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お前を勇者にしてみせる!  作者: 糸冬すいか
2章:ハーレム&チートスペック
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12:寝ずの番と首都

 ふわぁ、とあくびをかみ殺して、暗闇の中ちらちらと灯る火を眺める。あー、たき火って何でこう見てると眠くなるんだろ、赤外線的な何かか?

「おや、リド君眠いのかい。交代して休んだ方がいいかな?」

「や、さすがにこういうのまで甘えてられないです。交代までがんばります」

「まぁこういうのは慣れだからね。中等部では寝ずの番のために課外演習を組むことも多いくらいだ」

 アーノルドの言葉に顔をしかめ、弱くなってきた火に小枝を追加する。まさか、貴族が半数以上を占める旅で護衛をほとんど雇っていないとは思わなかった。高等部や中等部じゃギルドの護衛依頼をクリアする課題も出るくらいだし、自分の身は自分で守れってことか。

 まぁ一部の貴族からはいい顔はされなかったけど、「誇りあるオスタリア学園の代表生が護衛をたっぷりと雇うだなんて惨めは晒せない」ときっぱりしていた。やっぱ、アーノルドってそういうとこカッコイイよなぁ。俺もああいうかっこよさがほしい。

「俺もがんばらないとなぁ……」

 初等部組の中で一番弱いのは間違いなく俺で、足を引っ張るのも俺なんだ。ティルと今後も行動するつもりなら、隣に立つにふさわしい力ってのが必要だよな。呪術はこつこつ練習してるけど……戦闘には活かせないし、バラしたくないし。

 ぱちぱちと火の中で枝がはじける音に混じり、他の見張りが騒ぐ声も聞こえる。あれは……問題の高等部の貴族か。アーノルドがいやぁな顔になった。

「寝ずの番らしい態度をしてほしいな、大方酒を持ち込んだ馬鹿がいたか……」

「注意しなくていいんですか?」

「まさか、オスタリア学園の生徒が自分の体調管理も出来ないはずがないからね。明日の馬車旅も快適に過ごせるだろう」

「……」

 用意された馬車は見劣りしない貴族用、でも道がかなり悪いから結構揺れる。寝不足の上に二日酔いでそんなものに乗ったら……まぁ、エチケット袋が大活躍するな。アーノルド、怒ってるんだな……。

 出発してから「休憩を挟め」「安っぽい馬車だ」と不平不満の嵐だったらしい。休憩を挟んでも「足が痛い」「従者がいない」とぶつぶつ言ってたし。食事も自分たちで作ったからな、手伝わないくせに「早くしろ」とかうるさいし、できたら「まずい」「もっといいものを用意しろ」とか言ってろくに食べやしないし。

 ふふふ……そんな状態で酒なんて飲んだら、明日はさぞ酷いだろう。静かになってちょうどいいか。

「ふむ、黙っていると余計に眠くなるしな、何か話そう。先輩として相談にも乗ろうじゃないか」

「あ、じゃあ、これから先の授業の内容とか」

「……君は真面目だな。夜、男のみと言ったら猥談だろう」

「ホントに残念な発言ばっかりしますね」

 まぁ、退屈はしないけどさ。アーノルドって世話やきだよなぁ、俺ってそんなに頼りないか? ……頼りないか、うぅ、もうちょっと強くなろう。

 首都についたらティルに振り回されることになるんだ。道中くらいは頼ったりしてもいいだろう。



   +++++



 何度か寝ずの番をして、魔物と遭遇したりして、アーノルドは高等部の貴族を言いくるめたりして。そんな感じで2週間はあっという間だった。

 まぁ、初等部ってことで寝ずの番も楽な時間帯まわしてもらってたし、魔物は護衛の人や高等部の奨学生が全滅させてたし。正直、食事を作ってるときが一番働いていた気もする。平民上がりが多いから食事も慣れてて、いろいろ教えてもらったりした。

「有意義ではあった分、今より辛くない……」

「リド君、君は本当に貴族らしくないな」

 学園長に会ったときのように、頭のてっぺんから足の先までつやっつやに磨かれた。そしてフォーマルを着せられた。今着ているのは学園側が用意した服で、皆揃いの制服みたいなものだ。普段は貴族も多いし好きな恰好で通えるんだけどな、式関係はさすがに制服着用だ。

 式典の大半は、身分をあらわすためにもこの恰好で過ごすことになるらしい。まぁパーティーとかでは皆着飾ることになるから、別の服も用意はするが……正直、コスプレみたいであんまり好きじゃないんだよなぁ。

「はぁ……疲れた」

 タイを緩めてため息をつく。俺の態度は余り褒められたものではないが、アーノルドも分かってくれたのかお咎めなしだ。

 首都についてホテルに入って休む間もなく、服屋に連れてかれてメイド軍団に襲われた。身体のいたるところを採寸され、何着も何着も試着させられ。終わって待合室に戻ったら、ティルとジュスターがピクリとも動かずにソファーに倒れ伏していた。気持ちは分かる。

「ティル、ジュスター、生きてるかー?」

「オレはなんとか。……ティルは?」

「怖かった……怖かったよう……」

 声が震えてる……。人間恐怖症は治ってきたけど、さすがにアレは恐怖を覚えるよなぁ。うーん、悪化しなきゃいいんだけど。

 ソファーにぐったりと体重を預けた俺たちに、アーノルドは余裕で苦笑を浮かべている。さすが第一貴族、こんなものは慣れてるわけか。

「予想通り、リド君が一番大変なようだな」

「え、なんで」

 ジュスターとかの方が時間かかりそうなんだけどな。綺麗な顔してるし、こっちじゃ珍しい黒髪だし。ティルはまぁ、見た目は普通だから着飾っても映えない気がして、これまた時間がかかりそうだけど。

「ジュスター君は黒と赤が映えるような衣装、ティル君は緑の目を引き立てるような衣装だろう。いわばお約束だ。だがリド君は金色の髪に紫の目、組み合わせの幅が広い。容姿も整っているし、着飾れば一番目立つだろうね」

「……従者が目立っていいんですか……」

「パーティーでいい牽制になるだろう。ティル君は……どう控えめに言っても地味だからね」

 あ、言っちゃった。まぁ茶髪なんてありふれてるし、顔立ちもすごいイケメンってわけでもない。目の色は綺麗だと思うけど、それしかないって気もする。普段の恰好とのギャップが凄いから、ハーレムたちが見たらキャーキャー言うだろうけど。

「はいはい……それで、式典の日程について確認するんじゃ?」

「あぁ。まず、初日は挨拶だけだな。喋るのは代表である僕がやるから、静かに並んでいてくれ。ティル君の左右にリド君とジュスター君を配置するので、いざと言うときは何本か折ってでも止めてくれ」

「分かった」

 折るって骨か、骨なのか。さらっと怖いこと言うなよ。ジュスターも何のためらいもなく同意しちゃうのかよ。まぁ俺も賛成だけど。

「挨拶の後は何箇所かで茶会をやるそうだが、参加は自由だ。二日目の夜会には全員出席、そこで適当に貴族をあしらってくれ。あぁ、そうだ。食事には毒が混入されていることもあるから各自気をつけたまえ」

 貴族怖いな! 異物混入どころか毒物混入かよ。しかも各自警戒って……うんまぁ、取り締まれないんだろうなぁ、多すぎて。ティルはめちゃくちゃ食べるだろうし、気をつけたほうがいいな。

「三日目、いよいよ魔法の演習を行う。昼間は屋外で新しく開発された魔法など、夜は室内で召喚だそうだ。四日目はまた夜会、こちらは自由参加だな。五日目に閉式だ。服や小物は多めに用意するので、着まわさないように」

「面倒だな……」

「まぁ首都でやるって割には規模小さいほうだろ。魔法のお披露目だけだし」

 ジュスターとティルは嫌そうな顔してるけど、正直こんなの小規模だ。首都で、城の一部を使ってやる割には参加数も日程も地味な方だと思う。茶会とか夜会も多くないし、ほとんど自由参加だし。

「……あ、アーノルド先輩、夜会ってダンスいります?」

「踊れた方がいいのは確実だな、誘われて断るのは失礼だ。リド君、ダンスは?」

「習いましたけど、あまり上手くはないですね」

 大概、背が足りないからな。悲しいことに。うーん、シークレットブーツ用意するか……メイドさんに頼むのもなぁ。当日はティルにかかりきりになることを考えると、踊ってる余裕なんてないかも。

 ティルは……誘われないように細心の注意を払うしかないな。基本ワンマンなこいつにダンスは無理だ。

 と、硬直しているジュスターとティルに気付いた。あぁ、まだ授業でやってないし、踊れないか。俺は実家にいたときに、そういうの一通りは習ってるからなー。貴族に生まれてよかった。

「ジュスター、がんばってミレーヌをエスコートしろよ」

「な……!?」

「うむ、ここは先輩が一肌脱ごう。何、ジュスター君は俊敏だしすぐに覚えられるだろう」

「う……っ、では、その……ご教授願う」

 おお、照れた。にやにやしながらアーノルドに手を取られるのを見る。当日はミレーヌも着飾るだろうし、いやぁ見物だ。赤くなって慌てふためくジュスターとか貴重だからな。

 まぁ、バカップルが憎らしくはあるが、友人の恋路だ、そこはかとなく生暖かくにやにやと見守ってやろう。

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