10:責任と嫌な予感
今から約2ヵ月後、首都で式典があるらしい。そこにオスタリア学園は代表生徒何名かが出席することになったのだそうだ。学園長の孫であるアーノルドが代表取りまとめとして、その他何名か将来有望な奨学生も。
式典は新しく開発された魔法のお披露目だったり夜会だったりといろいろなイベントが行われる。もちろん各地の実力者や貴族も出席し、数々のイベントの中で縁を作るわけだ。夜会や茶会みたいなものだな、貴族の習性というか仕事柄というか。
そしてその貴族たちの中に放り込んで、奨学生――後ろ盾の弱い平民に縁を作らせる。上手くいったら後見人ゲットだぜ。オスタリア学園としても繋がりができるし、悪い話じゃない。
「……あの、それでどうして自分まで呼ばれたのでしょうか」
「平民だけ送り込んだら騒ぎが起こるだろう、間違いなく。そこの彼がいい例だ」
「納得しました」
つまり、俺はやっぱりお目付け役らしい。
オスタリア学園ではマナーの授業とかあるから一通りは覚えさせられるけど、生まれつきの違いって言うのはどうにもならない。それで問題を起こしたら学園としてもいい迷惑だ。
だから奨学生1人につき従者1人を連れるように決めたらしい。ちなみに何かあったら連帯責任だ。
「平民の従者という立場だ、驕った貴族の子息子女には任せられない。幸い、アーノルドが知り合いだと言っていたから初等部の代表は彼に選抜させた」
「それで自分ですか」
「第三貴族で、問題の奨学生とも個人的な親交がある。信頼関係も十分だ。頼んだよ、リドヴェルト君」
うわぁ、責任が重い……。
これ、ティルが首都で問題起こしたら全部俺にも責任がかかるんだよな。まぁ1人で行かせるよりかはずっと精神衛生上はいいけど、それにしたって酷い。こいつ何やらかすかわかんねぇよ。
でも、これは間違いなく神様の用意したイベントだろう。避けられないし、避けるわけにはいかない。多分これには意味がある、はずだ。
黙りこんでしまった俺に、学園長は朗らかに笑いかけた。
「何、総責任者はアーノルドだ、君はそこまで気にしなくとも良い。首都に行くなんてなかなかない機会だろう、観光だと思って楽しめばいいよ」
「お心遣い、感謝します」
うんまぁ、行ってみなきゃわかんないよな。意外とティルの興味を引くものがなくてぼーっとしてるかもしれないし。こいつ興味が引かれるものがないと何もしないからな。
現に今、退屈なのかお茶請けの菓子をじっと見つめてるし。食べてもいいががっついてくれるなよ。
首都なんて俺も行ったことないし、珍しいものとかいろいろ見れるかもしれない。バーミトラ家としても、こういった式典に出席できるってのは悪い話じゃないはずだ。
「では、その、よろしくお願いいたします」
「あぁ、詳しい話はまたアーノルドからあるだろう。他の代表者との顔合わせもあるはずだ」
退室を軽く促されてようやく肩の力が抜ける。まぁ大問題はこれからなんだけど、今は学園長の前から離れられるのがありがたい。年の功っていうか、威圧感すげぇ。
とりあえず、アーノルドをしめるかな。
+++++
「いや、言い訳させてくれ。思いの他、お爺様の行動が早かったというか、興味を持ってしまわれたというか。故意に仕掛けたわけではないのだよ?」
「それでもこっちは十分にびっくりドッキリで寿命が縮まりました! あんたのせいだ!」
「リド君、君はたまに貴族とは思えない言動に走るな」
出会い頭に一発拳を打ち込んでみたが難なく避けられた。ちっ、さすがに本気で殴ろうとしたら避けるか。普段冗談でどつき合うときは受けてくれるんだけどな、今回はガチだっただけに避けられた。
一緒についてきたのはティル、とジュスターとミレーヌ。最初は不思議に思ったけど、何のことはない。こいつらも俺たちと同じだった。
なんとミレーヌ、奨学生だった。魔法部門の試験でトップクラスだったらしい。それで従者としてジュスターがついていくことになり……まぁ俺たちと同じく学園長にいっぱい食わされたらしい。ジュスターは貴族の位を持っていないけど、まぁボディーガードみたいな感じでついていくそうだ。
「それで、きちんと説明はしてくれるんでしょうね?」
「あぁ、だから君たちを呼んだんだ。まぁこの面子ならば道中も問題ないだろう」
「道中?」
式典の最中ならともかく、行くまでに何かあるのか? っていうかどれくらいかかるんだろう。首都は帝国のやや南よりだった気はするけど。
アーノルドはため息を一つ吐いて、「ここだけの話にしてくれよ」と念を押した。
「初等部は君たち4名だけだが……高等部に面倒な貴族が何人か混じっていてね。年下の引率者としては気まずい思いなんだ」
「……俺たちは問題を起こさないようにがんばろうか」
「あぁ、少しかわいそうになってしまった」
「君たちが優しくて、僕は本当に嬉しいよ。女の子だったらもっと嬉しかった」
ふざけたこと言ってるがアーノルドは15歳、これだけ頼りになると忘れそうになるけどまだ中等部なんだ。学園長の孫ってことで総責任者になった重荷はかなりのものだろう。まして、年上が混じってるってなるとちょっと、いやかなり面倒だろうな。
「そういえば、首都までどれくらいかかるんですか?」
「一応、2週間ほどで着く予定だよ。馬車での移動だからもう少しかかるかもしれないが、まぁすぐに出発する予定だから問題ないだろう」
「え、すぐ出発するんですか?」
俺の言葉に全員の目がこっちに向いた。え、何、俺変なこと言ったか? だってまだ2ヶ月もあるんだろ? 俺の疑問たっぷりの顔に一つため息をついて、ミレーヌ以外が口を開いた。
「ここから首都に向かうには何度か野営も挟まなければならなかったはずだ。魔物が出れば日程は遅れるだろうな」
「馬車に乗せられるだけの荷物を用意しておかなきゃいけないよね、あまり持っていけなさそうだけど」
「更に言えば、向こうについてから採寸してパーティー用の服を仕立てることになる。まぁ既存のものを手直しするだけになるが、中にはオーダーメイドの者もいるだろう。早く着くにこしたことはない」
おぉぅ……、ここまで責められるとは思っていなかった。
そういえば俺、オスタリア学園に来るまでほとんど出歩いたことなかったな。学園都市に向かうときは護衛たっぷりの馬車で時間をかけてきたし。荷物は先に送ってあったし、遠回りしてきたから野営もしなかった。
「俺、かなり箱入りだったのか……」
「いや、君のような人が普通なのだと思うがね……まぁ、これもまたいい経験だと思いたまえ」
「そう、ですね」
いずれ勇者と旅することになったら野営は避けて通れない道だろう。中等部には野営の実習授業とかもあるらしいし、その予習と思えばいい。今回は大人数の旅だからいろいろ学べるだろう。
「それじゃ今からは急いで旅支度って感じですか?」
「あぁ、馬車の手配はしているし、出発予定日までしっかりと準備してくれ。まぁジュスター君に聞けば大丈夫だろう」
「一応、商隊の護衛依頼をしたことがあるし、ある程度は分かると思う。馬車の大きさはどれくらいだ?」
「二頭引きが3台と四頭引きが2台。荷物はまとめて四頭引きに入れるだろうな。あとは……」
アーノルドにまじめな様子でジュスターが質問する。さすがギルドで三級を持ってるだけはある。荷物や野営の心得に関してはジュスターを頼ればいいだろう。
ティル? ヘビやカエルを食えるやつの旅を参考に出来るか。アーノルドもそこは分かってるらしく、ジュスターに教える様子は真剣だ。この初等部の旅はジュスターにかかっているといっても過言ではない。
「まぁ今回の式典はなかなかに興味深いからな、観光気分で楽しみにしているといい。やはり目玉は召喚だろうな」
「……ちょ、アーノルド先輩、今なんて言いました」
今、ものすごい嫌な予感のする言葉を聞いた気がする。
勘違いであってくれ、という俺の期待をこめた目にアーノルドは首をかしげ、言葉を続けた。
「魔物の活発化もあるし、新しく作った“召喚”の魔法を使うそうだ。何でも、とても強い力を持った人を選抜して召喚する魔法だとか。僕としてはその魔法に興味があるのだよ。……まぁ、だからこそ奨学生を連れて行くなんて話になったのだがね」
「それって……」
マジでどういうことですか、神様。




