々縄を受け取りますがシナモンは入り口の前から動こうとしません。
「早く奥へ行け」
ボスは侍女のふくら脛を蹴り上げましたがシナモンのふくら脛は鋼鉄の様に硬く逆にボスの足に衝撃が走りました、何とか根性で我慢しましたが涙目です。シナモンはそんなボスを憐れみを持った視線を投げかけ、自ら奥へ進みどっかりと腰をおろしました。まるでそこにいる侍女が小屋の主の様でチンピラの手下達は「何だ?この茶番」状態だったのです。
「シナモンちゃん!」
扉を蹴り倒し現れたのはモモ姫様でした。扉のすぐ前にいたボスは後頭部に衝撃が走りまたしても一人涙目です。
「ふ、ふん、よほどこの侍女が大事と見える。しかし単独で乗り込んで来るとはな!」
ボスは涙を拭い、モモ姫様に虚勢を張りました。
「お金は持ってきた、シナモンちゃんを離して」
「お金が先だ。」
「モモ姫殿!渡してはならぬ」
シナモンの力強く野太い声に手下達はびくつきました。こいつ本当に女じゃねえよ、ゴネないで早く帰れよ、と切に願っていましたが叶わず…モモ姫様はボスの足元に金貨の入った袋を投げつけました。が、着地点がズレ、ボスの足に金貨が50枚も入った袋が直撃してしまい本日三回目の涙目です。それを隠す様に金貨を手下に渡し、シナモンを拘束している縄をナイフで切りました。
「オイ、立て。」
シナモンはボスの命令に従わず、胡座をかいて座ったまま動きません。
「立てってば!」
言う事を聞かないシナモンに業を煮やし、無理やり肩を掴んで立ち上がらせようとしましたがシナモンはビクともせず、無理やり引っ張った為にシナモンの袖口から胸元までの侍女服を破いてしまいました。
突如として露わになる胸元、シナモンは下着を着用しておらず逞しい素肌が剥き出しになっていました。あまりの衝撃に小屋の中の時間は止まってしまいます。シナモンも皆の視線を一心に受け 恥ずかしかったのか非常にゆっくりとした動作で両手を使い胸元を隠したのです。
「シナモンちゃん!酷い、女の子…なのに」
チンピラの手下達はお家に帰りたいな〜、夜ごはん何かな〜、と現実逃避していました。もう突っ込みが追い付かないので早々に仕事を放棄したのです。
モモ姫様は「アルバート☆ソード」を抜き、ボスへ斬りかかりました。ボスは何とかモモ姫様の一撃を受けましたが続く二撃目は受けきれずに剣ごと体をぶっ飛ばされてしまいました。言わずもがな涙目、です。無抵抗の手下達を縄で縛り小屋に置いてきました。彼らは後から騎士団に拘束される事でしょう。
「帰ろう、シナモンちゃん」
「すまんなんだったモモ姫殿、我が不甲斐ないばかりに」
落ち込む様子をするシナモンの肩を叩き二人は小屋を後にしました。
小屋を出ると馬に跨がったシュナイトが待っています。
「シュナイト!何で?」
「陛下に様子を見て来る様頼まれました。」
シュナイトはモモ姫様に怪我が無いか確認し、続いて彼女の侍女を見ました。シナモンの服は盛大に破かれ、胸元を両手で抑えつけている様子を見てシュナイトは空を仰ぎました。彼の瞳と同じ色の青空が広がっています。極力シナモンは視界に入れない努力をし、城に帰る様促しました。「じゃ、シナモンちゃんはモモの馬に一緒に乗って帰ろう。」
モモ姫様の馬がビクりと跳ね、二人乗りは無理、無理だからと首を振ります。
「その馬に二人で乗るのは無理でしょう。」
シュナイトは冷静に突っ込みました。
「大丈夫だよ!女の子二人だし」
「女の子…?」
シュナイトの氷の瞳がすうっと冷え、モモ姫様を震え上がらせます。
「ひ、酷い。モモが23歳だから女の子呼びしちゃ駄目だっていうの?」
そっちじゃねえよ…モモ姫様の馬は思いました。
「…ではロール卿が姫の馬に乗って、姫は私の馬に乗って下さい。」
「シュナイトは?」
「私の馬なら二人乗りは可能です。ちなみにロール卿と私は体格の関係で二人乗り出来ません。」
姫がシュナイトとの二人乗りを恥ずかしがって、シナモンちゃんとシュナイトが一緒に、と言い出す前に先手を打ちました。
騎士の提案はモモ姫様の馬でシナモンが帰り、モモ姫様はシュナイトと二人乗りで帰る、という事でしたが、
「我は馬に乗れないである」
「…………」
重大な問題が発生しました。
「ロール卿、いつまでその様な茶番を?」
「やっと突っ込んでくれたであるな」
シナモンは胸元を隠すのを止めトレードマークであったeverydayなカチューシャを外しました。
彼、シナモン・ロールがこの様な格好を始めたのは一年前でした。
ツーティア国には「魔物祭」という物があり、魔物の扮装をしながら街を練り歩く楽しい催しでした。その「魔物祭」の扮装としてシナモンの妻は彼に「侍女服」を準備したのです。侍女服を着たシナモンを見て「多分あなたが街で一番の魔物よ」と太鼓判を押し、シナモンは喜々として侍女の姿で出勤したのです。冗談のつもりでモモ姫様に「今日からモモ姫殿の侍女となったシナモン・ロールである」と自己紹介したら本当にそれをモモ姫様が受け入れてしまい一年の間侍女をする事になってしまったのだとシナモンは語りました。彼はようやく本職である騎士に戻る事が出きるのです。
「シナモンちゃん…その辺若干気づいてたけどごめんなさい」
一年間おふざけに付き合ってくれたシナモンにモモ姫様は頭を下げました。
「いや、楽しかったである、また我の侍女が必要な時はいつでも」
「帰りましょう」
シュナイトはモモ姫様をさっさと馬に乗せ走り去ってしまいました。
「むう。」
シナモンは一言唸ってからモモ姫様の馬に跨がり後に続きました。ひっそりとモモ姫様の馬が涙目だったという悲劇を残して。
END