04:神様と転生特典
「……なあ、神様」
「うん、何かな?」
あの時と同じ、六畳の座敷で向かい合って、俺は神様に言った。10年ごしの再会に俺は、
「確認しなかった俺も悪いとは思うけど……まさか記憶失ってるとは思わねえよ……」
ちょっと泣きそうだった。
世界滅亡勇者に会うまでは前世知識を生かして、強くてニューゲーム! とかちょっと思ってたのに。
気付いたら10歳とか! しかも場所がここだから、また死んだのかと思ったじゃん! っていうか新生俺の方と自我がごちゃごちゃして、マジ恐怖を味わいました!
神様は落ち着いた様子でお茶を注ぎ、俺に差し出した。ちなみに用意されたお茶菓子は、生八橋。
「記憶を持ったまま転生しちゃうと、言語習得が難しくなっちゃうでしょ。それに……」
「それに?」
「十数年分の記憶を一気に乳児に流し込んだりしたら、脳が……ボン! って感じかな」
「転生に対する夢が壊れた……」
そんな風になるのか。いや、ツルツルの脳みそな乳児に記憶受けとめられるのかって、よく考えるとちょっと無理っぽいけど。そこはファンタジーな力でどうにかできなかったんだろうか。
「でもラッキーなこともあるよ?」
「え?」
「転生イベントである授乳とオムツをスルーできたわけだし」
「うわ、超よかった!」
精神的に救われた。転生チート! とか出来なかったのは惜しいけど、乳幼児期パスは確かにありがたい。動こうにもままならないとか、ストレスフルな環境だろうし。
「他の世界じゃどうか知らないけどね。ウチはそういうシステムでやってるの。言うの忘れててごめんね」
「いや、もういいよ……でも、こいつはどうなるんだ?」
今は存在が希薄になっている、本来のこの身体の持ち主の少年。今まで十年、親に愛されて生きてきたこいつは、どうなる?
消えて、しまうんだろうか。
神様は少しだけ、表情を固くして言った。
「……あくまで、魂のベースはキミだからね。その子は記憶をキミに譲り渡して、自我と呼べるものはほとんどなくなってしまうよ。まあ、肉体にも記憶は宿る。キミのこれからの人生にかすかに影響して、終わりだろう」
「そっか……」
存在しなかった少年。俺と言う記憶が戻れば、この子は消えてしまうのか。仕方がないことだとはいえ、少し罪悪感がある。
「ま、その分、俺もがんばって生きなきゃな」
「そうそう、キミの人生にはその子の人生と世界の命運と本体の命がかかってるんだから」
「重い……!」
持ち上げたところで落としにかかる。この神様は何がしたいんだろう、俺を追い詰めたいのか。
精神安定に、無言で生八橋を食べてお茶をすする。今回も大変おいしい。和んだし。
「……それじゃ、ついに俺は動き出さなきゃいけないわけか」
「うん。っていっても、勇者に会うのはまだ先だけどね」
「え、そうなの?」
てっきり、そろそろ会うから俺の記憶が目覚めたのかと。
ああでも、記憶が戻ってすぐに会うんじゃいろいろ大変なのか? 身体の記憶があるといえど、異世界の男の子に憑依するみたいな気分だし。
「それもあるんだけど、キミの特典についてね」
「特典?」
というとアレか。神様が「転生する際に好きな力を与えよう」とかいうような。いわゆるチート的なものをもらえるのか? え、マジで? ここにきてテンプレ発動?
「……でももう、10歳なんだけど」
「今、キミの記憶を定着させているけど、その反動で肉体は高熱を出して寝込んでいる。その生死の境で内なる力に目覚めた……ということにしておきなよ」
「そんなご都合主義な……」
「大丈夫、どんな展開だって納得させてしまえるだけの言い訳をしておけば許されるんだ。大事なのは現実じゃなくて現実的だよ」
「何の話をしているんだ……」
ちょっとギリギリで、メタっぽい話だった。
まあ、俺の記憶がないときに妙な力を持って生まれてしまっていたら、それをどう使うか分からないもんな。下手に使って暴走させたりとかしたら大変だし。
説明書なしのチートは、やばいよなあ。
「何でもいいのか?」
「肉体を大きく変化させるようなものでなければ、大丈夫だと思うよ。あと、あんまりこの世界の仕組みから離れた法則とかは難しいかな」
とりあえず提案してみて、大丈夫そうだったら叶えてくれるって感じか?
うわ、どうしよ。降って沸いたテンプレ展開に、ドッキドキだ。今までいろいろ裏切られていた分、嬉しすぎる。
「じゃあ、無尽蔵の魔力とか、最強の肉体とか、武術の才能とか」
「え、勇者と被るからやめたほうがいいと思うよ」
「チクショウ!」
「っていうか自由に選べるわけじゃないんだ。ごめんね」
「なんてこったー!」
さらば俺の夢。
っていうか勇者、今の全部持ってるのか。マジでチート性能だな。これにハーレムがついたら最強じゃねえか。
神様はお茶をすすって一息いれ、トランプの束を手に取った。もう、さっきまで無かった物が現れる程度じゃ驚かないぞ。だいぶ俺もなれてきたな。
しゃこしゃこ、と軽くカードをきり、混ぜる。数字の面を下にして扇状に広げ、神様はにっこりと笑った。
「さあ、選んで」
「え、これで能力が決まるの!?」
地味だった。もうちょっとこう、せっかくだからファンタジーな光に包まれて選ばれるとか。神様が「お前にこの力を授けよう」を祝福を与えるとか。……この神様だし、それはないか。
「若干、失礼だね……あのね、ボクは『可能性』と『選択』を司る神なんだ。だからこうした、運任せの方法がちゃんとした祝福になるの。別に手抜きってわけじゃないよ」
「あ、そうなんだ」
そういえば、『時間遡行』で巻き戻しながら世界をより良い選択に導くって言ってたか。俺がここで選択することで、祝福――特典能力が手に入る、と。
どれにしようか、とトランプの束に指を滑らせ。考えてもどうしようもないよなぁ、運だし。ここはやっぱり、アレだよな。
「神様の、言う、と、お、り……に、は、な、ら、な、い」
「アレンジをいれてきたか」
まあ、言うとおりになるだけじゃおもしろくないしな。もちろん、神様の頼みはちゃんとやるけど、能力くらいはオリジナリティをいれてみたい。
指が止まったカードを引き抜く、と他のカードは全て消えてしまった。やり直しは聞かないって事か。手の中に残ったカードを裏返し、神様と一緒に覗き込む。
「……なにこれ?」
「また変り種を引いたねえ」
変り種って。そんなの混ぜてたんですか神様。
裏返した第一印象はタロットカード。灰色のローブを着てフードを深く被った男が、両手に鎖を持って立っている絵だ。ローブってことは、魔法に関係するようなのとかか?
神様がカードを手に取り、俺に見えるようにして説明する。
「想像通り、ある魔法に関する才能だね。しかも使える人が滅多にいないレア魔法の才能だ」
「マジで!?」
心くすぐる感じの発言キタ!
選ばれし者にしか使えない魔法、とか! 凄い強くて、一瞬で敵を倒せちゃうようなのか!? 雷デインとか、勇者魔法的な感じなのとか!? あ、俺、勇者じゃないわ。でもテンション上がる!
「で、で。神様、それどんなの?」
はしゃぐ俺に、神様はにっこりと笑って言った。
「呪術と、解呪術」
「……はい?」
かこー……ん、とししおどしの音が、真っ白な空間に響いた。




