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第五章 『役割』
やっと森を抜けた志穂は急いで大学を目指した。
森から大学まではそう遠くはない。大学の門をくぐったとき、ふと目の前に見知った人を見つけた。
「教授!」
白衣を着た五十歳前後の男性は志穂の声に振り返る。
「おや、高槻君。久しぶりだね」
「はい、お久しぶりです」
「卒論は出来たのかな?」
「いえ、出来てません」
「うん?」
「卒論は今日中に仕上げます」
「今日中に?そんなに慌てなくても・・・」
「やらなければならないことが出来たんです」
顔を上げ、ぐっと胸を張った志穂の瞳は強い光を秘めていた。教授はそれを見て「君はこの一週間足らずで君の役割を見つけたんだね?」
「はい」
「そうかい。じゃぁ早く書かないとね。合格したら君は自由だ」
優しく微笑む教授に志穂は力強く頷いた。
* * * * * * * * *
太陽が真上を通り過ぎ、少し西に傾いた頃、燵鬼は森の中を駆けていた。志穂に会いたいという衝動的な思いを原動に。
人と関わりたくなかった。だから必要以外で外に出ることは稀なこと。なのに、今は自分から進んで人間のもとに行こうとしている。
「っ・・・・・・」
胸が苦しい。これは志穂に会ったら直るだろうか・・・?




