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第四章 『別れ』

 朝早く、志穂はキャリーバッグを引き屋敷を出た。森に入り行きと同じ、鬱蒼とした道なき道を歩く。

 少し歩いたところで足を止め屋敷を振り返る。じっと見つめ何かを決心したようにまた歩き出す。

 それを燵鬼は窓から見ていた―――。




* * * * * * * * * *



「出て行ったのか・・・」

 森に入っていく志穂の背を見ながら燵鬼は呟いた。

 突き放したのは自分だ。出ていくように仕向けたのは自分だ。なのに、胸が痛い。

「人と話したのは、何年ぶりだ・・・?」

 母が死に、父がその後を追って死んだ。母と父が死んだことに何も思わなかった。

 兄は母と父の死後、すぐに付き合っていた女性と結婚した。しかし子供を作ることはなかった。血を継がなかったとしても、吸血鬼の血が流れていることには変わりない。例外の己が近くにいて、その苦渋を知っているからこそ、兄は自分の子供にそんな思いをさせたくないという思いで子供を作らなかった。

 兄は歳を取り、そして寿命を迎え死んだ。けれど俺は年を取らない。ある一定の歳になり、成長が止まり歳を取らなくなった。

 ここで自分が人間でない事を実感した。

 父は何度も謝った。『辛い思いをさせてすまない』と。そう思うなら、傍にいてくれたらよかったのに。何故父は母の後を追ったのだろうか。

「だから人は嫌いだ・・・」

 自分勝手で、人の気持ちなど考えない。

 俺はまた一人になった。

 たった一ヶ月、一緒にいただけなのに志穂の存在は己の中で大きく主張していた。

 『一人にしないで』子供の様な思いが溢れ出す。

「志穂・・・っ」

 頬を熱いものが流れる。一筋、二筋・・・。流れだした涙は止まらない。

 どうしてこんなに胸が苦しいのか。どうしてこんなにも哀しいのか。

 燵鬼はその理由をまだ知らない。



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