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お前を勇者にしてみせる!  作者: 糸冬すいか
3章:ヒロイン&サモンコール
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02:竜の魔法と木戸光輝

「――《癒しの手》」

 唱え終わると、手を当てたところがふわりと光が舞って傷口が浅くなった。治癒の魔法って万能じゃないからなぁ、ちょっとした怪我しか治せない。ぽんぽんと鱗を叩いて声をかける。

「ラルォさんどうです? ちょっとは楽になりました?」

“あぁ、助かる”

 四日目は自由参加の茶会と夜会しかない。そこでティルが「ラルォさんのお見舞いに行く!」と俺を巻き込んだんだ。

 昼真っから竜に会いに行って大丈夫かと心配になったけど、一昨日の夜のように全然人がいなかった。まぁ竜の周りにいたい人なんていないよなぁ。逃げ出すのを止めようと思うなら軍が必要だろうし、刺激を与えないようにしてるのかもしれない。好都合だけど。

 昨日のことについて聞き込みでもしようと思ってたんだけどな。でもティルを放っておくわけには行かないし、竜と2人(?)きりにして俺の知らないところで逃げ出されたらかなわない。

 それに、

“竜にはこのような魔法はないからな。ありがとう”

「治すの、僕も出来ればよかったなぁ……」

「……竜の魔法ってのも、意外と不便なんだな……」

 こんなことを言われては、見殺しにするみたいで良心が疼く。息はあったし竜だし、てっきりラルォさんは自分に治癒の魔法でもかけて回復していると思ってたんだが。竜には治癒の魔法なんてものないらしい。

「なんでないんです? 人間に使えて竜に使えないって事はないと思うんですけど……」

“必要のない魔法など生み出されないからな……竜はそのままで十分に回復力がある”

 納得のいく理由だった。

 竜の魔法は必要にかられて創られたものばかりらしい。身体を温める、冷やす。飛ぶ、泳ぐ、駆ける。とてもシンプルだが、シンプルゆえに抜けている。

 頑丈だから治癒の魔法がないってどうなんだ……。まぁ確かに、結構深く切られてたけど血は止まってるし、もう鱗の再生が始まってるところもあったくらいだし。

「っていうかティル、お前はこれを機にもうちょっと魔法を覚えろよ」

「えー。僕、竜の魔法使えるもん、人間の魔法いらないよ」

 そう、ティルは竜の魔法を使える。今まで魔法の授業を真面目に受けなかったのはそのためらしい。なんでも竜の魔法の方が強いし消費魔力も少ないんだとか。魔法は慣れだからな……竜の魔法に慣れたティルにはやりづらいのかもしれないけど。

「今まさに困ってるだろうが。お前は再生能力まで竜並みってわけじゃないんだから、竜の魔法で出来ない分は覚えとけ」

「う……」

 竜の特性上、治癒と守りに関する竜の魔法はない。頑丈さは人間レベルなんだから、せめてその辺りだけでも覚えて欲しい。

 それに、どうもこいつ人間を見下してる気がするんだよな。貴族が平民を見下すみたいに、竜として人間を見下していると言うか。魔法は有用性があるし、そこから人間に対する考え方も変わっていってほしいんだが。

 それは竜の誇りなのかもしれないが、俺からすれば子供の意地に見える。こいつは、自分を竜だと思い込みたいんじゃないかな。ティルからすれば竜は家族で人間は別物、自分を人間だと認めれば家族から外されるような、そんな不安があるんじゃないだろうか。

「とりあえず《癒しの手》はちょっと難しいし……防御系の魔法からだな。学園戻ったらみっちりいくから覚悟しておけよ」

「えぇー」

「返事ははい、だ」

 むすっと不満げな顔になるティルを一発小突いて、笑いながら。俺は静かに今夜の計画について思いをめぐらせていた。



   +++++



 ぐるっと一通り自分の姿を見回して、俺は満足げに頷いた。薄汚れ、擦り切れた服。うん、いい感じだ。どっからどう見ても、臨時雇いの下働きに見えるだろ。

 式典の際には大量に臨時を雇い入れるから、この恰好なら場内をうろついていても不審に思われないはずだ。わざわざ呪術使ってまで尾行したかいがあった。まぁこの恰好に着替えたのはもう一つ理由があるんだけど。

「えっと……これでいいか。う、この際臭いは我慢だな……」

 一緒においてあった薄汚れた布で、バンダナを巻く要領で髪を隠す。完璧には隠せないけど、そうじろじろ見られない限りは黒髪もばれないだろう。

 うん、今はキドの姿だ。さすがに今からいくところを考えると、リドヴェルトのままってわけにはいかない。証拠を残したくないってのもあるけど……今から行くのは、あの召喚された子のところだから。

 神様と話した結果、責任は俺たちにあるんだから放っておくわけにはいかないってことになった。まぁ今後の立ち位置がどうなるか分からないけど、うまくいけば協力者になってくれるかもしれないし。

 そう決めたはいいけど、こんな予定なかったからキド用の服とか用意してなくて、慌てて服を現地調達した。この恰好なら紛れ込めるしで一石二鳥。

「さーて、いよいよ目的地に向かいますか、っと」

 昼間の茶会には参加できなかったけど、夜会までの時間をフルに使ってあの召喚された子の居場所を聞き込みをしまくった。アーノルドの力も借りて、不審がられはしたけどもなんとか情報をもぎ取った。明日になればこの式典も閉式。学園に戻らなきゃいけなくなるから、チャンスは今夜しかない。

 今は二日目とは違う広間で夜会中だ。そっちに警備の大半が割かれていて、他の場所は少なくなってる。堂々と、とまでは言えないけどそれなりに自由に動ける時間だ。

 手に入れた情報を頼りに、バケツ片手に廊下を歩く。ふっ、誰かに見つかっても「掃除中です」って言えるようにな。作戦は完璧だ。

 しばらく誰かに見つからないかビクビクしながら歩き、ようやく目的の部屋にたどり着いた。見張りの兵士は、2人か。歩いて近づくと、じろっと睨まれた。

「あ、あの、ここの掃除を、あの、するようにと……」

 俯きがちにドモりながら言うと、兵士たちも困ったように顔を見合わせた。

「どこからの連絡だ?」

「えぇっと……自分、臨時なもので……たしか、誰か使用人の方に言われたのですが……すいません、俺ここできちんと働かないと、困るんです……!」

 俺の必死の演技に、兵士たちも胸を打たれたらしい。兵士たちの大半は平民出で、しかも夜会ではなくこんなところにまわされたってことは確実に下っ端だ。明日は我が身、ではなくとも、ひどく身近な話である。

「これで給金下げられたら、俺、ほんとに……!」

「わ、分かった。ただし体を検めさせてもらうぞ」

 よし勝った! 内心でガッツポーズ!

 簡単にボディーチェックをされて、さっさと許しを貰う。まぁ変なものは持ってない。この服も借りたやつだし。ノックをして、バケツと雑巾を持って部屋に入る。

「失礼します、お部屋の掃除に参りました」

『……ッ!!』

 ベッドの上にうずくまって、あの子はいた。昨日見た制服ではなく、ひらひらとした淡い色のドレス。ボディーチェックはしっかりされたみたいだ。でも、部屋は思ったよりも酷いものじゃない。俺やティルが使っているのと同等か、むしろ1人で使ってるからそれ以上かもしれない。つまり客人扱いだ。

 それにほっと息をついて、バケツを静かに床に置く。閉まったドアに手を当てて、兵士に聞こえないように詠唱する。

「空気の乱れよそばだてる耳を塞げ、深く静かに沈黙しろ、我が心のままに観測者共を騙しとおせ――《風の檻》」

 ひゅう、と冷たい空気が部屋の中を流れる。少しの間しか持たないけど、これで防音できる。まぁ掃除って名目であんまり長く居たら兵士に疑われるし、本物の下働きが来たらまずいし、10ミヌスが限度だろう。

 くるりと振り返り、バンダナ代わりの布を取る。女の子は、少し驚いたようだった。いたずらっぽくにやっと笑って、意識して口を動かす。

『俺の名前は木戸光輝。まずはあんたの名前を聞いてもいいか?』

『え……日本語、日本人……!?』

 第一公用語ではなく、日本語を吐き出して。久しぶりに聞いた日本語に少し泣き出しそうになりながら、俺はにやりと笑って見せた。

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