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お前を勇者にしてみせる!  作者: 糸冬すいか
1章:スタート&エンカウント
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04:呪術と自由への逃亡

 呪術。

 呪い、悪い魔法、とも。

 要人の暗殺や国家転覆に使われた歴史もあり、あまり良い印象はもたれない。それでも……いや、だからこそ、国家は呪術の才能を持つ者を確保しようとする。他国との取引に使えるからな、少ない魔力消費で一斉虐殺ができるし。

 共通するのは、生物に害を与える効果を持つ、ということ。明確に水を出すとか火を出すとかいうことはできないが、応用の幅は広くて対処も難しい。

 あと、詠唱は必須だけど、呪文が定まっていない。本を調べてみたけど、いくつかの例が載っているだけで、あとは自分で考えて応用しろってことみたいだ。

 ぱたん、と分厚い本を閉じて、俺はあくびをかみ殺した。呪術について調べてみても、イマイチ情報が集まらない。レア魔法って聞いてたけど、レアすぎて誰も使わないからか。

 あと……国家転覆に使われるような魔法なんて、国が研究を管理するんだろうな。

「やっぱ、俺が自分で考えるしかない、か……それに、」

 俺が呪術が使えることは、秘密にしなきゃいけない。

 ばれたら多分……国が俺を抱え込もうとするだろう。俺は勇者と会って世界を救わなきゃいけない。そのためには、なるべく自由な身の上の方がいい。

「さて……いよいよだ」

 魔法の練習も始めて半年、結構いろいろ使えるようになってきたし呪文も覚えてきた。まあどれも初歩の魔法だけど。

 そして平行して、こっそり呪術も試していた。メイドさんに隠れてカエルを部屋に持ち込み、実験台になってもらったりな。カエルである理由は手に入れやすいことと、あと呪いのイメージを作りやすいこと。なんか呪いといえばカエルって感じしないか?

 まあ、さすがに呪術で一発本番は怖いからな。俺のやりたいことをやるためには犠牲も必要だ。

 初代カエル君は犬になったり虫になったりしたあと、今は魚になって元の池で泳いでいる。うーん、あれは解呪条件がまずかった。呼吸をしたら解ける、にしたら、えら呼吸だから解けなくなっちゃったんだよな。

 でもカエル君たちの尊い犠牲により、呪いのかけ方は分かってきた。条件のつけ方も絞り込めた。

 いよいよ、試したかった呪術を実行に移すときがきた。

「……っ」

 両親は仕事で出かけて家にいない。屋敷にいるのはメイドさんや護衛の人たちだけだ。そして彼らには、今日は部屋でじっくり魔法の勉強をするので邪魔しないで欲しいと言ってある。

 鏡の前に立ち、違和感もなくなった自分の姿を見る。金髪に紫の目、可愛らしさが抜けて男っぽさが現れ始めた年頃。しっかりと目に焼き付けてから目を閉じ、詠唱を開始する。

「携えたる錠は魂の姿、歪められぬ姿。解き放つ鍵は言の葉、『リドヴェルト』。偽りの姿、傷つけぬ嘘、懐かしき憧憬。――《変化》」

 ずっ、ぐにゃん。

 瞬間、全身を気持ち悪い感覚が包み込んだ。内臓の奥、身体の内側から裏返されるような不快感。骨が軋み、皮がむかれる。痛い、痛い痛いイタイイタイイタイ――ッ!!

「ぐっ、うぇ、え……っ、はっ、ぁああ……ッ!!」

 吐き出し、暴れだす身体を抱きしめて――――どれくらいが経っただろう。

 身体の痺れる痛みにようやく、床に崩れ落ちていることに気付いた。結構な衝撃だったはずだけど、呪術の痛みで全然気付かなかった。

 ふらつく頭を押さえて、鏡を見る。黒、黒!

 黒目黒髪の、やや黄色っぽくくすんだ肌。リドヴェルトの服は裾が足りずに、全体的にぴちぴちになっている。そんな場合じゃないけど、ちょっと笑えるな。最大の難関を乗り越えたから余計に。

「……は、ははっ。やった……俺、だ……!」

 叫びだしたいのを堪えて、鏡にすがりつく。

 まぎれもない。鏡に映っていたのは俺、木戸光輝だった。



   +++++



 俺が呪術が使えるとばれるとまずい、と分かってから、ずっと考えていた。これから先ずっと、リドヴェルトのこの力がばれない保障なんてない。ばれたら捕まり、勇者に介入できないかもしれない。それは困る、どうする。

 なら、俺が自分自身に呪術をかけて変化すれば?

 二つの姿を使いこなせば、リドヴェルトが動けなくなってももう一方で動き回れる。自分に呪術を書けること自体は可能だと書いてあった。ただ、余りにも違う身体になれば魂が違和感を感じて、上手く動けないとも。

 でも、この姿なら問題ない。

 これは、木戸光輝は、俺だ。十数年間付き合ってきた身体だ、上手く動けないわけがない。

「んー、こんなもんか。うわ、コスプレしてるみてえ」

 鏡に映ったのは、あらかじめ入手しておいた服に着替えた俺の姿。リドヴェルトの服じゃ小さいのはわかってたからな、ちょっと護衛の人たちの服を拝借した。

 ちょっと布が粗くてかゆいけど、我慢できないほどじゃない。ズボンとシャツ、ベルトやローブなど一通り借りた。後で返す予定だから、盗んだわけじゃない。

「今日は様子見だからなー。この姿用の服を買って、後は街の観光ー」

 呪術が上手くいき、懐かしい姿になったのでご機嫌だ。鼻歌でも歌っちゃいそうなくらい。

 まあ手間取ってるとメイドさんが来るかもしれないからな、準備してあった荷物を持ってベッドにネズミを寝かせる。眠らせる魔法でぐっすりだ。ネズミさんは台所裏にかけた罠で捕獲。

「携えたる錠は鏡のごとき姿。解き放つ鍵は命ずる我の意思。偽りの姿、傷つけぬ嘘、身代わりの休息。――《変化》」

 みるみるうちにネズミの姿が膨れ上がり、俺――リドヴェルトの姿になる。適当にさっき脱いだ服を簡単に着せて、違和感がない姿勢でベッドに寝かせる。

「これでメイドさん対策はよし、と」

 さすがに、部屋を覗きに来て誰も居なかったらまずいからな。寝ていればばれないだろ。「起こさないでね」と書置きも残したし。あばよネズミ君、身代わり頼んだぜ。

 ざっと部屋を確認して忘れていることがないか確かめ、窓を開けて風の魔法を使う。ここ、三階だからな、落ちたら死ぬ。

 といっても重力に干渉するような魔法はまだ知らない。代わりに使うのは初期の風魔法だ。下に向かって風の塊を連続で打ち出し、落下速度を軽減させるのだ!

「……あたっ」

 受身がとれずに転がったのは、ご愛嬌ってことで。

 誰にも見つからないうちに、呪術で姿を見えなくして、護衛の人たちにもばれずに脱出。ちなみに参考は某カメレオン人間さん。息を止めている間は認識できないって、呪術の条件としてはなかなか良いんだよ。

 屋敷の門から堂々と出て行き、物陰に隠れて息を吐き出す。とたんに、認識されていなかった身体が存在感を取り戻した。

 がやがやと騒がしい街の賑わいに、にやつく頬を止められない。

「…………ふ、ふふふ」

 今まで貴族の三男としてしか街に出た事はなくて――つまり、自由に歩き回ったりとか出来ていない。保護者同伴で外食とかおもちゃ屋くらいにしか行けなかった。上手く親の目をすり抜けても護衛の人たちがついてくるし、12歳じゃ犯罪に巻き込まれるかもしれないだけだった。

 今は違う、俺は17歳の木戸光輝であり、いろんなところに顔を出せる。この国での成人は18歳だからまだ未成年だけど、歩き回るのは自由だ。

 ファンタジーな世界にきたのに、指を咥えて遠くから見てるだけだった日々ともおさらば。武器屋に行って自分の武器を買ったり、ギルドに顔を出してみたり、ファンタジー体験ができちゃうんだ!

 俺は、自由だーっ!



 ……さて、借りパクしないためにも服を買いに行くか。


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