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楽しい遠征日記

 ツーティア国の王都から半日程馬を走らせた場所にマータという街がある。ごく平凡な普通の街だったが、半年前より異変が起こっていた。



 マータの後方にはミネレバ山という標高3600m程の山がある。ミネレバ山は多くの果樹が自生し、街の収入源の一つとされていた。



 しかしその果樹が原因で今回の事件が起こった。ツーティアでは珍しい翼竜が果樹目当てに集まり巣を作って山を荒らしていたのだ。まだ山を荒らす程度ならギリギリ許されたが、翼竜は雑食だった。山で果樹にありつけなかった翼竜達が街へ降りてきては家畜を襲い、人を襲う事もあった。



 翼竜の討伐に駆り出されたのはザック・バーヴェン率いるツーティア騎士団第三遠征部隊で、在籍人数のうち20名はマータの街の護衛として滞在し、残り30名はミネレバ山の翼竜の討伐へと向かった。



 翼竜の巣は高い位置にあると予想された為に登山の装備も担いで登る事となった。2日目の午前中までは順調に討伐する事が出来ていたが、午後になると体調不良を訴える騎士が増えていた。原因は高山病だった。2日目午後の地点でのミネレバ山の到達地点は標高1900m程だったが、充分に高山病になりうる高さで、高山病と思われる症状が出た騎士には無理に討伐には参加させず下山を促す様ザックは指示した。



 4日目の朝になれば部隊は壊滅状態で、動けるのは隊長であるザックと副隊長のジャニス・アンダー、騎士になって二年目のハルヴァートと何かをやらかして遠征部隊に途中入隊したディー・グラムの4人だけとなっていた。



「おい、そっち一匹行ったぞ、ナリミヤ!」

「はいはーい」

 ハルヴァートはナイフを取り出し翼竜の翼を目掛けて投げる。見事ナイフは翼に貫通し、バランスを崩した翼竜は下降する。落ちてきた翼竜に向かって剣を構えたディーは、勢いそのままに翼竜の首を跳ねた。

「っつたくどんだけ繁殖してんだよこのトカゲ共は」

「…まだ巣が見当たらない、もう少し登らなければ」

 翼竜はかなりの数を倒してきたが肝心の巣を見つける事が出来ずにいた。翼竜を倒しても巣が残っていればまた山から逃げ出した翼竜が帰ってきて繁殖が始まってしまう。

「隊長〜一回王都に帰ろうよ〜この人数じゃ無理だって」

「何言ってんだ、ここまで来て、てっぺんまで行くぞ」

「…………まじで」

 隊長はマジだった。登山の装備を担ぎ直しサクサクと登って行く。

「姐さん、俺もう無理…」

 突然ディーが倒れた。顔面蒼白状態で、息使いも荒い。もしかしなくても高山病だろう。

「隊長ーディーが死んだー!」

 先を行くザックに声をかけると、般若の様な表情になってディーの倒れた場所まで帰ってきた。

「ディー大丈夫?」

「は、吐く…」

 息苦しさと二日酔いの様な吐き気、めまい、頭痛がディーを襲う。

「あー、吐いた方が楽になるかもね、失礼。」

 ハルヴァートはディーの口に指を入れ嘔吐を促した。

「息苦しいでしょ?呼吸はフー、フー、だよ。蝋燭を吹き消すみたいに吹いてみて」

 



 応急処置によりなんとか持ち直したディーだったがこれ以上進むのは困難だった。

「隊長、ディーは私が国まで連れて帰ります。翼竜によろしくお伝え下さい。」

「お前は頑張り組だ、ナリミヤ。アンダーお前がグラムを連れて帰れ。」

「ええー何頑張り組って!」

「このまま頂上を目指す。」

「かっ帰ろうよ、無理だよ二人だけじゃ」

 ハルヴァートは必死に山を降りる様説得したが聞く耳を持たなかった。

「そもそもなんで私なの?副隊長の方が隊長と連携取れているのに!」

 ザックは顎でジャニスを見る様促す。そこには先ほどのディー同様に顔面蒼白の副隊長の姿があった。

「おら、行くぞ」

「かっ帰る、帰りたい!」

「今日はやけにごねるな…」

「だって明後日結婚式なんだよ!」

「はあ?んなもん適当に帰ってから菓子折りでも送っとけばいいじゃねえか。」

「違う!花嫁なの、主役なの私っ」

 ずんずんと進むザックの足取りが止まる。振り向いた表情はやはり般若だった。

「聞いてねえ。」

「言ったし招待状も渡したよ!!」

 ザックの他人の話を忘れる、聞かないはある種の特技と言っても過言ではない。



 その時、上空から翼竜の鳴き声が近づいてきた。声の高さからしてかなりの数だった。

「ほら。お迎えがきたぞ。」

「嫌だー帰るー帰るのー!!」





 それからツーティアの王都に帰る事が出来たのは3日後だった。

「おい、ナリミヤ。お前は親衛隊長の所へ行け、報告書の作成は俺がする。」

「う…うん、帰ってお風呂入って寝てから行く」

「すぐに行けよ、心配してる筈だぞ。」

 ハルヴァートは高山病に罹った騎士以上に顔面蒼白で今にも倒れてしまいそうな雰囲気だった。

「今、会いに行って三行半なんかを突きつけられたら…私はシュナイトをその場で手籠めにする。」

「……そんな簡単に親衛隊長を取り押さえられる訳無いだろう」

 ハルヴァートの発言に若干引きながらもザックは突っ込んだ。

「隊長、山頂で倒した翼竜の数、覚えてる?52匹だよ…、翼竜相手に勝ち残った私がシュナイト一人に手こずるとでも?」

 異様な瞳の輝きに何故かザックは鳥肌が立ってしまう。

「……お前は、寝ろ。帰ってすぐ寝ろ。ストラルドブラグ家と親衛隊長へは使いの者を出しとくから。」

 ザックをここまで追いつめた人間は彼の奥方以外でハルヴァートだけだろう。

「何だ。結婚が駄目になったら愛人にでもしてもらえばいいじゃねえか。」

「あ、愛人はもうイヤだー!!」

 そう言いながら彼女は騎士団の詰め所から去って行った。長い長い遠征はハルヴァートの晴れ舞台を犠牲にし終わりを告げた。


END

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