表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前を勇者にしてみせる!  作者: 糸冬すいか
2章:ハーレム&チートスペック
36/43

13:夜会と兄弟

 挨拶だけなのに精神をすり減らした一日目が終わり、二日目は怒涛の衣装合わせで時間があっという間に過ぎ去った。男はまだしも、女の子は半日がかりで衣装合わせや化粧をするらしいから、さっさと終わって何よりだ。

 元の世界で夜会とかパーティーとか言うと社交界デビュー的な感じでいろいろしきたりがある気がしたけど、こっちは意外とゆるい。何歳だろうと招待状があれば参加していいし、踊ってもいい。たまにだけど親子連れとかもいるし。

 まぁ、成人した大人が未成年をダンスに誘った場合はちょっと冷たい目で見られるけど。親子や師弟とかでもないかぎり、特殊性癖を疑われるのが常だ。学生は全員未成年だから、今回はショタ趣味の人に誘われない限りは踊ることはないだろう。

 後気をつけるのはエスコートくらいか? 基本的に入場は男女のペアだけど、出るときは特に決まりはない。たまに広間と待合室を往復してエスコートを専門に勤める人とか居るくらいだし。今回はミレーヌに往復してもらい、初等部組は無事に全員入場した。

 最後にジュスターと一緒に入場したときは、それはもうお互い照れてて面白かった。ティルと一緒に眺めながらひゅーひゅーと野次を飛ばし、照れる二人を見送る。さすがにこれ以上つっこむほど野暮じゃない。

「さて……どうするかな」

 アーノルドはいろんな貴族への挨拶に言ったから邪魔できない。ジュスターたちは、まぁ見守ろう。となるとティルと2人で空しく食事でもするしかない。

 本来の目的を考えるなら、ここでティルに貴族の後ろ盾でもってなるんだろうけど。こいつを今貴族に引き合わせたところで、天然を発揮して失礼なことするかハーレムを広げるくらいか。大人しくしておいて、ちらほら人が帰る頃になったら部屋に引き上げよう。

「ティル、何か食べに行くか。服汚さないようにな」

「はぁい」

 のんびりと返事をするティルもきっちりとしたフォーマル。まぁ……正直、何度見ても似合わない。固めたのに、髪がいつの間にかふわふわしだしてるから余計に。うん、皿に料理を取りわけて、隅の休憩場所とかで食うか。

「毒物に各自注意、だよね」

「あぁ、あんまり手をつけられてない辺りにでも行くか」

 きょろきょろと見回して、比較的人の少ないテーブルへ向かう。飲み物は……給仕にソフトドリンクを持ってきてもらうか。ティルが酔っ払ったら何をするか分からないから、絶対に避けないとな。

「じゃあ、あっちに……」

「リドヴェルト、か?」

 不意に呼びかけられた声に、ぞわっと背筋が震えた。顔が引きつらないようにぐっと力を入れ、おそるおそる振り返る。見覚えのある、金色。

「やはりそうか。こんなところで何を……いや、どうやって侵入した。まさかお前、親の顔に泥を塗るつもりか」

 透き通った金髪に、青みの強い紫の目。背が高く整った顔立ちで、リドヴェルトが成長したらこんな感じかもしれない。まぁ、俺は到底浮かべないような厳しい顔つきだけれど。

「オスタリア学園の代表生徒の、付き添いです。正規の招待状はあります」

 胸ポケットに入れておいたものを慌てて出して示す。きちんと説明しないと不法侵入で衛兵に突き出される、むしろ暗がりに連れてかれて拷問される。

 俺はすこしためらい、しかし礼儀だと思い頭を下げた。

「……お久しぶりです、ルドルフ兄上」

「お前に兄と呼ばれたくはないな、不愉快だ」

 威圧するような声できっぱりと言い切ったこの男こそ、バーミトラ家長男、リドヴェルトの兄であり通称「捻くれた方の兄」である、ルドルフ・フォトリア・バーミトラだ。



   +++++



 話は飛ぶが、うちの両親は貴族では珍しく恋愛結婚をした夫婦だ。お互いにべた惚れで、それこそ子供の養育なんて放っておいてでもいちゃいちゃする、ちょっと駄目な感じの大人だ。すごく見習いたくない。

 その結果、長男であるルドルフは盛大に捻くれた。まあ軽い育児放棄だもんな、そりゃグレる。長男で家を継ぐから教育とかも厳しかっただろうし、つらい幼少期だったわけだ。

 なのに、10歳以上年の離れた弟の俺は溺愛されるのを目の当たりにした。年をとってから生まれた子供だから可愛がられただけ何だけど。その結果仲が悪いと言うか、思いっきり虐められた。

 当時の俺(リドヴェルト)はすっかりルドルフが怖くなってしまった。物心着く前から虐められてるんだ、恐怖が刷り込まれてる。その影響で、今の俺もルドルフが苦手だ。

 っていうかちゃんと会うの、今の俺になってから初めてじゃないか? 成人してるから家を出て1人暮らししてるし、たまに帰ってきても俺になんか見向きもしないし。そうこうしているうちに俺も学園に入学したし。

「代表者ではなくただの付き添いか。ふん、平民に媚びるとはお前らしい。バーミトラ家の恥さらしだ、人に見られる前にさっさと退場しろ」

「申し訳ありません、ルドルフ兄上」

 頭を下げる。この男に言い返そうと無駄だ、貴族至上主義で俺のことが大嫌いで、そりが合うわけがない。

 とりあえずはこの場を濁して逃げて、予定通り後で退出だ。早くパーティーから抜け出すって言うのは主催者に対して失礼だとされるからな。出て行っても出て行かなくてもうるさく言われるんだ、だったら適当に楽しんでから退場したい。

「そうやって媚びて取り入るのは上手いものだな、お前は誇りを知らぬ愚か者だ。せいぜい、今のうちに平民の恩情に縋っておけ。成人したら家を放り出して縁も切る」

「はい、ルドルフ兄上」

 後ろでティルが何か言いたそうにむずむずしてるけど、無視だ無視。学園長のときは許されたけど、ここじゃそうはいかないってのを散々に言い聞かせたからな。何か言おうとしたら相打ち覚悟で、折る。

 っていうか、そろそろどっか行ってくれないかな。ちょっと頭を上げてみると、ルドルフはいつもの厳しい顔で俺を見下ろしていた。まだ何か言い足りないのか、ティルの沸点の範囲内に収めてくれよ。

「お前……本当にリドヴェルトか」

「はい?」

 え、……え?

 嘘だろ、なんでだ。両親もメイドさんたちも騙してたのに。違和感は与えたかもしれないけど、こんな風に言われるほどに疑われたことなんてない。

 ルドルフは本気だ、俺のことを知らないものを見るみたいな目で見下ろしている。不思議そうに俺を見下ろし、一歩踏み出してきた。たじ、と一歩下がろうとするのを、肩をつかまれて阻まれる。

「あ、の、ルドルフ兄上?」

「いつから、お前は俺の顔を見るようになった? 俺を馬鹿にしているのか?」

 今の俺は、昔の俺(リドヴェルト)じゃない。両親をうまく両親と思えないし、日本語だって喋れるし、昔の俺(リドヴェルト)ほどにルドルフを恐れていない。元の俺(木戸光輝)の分とあわせれば、この男以上に生きた記憶があるくらいだ。

 普通に顔を見て話すことができるくらいには、俺はルドルフを恐れていない。それがルドルフにとっては面白くないし、奇異に映るんだろう。今までずっと、リドヴェルトは俯いてきたから。

「馬鹿になんて、していません」

「学園に入学して自惚れでもしたのか、自分の立場をわきまえろ。気分が悪い」

 吐き捨てるように言って、ルドルフは背を向けた。俺の様子に調子が狂ったのか、いつもよりさっさと引き上げるみたいだ。ほっと息を吐く反面、じわじわと嫌な感じが広がる。

 何度も思ったけど、やっぱり俺は完全なリドヴェルトじゃない。両親を裏切って、皆を騙している。使わない日本語を忘れないのは、俺が木戸光輝でいたいからなんだろうか。

「リド」

 不意に、ティルが俺を呼んだ。困ったような、心配するような顔で唇にきゅっと力を入れる。なんて言えばいい分からない、とでも迷っているんだろう。

「リド、大丈夫……?」

 しばらくの間を空けて、ようやくそれだけを言った。俺は少し迷い、けど笑みを浮かべる。

「平気だよ、あの人はいつもあぁだから。それより腹減っただろ、行こうぜ」

「うん」

 ティルはリド、と俺を呼ぶ。勇者がリドヴェルトを必要としている。それなら俺は、リドヴェルトをやめるわけには行かない。この世界にとどまる意味は、それしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ