ドジっこ侍女のトラブル日記
「モモ姫様と犬のお父さん」の続編ですが、モモはほとんど出ません。危険タグ女装男子(筋肉)対応作品です、ご注意下さい。誰も得をしない作品となっております。
「モモ姫殿~モモ姫殿~!!」
モモ姫様を探しているのは、ロングのエプロンドレスをはためかせながら走る侍女でした。あまりにも全力疾走している為スカートから膝小僧がちらちらと見えています。
『どうした?』
侍女の尋常ではない様子にたまたま通りかかった犬の王様が声をかけました。
「モモ姫殿がいないである!」
侍女の名前はシナモン・ロール。身長は190cmあり、スリーサイズはB130・W78・H95と悩ましい体つきをしていました。
黒のワンピースに白いフリルのついた前掛けを組み合わせたエプロンドレスを纏い、頭に装着したフリルカチューシャが侍女の可憐な雰囲気を一層高めていました。頭髪を全て剃り上げた頭にそのカチューシャは果たして必要なのかは分かりませんが、とてもよく似合っています。
『何?モモ姫が居ないだと』
朝、シナモンがモモ姫様を起こそうとベッドを覗き込めばもぬけの殻で、ベッドには温もりすら残っていませんでした。
『む、あそこに居るのはシュナイトだな、おいシナモン、シュナイトにモモ姫の居場所を知らないか聞いて来るんだ。』
しかしシナモンは腕組みをし仁王立ちしたままの状態から微動だにしません。
『おい。シュナイトの所へ行って話を聞いてこい。』
短気な犬の王様は急かしますがシナモンは状態を変えません。
『おい!!』
「恥ずかしいである…」
そう、モモ姫様の近衛騎士シュナイト・ストラルドブラグといえば、他国の姫なども憧れる存在でした。もちろんお城で働く女の子達の憧れでもあり、シナモンもそんなシュナイトに憧れる侍女の一人だったのです。
『お前…そういうのいいから早く行ってこいよ』
今度こそ犬の王様のマジ突っ込みに従いシュナイトのもとへ行く事にしました。
「ストラルドブラグ殿、突然すまんなんだがモモ姫殿の居場所は存じてあるか?」
「姫…?いいえ。今日は護衛は必要ないと言ってましたので。」
近衛騎士であるシュナイトもモモ姫様の居場所は知らないみたいでした。
「まさか…」
モモ姫様は数日前にチンピラのアジトを見つけたと喜んでいたのをシナモンは思い出しました。
「一人で、モモ姫殿はたった一人でアジトに行ったであるか…?」
犬の王様にアジトの事を説明すると、シュナイトとシナモンにモモ姫様の救出作戦を命じました。
シュナイトは馬に跨がりシナモンとの集合場所であるお城の正門まで急ぎました。既にシナモンは到着していた様です。何故だか大きなバスケットを両手で持ち、仁王立ちして待っていました。
馬に跨がるシュナイトにシナモンは熱い視線を送ります。
「ロール卿、馬は…」
「我は馬に乗れないである、ストラルドブラグ殿、相乗りを「無理です。」
シナモンが言い終える前にシュナイトは二人乗りを拒否しました。シュナイトの馬には男は二人も乗れません、生理的に嫌だったのかもしれませんが、氷の騎士様は多くを語りませんでした。
「我はどうすれば…」
正直城に残ってもらった方がありがたいとシュナイトは思いましたが、シナモンは言い出したら聞かない所があり、行くと言ったら行くのでしょう。
「では後ろから走ってついて来て下さい。」
シュナイトの無茶振りにシナモンは「ふむ。」と返事をして、バスケットを脇に挟み、走るのに邪魔になるのでエプロンドレスの両端を膝の辺りまで掴み上げました。シュナイトはこれ以上は本当の意味で目に毒だと思い、シナモンから目を逸らし、馬を走らせました。
敵のアジトは街を出て、30分程馬を走らせた森林の中にひっそりと建っていました。アジトより少し離れた場所に馬を繋ぎ、歩いて建物に近づきます。様子見をしている最中にシナモンが追いつきました。かなりきつかったのか肩で息をしています。
「中に人の気配があります。」
「ふむ。了解である、我が入口を蹴り飛ばそう。」
シナモンはシュナイトの返事を聞かないまま、ずんずんとアジトまで近づき、勢いそのままに扉を蹴り壊した。建物の中から「ひいいい~」だの「ばっ化け物!」だの「魔物か!?」だの悲鳴が聞こえます。
アジトの中は一部屋だけの小さな小屋でモモ姫様の姿はありませんでした。
「モモ姫殿はここにはいないであるか?」
「何で姫サマがこんな所に居るんだよ!!!」
目の前で起こる意味の分からない状況と恐ろしい姿をした生き物にチンピラ達は混乱していました。なんとかこの状況から抜け出さなくてはいけない、チンピラ達は一心に思います。
そこで勇気あるチンピラがナイフを振り上げシナモンに襲いかかりました。が、
「ふん!!」
ナイフの平部分にシナモンの拳が当たり刃はあっさり折れてしまいました。
「ヒッ…」
シナモンはチンピラを一人残らず縄で拘束し、一緒に街まで走って帰りました。何人かは引きずられてましたが大丈夫、みんな生きています。
チンピラのアジトにモモ姫様はいませんでした。
「仕方ない、陛下を頼るである。」
城に帰って早々犬の王様に報告を済ませ、次の作戦についてシナモンは説明しました。
「陛下、このモモ姫殿のハンカチの匂いを頼りに居場所を探して欲しい。」
シナモンは自分のエプロンドレスのポケットからハンカチを取り出し犬の王様の鼻へ近付けました。
『なっ…それ一日中お前が持ち歩いていた物だろう!!お前の匂いしかせん!』
「そんな事ないである。モモ姫殿の芳しい香りが」
『だからお前の匂いしかせんと!!』
二人のやり取りを後ろで見ていたシュナイトは正直呆れていましたがもちろん顔には出しません。
「あれ、シナモンちゃんどうしたの?」
突然現れたのは行方不明だったモモ姫様です。シナモンはこれまでの経緯を話ました。
「…それはそれは大変だったね~でもシナモンちゃんには言ってたよね〈エリザベスちゃんとお買い物に行ってくる〉って。」
「………そういえば昨日聞いた、であるな。」
「………」
『………』
シュナイトと犬の王様の冷たい視線を受けつつも、シナモンは気にする様子もなく、モモ姫様の後に続き部屋へ帰ってしまいました。
『…何、この茶番』
犬の王様の問いかけに答えられる者はいませんでした。
END