表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前を勇者にしてみせる!  作者: 糸冬すいか
3章:ヒロイン&サモンコール
42/43

03:彼女と世界を救う理由

『あー、いきなりで混乱してるとは思うけど、あんまり長くいるわけにはいかないんだ。こっちにもいろいろと事情が……――って、ぇえ!?」

 思わず、最後は第一公用語になってしまった。だって、女の子が急にぽろぽろ泣き出したんだぞ。防音しておいて良かった、なんて思いつつ、おろおろと近寄る。でも泣いてる女の子の慰め方なんて知らねーよ、俺はアーノルドじゃないんだぞ。

『ご、ごめん、いきなりだったよな。えぇっと何から説明したらいいのかな……』

『……あ、あなたも、召喚された、の?』

 涙混じりに聞こえた言葉に、ぐっとつばを飲み込む。ベッドに座り込んだ彼女を怯えさせないように距離を保ちながら、ぎこちなく日本語を返す。

『悪い、俺はそうじゃないんだ……でも召喚されたって自覚はあるんだな』

『だって、なんかドラゴンいたし……言葉、全然通じないし』

 ぐす、と鼻をすすって、視線を落とす。あぁ、言葉の壁は厚いよな。俺は転生して言語習得してからだったから、そこはパスしていたんだ。

 でも気持ちを想像することはできる、どれだけ不安だっただろう。それで一日流されて、俺が日本語で話しかけて。あぁ、もう、もっと上手く出来なかったのかよ俺。

『い、異世界、ってやつなんだよね……』

『あぁ……その、名前聞いていい?』

『え、あ……ご、ごめん。私は、はぜ、みつき』

 ハゼ・ミツキ。すぐには漢字に変換できない。っていうかハゼってどう書くんだ?

 俺の困惑が伝わったのか、彼女はくすりと笑った。涙で赤くなった目を柔らかく緩ませて言う。

『海の波に浅瀬の瀬で、波瀬はぜ、光り輝くで光輝みつき

『光り輝くって……俺と同じかよ』

 光輝。同じ漢字の名前だからっていうのも関係あるのか? 分からないけど、無関係ではない気もする。名前は大事だって言うし。

『あぁ、えっと……木戸、光輝くん?』

『うん、この姿では今キドって名乗ってる』

『この姿?』

 あぁもう、俺かなり動転してるな。来る前に何を話すかとかいろいろ考えてたのに。波瀬の泣き顔で全部ふっとんじまった。

『俺はこっちに転生したから……今の姿は、ちょっと魔法で弄ってるだけって言うか』

『魔法、あるんだ……実にファンタジー』

『うんまぁそんな感じ。で、波瀬、これからのことなんだけど』

 俺の言葉に、波瀬はびくりと肩を震わせた。怖いよな、でも話しておかなきゃいけない。俺はずっと傍にいてやるってわけにはいかないから。

『この世界では、異世界っていうのは認識されてない。だから波瀬のことも遠くの少数民族とかだと思ってると思う。客人扱いだし、手ひどいことはされないはずだ』

『ん……異世界召喚とかをやろうとしたわけじゃないってことか。でも、いつまでもこのままじゃいられないでしょ?』

 泣き腫らした目は赤いけど、波瀬は思いのほか冷静みたいだ。まぁチャラチャラした見た目でもないし、真面目そうな子だとは思ったけど。

 ……メガネ似合いそうだな。髪短めだけど文学少女っぽいっつーか。いや、今はそんな事考えてる場合じゃない。

『まぁ、最低限の言葉が分かる程度になれば、保護もなくなるかな。でも俺、明日には首都を出てかなきゃいけないんだ。今は式典でこっちに来てるだけだから』

『え!? ……そっか』

『オスタリア学園ってとこに今いて……あ、名前教えとくよ。リドヴェルトって言うんだ』

 こっちの固有名詞を日本語に直すと、妙な違和感を感じる。カタカナ英語みたいな、発音が平坦でわざとらしい。固有名詞だけでも第一公用語で聞いてもらうか。

『えっと……「オスタリア」学園、「リドヴェルト」って……聞き取れる?』

『あー……お、おすてゃうぃあー? るぃどうぇるてぃお?』

 うん、すげぇ難しいな、これ。リドヴェルトとして育ったから違和感なく話せるけど、一からこれ覚えるのは大変そうだ。

『……えっと、ちょっとずつがんばれよ……。言葉上手く話せなくても、そのときは俺が何とかする』

『え?』

『下位とはいえ、俺は貴族の三男坊だ。女の子一人養うくらいは何とかなるよ』

 へらっと笑って見せると、波瀬がうろたえて視線を逸らした。え、俺なんか変なこと言ったか? 波瀬は俯いて、ぼそりと困惑を込めて言う。

『養うって……その、どういう』

『え……あ、いや、変な意味ではなくて!』

 やばい、アーノルドの言い回しに慣れきってて感覚が麻痺してた。同年代の女の子相手にそりゃない。日本人の曖昧さと謙虚さを思い出せ俺。うわぁ、意識したら顔が赤く……くそぅ、なんか恥ずかしい。元々は女子と話すだけで緊張するタイプの人間だっつーの。

『……と、とにかく、心配すんなよ。いや、不安になっちまうのはどうしようもないけど、俺が何とかするから』

『なんで……助けてくれるの?』

 不安そうな波瀬の言葉に、どう答えるべきか迷う。ここで「一目ぼれしたから」とか言えたら、波瀬は楽になるだろうけど。でも、それは嘘になる。

『この、召喚……波瀬が召喚されたのは、俺のせいだから』

 波瀬の顔を見ることができない。怒るか、泣くか。俺のことを信じられなくなるかもしれない。それでもここでごまかしたら、俺は今後波瀬とどう向き合えばいいかわかんねぇよ。

『そう、木戸くんのせいなんだ』

 淡々とした言葉に、ぐっと胸が重くなる。見放されたかな、でも俺は責任を取らなきゃ。俺は悪くないかもしれないけど、俺が原因なのは確かだから。

 と、顎を掴まれた。ぶにっと頬に指が食い込み、変な顔になる。そのまま引っ張られて、波瀬の顔を直視する。

『それじゃ、きちんと責任はとってよね』

 泣き腫らした目でまっすぐに見据えて、ぎこちなく唇を吊り上げて。

 震えながら笑っている波瀬は――すごく、かっこよかった。

『……は、波瀬、その、近い』

『え、あ、ごめん』

 っていうか言い方! いや確かに責任取るとは考えてたけど、年頃の女の子の台詞かよ。うわぁ、やばい。俺、顔真っ赤になってるかも。放された頬に手を当てると、少し熱かった。

『えっと、とりあえずはこのまま待機なのかな。言葉、覚えられる気しないけど』

『あー、たぶん先生とかつくと思う……首都だし、いい教育受けられるんじゃないかな』

『そっか。……はー、ちょっと落ち着けたかも。やっぱり誰とも言葉が通じないってつらいね、少なくとも1人は通じる人がいるって思ったら気が楽になった。養ってくれるみたいだし』

 照れくさそうに、ちょっと笑う。波瀬を直視できなくて、俺は目を逸らした。俺だって久しぶりに日本語を話せて、けっこう舞い上がってるんだ。波瀬が嬉しいのも分かる。

『いざとなったら、な。全く覚えないってわけにはいかないだろ』

『厳しいなー、もう。英語も苦手だったのに』

『生活かかってるんだからがんばれよ』

 あぁ、でも、舞い上がってるのはそれだけじゃない。だって、久しぶりに会えた日本人で、日本語で会話できて。とても笑顔がかっこよくて、きれいで。



 俺って、惚れっぽいのかな。

 すげぇ単純だけど、世界を救おうと強く思えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ