05:祝福とロマン
呪術と、解呪術。
今、全く正反対な感じの言葉が聞こえたような。
いや、ある意味順当な組み合わせかもしれないけども。なんかしっくりこない、っていうか。
「……なんだろう……勇者ポジションを期待したのに、闇を極めた僧侶みたいな……」
「ごめん、さすがによく分からないな。混乱してるね?」
ちょっと予想外すぎまして。
眉間の皺を揉み解して、ラストの生八橋を口に放って咀嚼。飲み込んで、神様が淹れてくれたお茶をすする。うまい。
よく考えると、俺、神様が手ずから淹れたお茶飲んでるのか、すごいなぁ。
……落ち着いたところで、再び口を開いた。
「えっと、呪いをかけたり、解いたりってことだよな。……呪いって?」
「分かりやすく言うと、キミの世界の御伽噺みたいなものさ。百年の眠り、外見を変える、他者を操作する……あ、恋に落ちる魔法も呪いだったかな」
意外とメルヘン。……いや、分類が呪いの時点でメルヘンも何もないわ。
「でも呪いってことはこう、怪しい儀式とか、魔女の大鍋とか、多大なリスクとか……」
「いや、そういうのはないよ。ただ、他の魔法と違ってちょっと手順が必要なだけ」
「手順?」
やっぱり儀式か、地下室で魔法陣を描いて怪しい呪文を唱えたりとかするのか? それとも深夜に藁人形を打ちに行くのか? 人を呪わば穴二つなのか?
「キミの中の呪いのイメージは根強いねぇ……。普通の魔法は呪文を詠唱するだけなんだけど、呪術は使うときにきっちりと条件を決めなきゃいけないんだ」
条件、と言われてもしっくりこない。魔法が呪文を詠唱してっていうのはなかなかファンタジーでかっこいいけど、それにプラスして条件?
「呪いが発動する条件と、呪いが解ける条件。その条件の難易度によって、呪いの強弱が決められる」
「あれ、じゃあ解呪術っていうのは? それで解けるんじゃないのか」
「解呪術は呪いの効果を和らげたり、条件を占ったりする魔法でね。完全に解くには条件を満たすしかないよ」
想像とは結構違うみたいだ。
どっちかって言うと、本当に童話に出てくる悪いおまじないみたいだな。糸車で指を刺すって言うのが発動条件で、死の呪いを百年の眠りにするのが解呪術の効果、でもって王子様のキスが解呪条件みたいな感じか。なんかやっぱメルヘンだ。
発動条件が難しいと、解呪も難しい強い呪いになる。使うときはその条件を吟味しないといけないし……戦闘中に使うってわけにはいかないよなあ。
下準備してこっそりと、策略。
……地味だ。
表だって戦うのは勇者で、俺は脇役なんだってのは分かってるつもりだけど。それでも、かっこよさとか求めたって良いじゃない。男の子だもの。
「まあ、実際に使うのはだいぶ先になるでしょ。それまでにいろいろ調べて試してみれば良いんじゃないかな」
「ん、そうだな」
あんまり神様に頼ってばっかりって言うのも情けないし。意識が戻ったらいろいろ勉強してみるか。それにこういうニッチな力が、いざと言うときに役に立つとかよくある話だ。
そう、たとえば、えっと、――勇者が人間を滅ぼそうとしたとき、とか。
……マジでありえそうだな。チート勇者相手じゃ普通に戦うなんて無理だし。条件を厳しくした呪術なら動きを封じるくらいはできるかも。頭の片隅においておくか。
「凶悪な発想するなあ……まあいいか。それじゃあ、他の祝福についても説明しようか」
「他の?」
祝福って、今の特典だけじゃないのか? 他にもなんかあるのか。
まあレア魔法とはいえ、呪術と解呪術の力があるだけで、勇者にうまく干渉できるかって言うと微妙だし。なんだろう、基礎的な能力値を上げれるとかだったら嬉しい。
「バトル脳だなぁ。……ボクがたまに夢枕に立っちゃう、天啓の力とか」
「おお……!」
これは、嬉しい……! これで離れちゃったらもう会えないかと思ってたからな。死んだら会えるかもしれないけど、それは一回こっきりの最終手段だし。
うん、やっぱり、ほら。神様可愛いし? 気になっちゃうって言うか?
これからもちょくちょく会えるとか、オイオイ、これっていけちゃう? がんばればいけちゃう?
「……あくまでボクの方から呼びかけるだけだから、キミの方からコンタクトを取ることはできないよ。必要なときだけだから大して使うとも思えないし」
「スルーかよ!」
せめてツッコミはいれてほしかった! 心読めるんだし!
今までにない表情が見れたけど。能面のような無表情だけど。
いや、これはこれで……だめだ、見た目子供な神様に蔑まれて喜んだら、俺の大事な何かが終わる。そこは死守しないと。
神様は呆れたようにため息をついてお茶を淹れていた。急須にお湯を注いでふたをし、揺らしながら話を続ける。
「……あと、確実に勇者に巡り会うために、キミには出会いの幸運も与えよう」
「出会いの、幸運?」
「キミに必要な人に出会える運。上手くいけば勇者以外の実力者とも出会えると思うよ」
「おお、最強パーティーだな……!」
つまり、ご都合主義的な出会いが期待できると。悲鳴を聞いて駆けつけたら、そこには亡国のお姫さまが! ギルドで知り合った美女が仲間に! 可愛い魔法使いが俺の応援を!
「出会ったところで、勇者に取られるんじゃない?」
「だよな!」
期待したって無駄だと分かっていても、妄想くらいはしたかった。だって男の子だもの!
勇者っていうくらいだから、顔面にも補正がかかってるんだろう。でもってハーレム属性もきっと持ってるんだろうな。ちくしょう、イケメンなんて。
神様は無言でお茶をすすり、しげしげと俺を眺めた。
「いや、そんなこと言っても……キミも人間としては整っている方だと思うよ?」
「慰めはいらな……あ、そっか、転生したんだもんな」
鏡がないのでわからないが、神様のお墨付きと言うことは結構な美少年なんじゃなかろうか。すべすべ真っ白な肌にふわふわサラサラの金髪。このまま成長して美青年になれば、ハーレムとまでは行かなくとも結構イイ線いくんじゃないか。
「ありがとう神様。俺にも、希望が見えてきた……!」
「かっこいい台詞の無駄遣いだね」
すぅ、と辺りのものが消え始めた。ああ、まただ。もう終わりなのか。名残惜しいと言うか、神様と話しているのは結構楽しいのでちょっと残念だ。
と、神様が立ち上がり、俺に向かってかがみこんだ。え、まさか。これって恒例なのか!?
また、額に柔らかな感触。二度目とはいえ、聞こえてきたリップ音に心臓がばくばくと音を立てる。そして、
「……べ、別に、ボクだってキミと会って話すのがすごく楽しみとか、思ってないんだからね?」
そのすねた口調に、俺は戦慄した。
ここにきて、まさかの、ツンデレだと……!?
ちくしょう神様。なんてヤツだ。別れ際に爆弾落とすのが趣味なのか、俺を落とすのが趣味なのか。後者だとしたら、俺はまんまと策にはまっている。
可愛い女の子のために世界を救う。これって男のロマンだよな?
7/21 誤字訂正。