モモ姫様と犬のお父さん
こちらは「もしもモモがクラトスの娘だったら」という童話風のパロディ作品になります。
平和な国、ツーティア国にはホッカイドウ・ワンコという種類の黒い犬の王様と自分の事を「モモ」と呼んでしまう23歳のお馬鹿なお姫様がおりました。
「お父さん~モモ、王さまになりたーい」
『お前にはまだ早い!』
今日も王様とモモ姫様は仲良しです。
「む~じゃお父さんのシュナイトちょうだい!」
“お父さんのシュナイト”とは犬の王様の近衛騎士シュナイト・ストラルドブラグの事で、優秀で真面目、家柄も良く、愛想はあまりありませんでしたが美しい容姿も相俟って他国のお姫様も憧れる存在でした。
『む…シュナイトか、仕方ないな』
「ありがとう!!お父さん」
モモ姫様はお父さんの事は大好きでしたがちょっぴり犬が苦手なので愛用の「アルバート☆ソード」の鞘でお父さんの頭を優しく撫でました。
『シュナイト今日からお前は我が娘モモ姫の騎士だ。』
「仰せのままに。」
いきなりの主人の変更にシュナイトは動じませんでした。彼は「氷の騎士様」と呼ばれ、自分の感情をあまり外に出す事は無かったのです。
シュナイトはモモ姫様の前に片膝をつき、跪いて頭を垂れました。
「えっ!?」
『え、じゃないだろう。お前の近衛騎士になる為の儀式だ。…何を照れているんだ、自分が言い出した事だろう。』
「て、照れてなんてないんだから!」
そんな言葉も裏腹にモモ姫様のお顔は真っ赤でした。まさか自分のわがままがあっさり通るとは思ってもなくて、挙げ句あのシュナイトが自分だけの騎士になり、目の前で膝をついているのです。
『ほら。』
犬の王様は「アルバート☆ソード」を咥えモモ姫様に渡ました。儀式は騎士の肩を主人が剣の平で軽く叩くというモモ姫様でも出来る簡単なものでしたが…
「えっと、剣でシュナイトの肩を斬り刻むんだっけ?」
『違う!!!!肩を剣の平らな所で叩くだけだバカ娘!!』
あやうく平和な国を血で染め上げる所でした。
「わ、分かってるってば、冗談だよ!」
そう言いながらモモ姫様は「アルバート☆ソード」を両手で力いっぱい振り上げます。
『待て!!!肩は軽く叩くんだ、フルスイングする必要は無い!!!!』
「…………素振りだよ、素振り」
『本当か!?マジだったぞ今の』
王様はシュナイトの身の安全がとっても不安になってきたそうです。
主従になったモモ姫様と騎士のシュナイトはお出かけをしていました。美しい森の中を馬で駆け巡ります。今日はモモ姫様の「趣味」の為のお出かけでした。
澄んだ泉の畔に馬を繋ぎ、シュナイトはモモ姫様が座る前に敷物を敷きました。モモ姫は敷物に座り城から持って来たバスケットの中身を広げます。中身は「ハイジパン」という丸くて白く柔らかいパンにハムとレタスが挟まったサンドイッチとチーズ、林檎を取り出しました。
モモ姫様は林檎を手に取り、皮も剥かずにそのままかぶりつきました。全部食べ終わりしんの部分だけ残すと目の前の泉に投げ捨てました。よい子は真似をしては行けません。
シュナイトはそんなモモ姫様の様子を後ろに立ち無表情を貼り付け見つめるだけでした。
時間は穏やかに過ぎていきます。しかしただ泉に来て食事をするのがモモ姫様の趣味ではありませんでした。
静かな森にカチャカチャと金属同士があたる音がしました。振り返ってみればガラの悪い男達が20人程泉の周りを囲んでいました。
「まあ、シュナイトどうしましょう、怖いわあ…」
…とっても棒読みでした。誰が騙されるのでしょう…
「自分の運の無さを呪うんだなあ!!!」
しかし驚きの入れ食い具合でした。一斉にチンピラ達が襲って来ます。
「は~い、いらっしゃ~い!!」
チンピラ達はモモ姫様狙いで襲って来ましたが彼女が抜いた「アルバート☆ソード」によりザックザックと斬り伏せられていきます。シュナイトはというと、モモ姫様を狙いそこねたこぼれチンピラをサックリ斬りつけるだけの簡単なお仕事をしておりました。完全にシュナイトの無駄使いです。
美しい泉は荒らされ悲惨な状況でした。チンピラ達も一人残らず騎士団に連行されました。
「ふっ、余計な物を斬ってしまった…」
頬についた返り血を拭い、満足げな様子言いました。…これがモモ姫様の困った趣味だったのです。
来る日も来る日もシュナイトはモモ姫様の「趣味」に黙って付き合ってくれました。そんな生活が半年も過ぎようかという時についにモモ姫様はある事をシュナイトに命じてしまうのです。
「もうモモの趣味にシュナイトはついて来なくていいよ。モモの騎士をやめていい。」
「…何故でしょうか?」
理由はモモ姫様の罪悪感からでした。くる日もくる日もチンピラ退治につきあわせる事に疑問を感じてしまったのです。これ以上シュナイトの剣をチンピラの血で汚してはいけない…、彼には相応しい場所が他にあるのではと考えてしまい、シュナイトの事を思っての言葉でした。
「シュナイトはよくモモに仕えてくれました。これからはシュナイトの好きな事をすれば良いのです。」
「好きな事?」
「そう、前みたいにお父さんに仕えたり、宰相になったり、道場を開いて弟子をとったり、好きな事が出来るようにモモがお父さんに頼みます!」
周りの人達は彼女の事が可愛いばかりに甘やかしてばかりでしたが彼だけはモモ姫様が間違った事をした時に本気で叱ってくれました。シュナイトの良い所は顔や家柄だけではなく、相手を思いやる廉潔な所がモモ姫様は大好きでした。
「好きな事をしてもいいと?」
「モモが許します、ぐえっ」
シュナイトはモモ姫様を抱きしめました。
「な、なな、何を」
何をしてくれるんだ、ありがとうございます!!と言いたかったのですが混乱してうまく喋れません。
シュナイトはモモ姫様の頬に触れ顔を近づけます。
「あ、あの私男の人とお付き合いとかした事なくて、こういう時どうすればいいかわからないんですけど」
モモ姫様の突然の自己申告にシュナイトは笑ってしまいました。
「目を閉じて下さい。」
シュナイトはモモ姫様に口付けをしました。
犬の王様は朝から暗い表情をしながら出掛けたモモ姫様を心配してしまいつい街中まで迎えに来てしまいました。そんな犬のお父さんをモモ姫様は一目で見つけました。
「お父さん、ただいま~」
よほど嬉しい事があったのか犬の体を抱きしめました。が。
『それはただの黒い犬だ!!!!』
今日もモモ姫様は残念だったのです。
END