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お前を勇者にしてみせる!  作者: 糸冬すいか
1章:スタート&エンカウント
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02:魔物とやじろべえの一端

 お久しぶりです、前世木戸光輝で今世リドヴェルト、あれから2年がたちました。

 この世界にも慣れてきて、リドヴェルトとしての生活も馴染んできた。最近では13歳で入学する学校に向けて、家庭教師を雇っていろいろ勉強中だ。

 ちょっと早いと思う。でも、精神年齢は高校生だから「この子天才!」と親に期待されちゃったのだ。確かに年の割には落ち着いてるし分別もあるけど、同じような貴族の子供見たところ対して変わらない気が……。

 全体的に早熟なんだよな、この世界。成人年齢が18歳だから、その分繰り上がってると思えば納得できる、かな。それとも、俺が精神面ですら幼いというのか。信じたくない。

 それはおいといて。

 「興味のある方向から学んでいきなさい」という両親のありがたい教育方針により、俺は冒険とかバトルとか魔物について勉強中だ。ギルドから教えるのが上手い人を選んで、俺の先生になってもらっている。もちろん、それ以外の勉強も少しはしてるけど。

 うん。

 魔物いた。ギルドあった。

 いわゆるファンタジー! って感じで超はしゃいじゃった。精神年齢を忘れて、もう外見そのままの喜びようで。神様ありがとう。今まで散々裏切ってくれたけど水に流しちゃう。

 まあ毎日ってわけにも行かないから、週一くらいだけど。

 ちなみに、一週間は七日で一日は21時間ホラ。っていっても1時間ホラの長さは、あくまで感覚だけど、地球とは違うっぽい。案外、長さは一緒で数え方が違うだけかもしれない。地球の時計を持ってない以上、細かいところまではわかんないんだよな。

 考えながら、動きやすい服装に着替えて剣を下げる。今日はその、ギルドの先生が来る日なのだ。しかも実践訓練である。

 もう一度言おう。実践訓練である!

 記憶が戻ってから、よく分からないなりに身体を鍛えたかいがあった。先生からは年の割りには結構できている、と褒められたし。少し前から本物の魔物を相手に実践訓練も取り入れたのだ。

 っていっても出かけるわけではない。屋敷の庭の一角で、先生が連れてきた弱い魔物と戦うだけだ。いくら俺が奔放な12歳児でも、いきなり野外演習は無理がある。

「っ、先生、おはようございます!」

「おお、リド。久しぶりだな。きちんと訓練は続けていたか?」

「はい!」

 芝生で俺を待ち構えていたのは、ダークレッドの髪をポニーテールにした長身の女性。アガタという、俺の先生だ。年齢は隠すこともなく28と教えてくれた。

 ちょっと前までは前線でバリバリ働いていた冒険者だったが、怪我が原因で引退したそうだ。冒険者厳しい。前から少しやっていた講師を本業にシフトして、今は講師しかやってないらしい。

 正直、体捌きとか見てると「前線でいけるんじゃね?」という感じなのだが。まあ一瞬の油断が命取りの世界だ、講師で稼げるなら安全に稼いだ方が良いんだろう。

 貴族から声がかかるだけあって、凄く教え方が上手い。休憩時間に自分の冒険の話とかしてくれて、それがまた教訓になってたりするし。話し上手だし。

 アガタ先生は快活な笑顔を浮かべ、ぐしゃぐしゃと俺の頭を撫でた。ちょっと痛いが、元気なおばさんって感じで嫌いじゃない。

「よし、今日も元気だな。まずは十分な準備運動、それから素振りだ」

「はいっ」

 ちょっと体育みたいだが、俺の身体はまだ子供。あんまり無茶をすると成長に悪いから、と言う理由で程ほどの内容だ。

 まあ前線でバリバリバトルにも憧れるけど、そっちはチート勇者に任せるつもりだしな。俺は後方支援としてやっていくつもりだから、最低限の体捌きができればいいだろ。

 ところで先生。

 背中に抱えている動く袋、ずいぶんと元気ですね。



   +++++



 魔物、とは。

 数百年前から存在は確認されている、謎の生き物。どうやって生まれ、増えるのか全くわかっていないらしい。研究しているところもあるらしいが、結果はさっぱりだとか。今はどんな種類がいるかとか、その分類で精一杯みたいだ。

 分かっているのは、人間に掛け値なしの殺意を持っていて、襲うということ。食べるってわけでもないらしい。っていうか何を食べるのかすら分かってないらしい。

 あと、倒すと魔物を構成してた「魔」を手に入れ、保有する「魔」が少し増える。魔物を倒すと、MP上限が増えるみたいな感じだと思う。

 そっくりそのままってわけじゃなくて、後から手に入れた「魔」は使えば失われる。でも何度も繰り返してると上限が増えるんだとか。徐々に拡張していく、って感じか?

 そしてここ100年くらい、その数も被害も増加傾向にあるということ。

「姿勢を崩すな! 自分の身体を隅々まで把握しろ!」

「はいっ!」

 素振りをしながら考えてたら怒られた。一応、先生の見本通りにやってるつもりなんだけどな。ビデオとかで自分のフォーム確認できたらいいのに。

 集中しなおし、身体を動かす。でも、どうしたってこれからのことを考えてしまう。

 魔物の増加。なんとなくだけど、神様が言っていた「世界のバランスが崩れている」ってのが関係してるんじゃないかと思う。

 人間が滅びたらバランスが崩れて世界が滅ぶ。

 なら、そのバランスを取っているもう一端って何なんだ? あのやじろべえのもう一方は、なんだったんだろう?

 話を聞いていたときは「魔族とか亜人とか?」と思っていたんだが、どうもこの世界にそういったモノはいないみたいだ。もしかして、バランスの一端は魔物なんじゃないか、というのが俺の考え。

 勇者の役目は魔物を減らして世界のバランスをとること……じゃないかな。うーん、ちゃんと聞いておけばよかった。テンション上がって忘れてたからな。

 俺は勇者一行に参入してついていかなきゃいけないからな。いろいろ今のうちに魔物についても知っておかないと。あとは、才能を貰った分野について力を伸ばしたり、か?

 とにかく、今はできることをしないと。

「……素振りそこまで、よくがんばったな。少し水分を取り休憩した後、実践に入るぞ」

「やった!」

 先生の言葉に、座り込んだまま歓声を上げる。たかが素振りと思うな。12歳児には途方もなく重い剣を振り回さなきゃいけないんだ。フォーム指導が厳しいから、精神的にも疲れる。

 メイドさんが持ってきてくれた水で喉を潤し、汗をタオルで拭う。さすが貴族、タオルがふわっふわ。柔軟剤ってこの世界にもあるんだろうか。

 少し日陰で涼み、汗が引くか引かないかの絶妙なところで先生が声をかけた。いよいよ実践なんだろう。例の、鳴き声を上げる袋を用意している。剣を持って近寄ると、先生は袋の口を緩めて離れた。

「今回は少し魔物の種類を変えた、気を引き締めていけ。まあそこまで強くもないし、万が一無理そうだったら私が支援に入る」

「は、はい」

 ごく、と喉を鳴らして剣を抜いた。前まではほとんど動かないスライムっぽい魔物だった。たしか、無機物系粘水型? とかいう分類だったはず。研究が進んでないせいで、名前とかついてないんだよな。

 活発に動く袋の中身に、緊張もするし期待もある。

 そして数秒後、もぞもぞと動く袋から出てきたのは、

「シャーッ!!」

「うわあぁああ!?」

 立派な牙の生えたウサギだった。

 ちょ、動きの時点でスライム系ではないとは思ってたけど、思ったより強そう! 少し変えるってもうちょっと、弱そうなのじゃないのか!? スモールステップでお願いします!

 ウサギ、といっても、口が大きくて牙が見えている。目つきも悪いし。野性味溢れた黒い毛皮に赤い目が凶悪すぎる。しかもウサギにしては大きい、中型犬くらいあるんじゃないかコレ?

「せ、先生! これ、えっと、俺で倒せるんですか!?」

「見た目に惑わされるな、威嚇しているだけだ。強靭な後ろ足での蹴りと体当たりに注意しろ」

「牙、すごいんですけど!」

「噛まれても致命傷にはならない。目を逸らすなよ、弱いと思われたら攻撃してくるぞ」

 先生、冷静すぎる。

 的確なアドバイスにちょっと傷つきながらも、剣を構えてウサギをにらみつける。シャッと吐き捨てるウサギは少々……いや、かなり怖いが、こんなところで止まっていられるかよ。

 世界を救う勇者についていくためには、ウサギでビビってるわけにはいかないだろ。

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