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お前を勇者にしてみせる!  作者: 糸冬すいか
2章:ハーレム&チートスペック
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08:天然ジゴロとドン引き

 ティルと俺の攻防はしばらく続いたが、俺の体力が持たずに結局押し切られた。まぁ女の子たちも一緒だし、ティルも俺にばかりは構っていられないだろ。

「で、どうする? 俺たちは適当に屋台をひやかそうと思ってたんだが」

「僕もそうしたい」

 ティルの一言で決定だ。ハーレムは基本的にティルについてくるし、アーノルドは女の子についてくるし。……すげぇ、さっきからオリヴィエとリリーアンジェの胸元を交互に見てはガッツポーズしてる。楽しそうで何よりだ。

「あ、じゃあ向こうでちらっと見かけた屋台に行きたいんだけど……」

「お嬢様から離れへぶっ!」

 ティルの言葉を遮って、どささっと音を立てて女の子がスライディングしてきた。おぉ、石畳の道路でこれは痛い……。案の定、ぴくぴくと震えてしばらく動かなかった。

 全員でぽかんとして見守る中、ゆっくりと身体を起こした彼女はおでこを押さえていた。打ったのか……ちょっと金色の目が潤んでいるし、ショートの茶髪もぼさぼさになっている。ん、なんか見覚えがあるような気が。

「ふ、ぐぅ……策を労するとは卑怯者め! 男なら正々堂々と勝負をしろ、ティート・ディラーグ!」

「え、僕のせい? ごめんね?」

 いやいや思いっきり自分でコケてたから。免罪は謝らなくていいんだぞ、ティル。リリーアンジェがため息をつき、ティルを指差す女の子の襟首を掴む。あ、なんか猫みたい。

「お嬢様……僕がこの男を叩ききってやります! どうかそこで見ていてください!」

「いい加減にしなさいレベッカ。医務室のお世話になるだけよ、最悪死ぬわよ」

 実情がこもった一言だった。

 レベッカ……思い出した。同じクラス、ハーゲン商会の僕っ子だ。でもお嬢様ってどういうことだ? たしかにリリーアンジェは貴族のお嬢様だろうけど。アーノルドも同じように思ったのか、首をかしげて促す。

「失礼、リリーアンジェ嬢。そちらの方とは一体どういった関係で?」

「単なる幼馴染よ。最も、この子は昔から騎士に憧れてごっこ遊びばかりしているんだけど」

「遊びじゃありません! 僕はリリーアンジェお嬢様に近づく男からお嬢様を守る騎士です!」

 襟首を掴まれてふしゃー! と威嚇する猫みたいだった。でもあんまり怖くないから子猫くらいだな。なるほど、それでティルに突っかかってきたのか。最近はずっと一緒にいるもんな。

「つまり、自称ボディーガードか」

「ボディーガードじゃなくて騎士!」

 俺の言葉にレベッカが吠える。大して変わらないと思うんだけどなぁ、どっちも守衛専門の戦闘職だろ。何かこだわりがあるのか?

 でも素直にリリーアンジェに襟首をつかまれたままってのが……間抜けだ。登場からしてアレだったし……僕っこな上にドジっこなのか。ティルは凄いやつばっかり集めるな。

 ティルは困ったようにしてレベッカを見ている。よく分からないなりに、嫌われてるのか分かったらしい。ちょっとしゅんとして子犬みたいだ。子猫と子犬……うーん、波長はあいそうなんだけどなぁ。リリーアンジェのことがなければいい友達になりそうなのに。

「く、うぅ……ぼ、僕はこれくらいの怪我で泣いたりしないんだからな! 勝負しろー!」

 涙目で言われても反応に困るわ。虐めてる気分になるじゃないか。ティルは首をかしげ、それから何か思いついたのかレベッカに歩み寄った。そして、

「な、なんだ……、ッ!?」

「ん……痛いの、治った?」

 ぺろ、とレベッカの額を舐めた。

 ……あー、うん、小さな怪我なんて唾つけとけば治るとか言うもんなー。馬鹿正直に信じたんだろうなー。レベッカ痛そうにしてたから、治ったら仲良くしてくれるとか思ったんだろうなー。

 どうしよう、みるみる真っ赤に染まったレベッカがかわいそうでならない。免疫なさそうだもんな、しかたねぇ。……まさかリリーアンジェにも同じことしたんじゃないだろうな。どんだけ罪作りなんだこいつ、本当に天然か?

 誰もが黙り込んで硬直する中で、ティルは不思議そうに首をかしげた。レベッカの頬に手を添えてにっこりと笑顔。

「ごめんね。まだ足りなかった?」

「……ッ!!」

 言動だけ見ればどこのジゴロだ。いや、多分「まだ痛い?」くらいの気持ちで言ったんだろうが、それじゃたっぷりキスするぜみたいな予告になってるわ。

 ばっとレベッカが真っ赤な顔のままティルを振りほどき、転びそうになりながら後ずさる。背を向けて、ちらっとティルを振り返って涙目で叫んだ。

「おお、お、覚えてりょーっ!」

 去り際までドジだった。捨て台詞噛むなよ。



   +++++



 じゅう、とやたら香ばしくていい匂い。お上品な貴族の味とは違う市井の味つけだ。並べられた串焼きから目を逸らすと、女子たちが顔を青くしている。ジュスターは平気そうだが、アーノルドの頬は引きつっていた。うん、俺も引いてる。

 ティルは目をキラキラさせて、嬉しそうに串焼きを頬張っている。人数分買ったのを1人で食べる勢いだ。いや、差し出されても絶対食べないけどな。ジュスターもなぁ、平気そうな顔して入るけど食べようとは思わないだろうな。

「んっく、むぐ、……皆どうしたの?」

「いやぁ……文化の違いをまざまざと感じていたところさ。うむ、世界は広いのだね」

「常識なんてところ変われば変わるもんだな……」

「野営中に食べたことはあるが……正直、思い出したくない」

 ティルは困ったように首をかしげて、手に持った串を見下ろした。今の言葉の意味を考えているのだろう、真剣な顔つきだ。答え、お前以外は食べようと思ってないんだよ。

 いや、食用だってのは分かってる、偏見は良くない。でもなぁ、……これはねぇよ。いや、食材としてアリだってのはテレビとかで聞いたことあるよ。でも生きていた頃の姿そのままて、串焼きと目が合うんですけど。

 カエル、ヘビ、小鳥の姿焼き。いわゆるゲテモノ系屋台だった。ネズミとか昆虫系もある。これ、漫画だったらモザイクものだぞ。

 あの後、「行きたい屋台がある」と言ったティルの案内のままに連れてこられたんだが、嬉々として駆け寄っていったティルが信じられない。しかも何故人数分買った、食べさせようってか。

 特に、特に小鳥やばい。頭蓋骨の落ち窪んだ眼窩がはっきり見えるぞ、ばりばり骨噛み砕いて食べるなよ。これから野鳥をどんな目で見ればいいか分かんねぇ。

 ティルは首をかしげ、小鳥の頭を噛み砕き、飲み込んで。はっと何かに気付いたかのように串を差し出してきた。うぉお、目が合う、目が合う!

「僕だけで全部食べるのが良くない! ね?」

「いや、お前だけでキッチリ完食しろ」

 だってこれ、残したら祟られそうだぞ。

 差し出してこようとしたのをきっぱりと断ると、ティルはちょっとしゅんとした。分け合おうとしたその心遣いだけで十分だ。流石にこれには女子たちもこくこくと首を縦に振った。貴族のお嬢様にはキッツイだろう。これで幻滅しねえかな……ゲテモノを貪り食う癒し系男子、一体どこを狙ってんだ。

「……おいしいと思うのに」

「うん、美味しく食べてやってくれ。その方が食材たちにもいい供養になるだろ」

 迂闊だった。最近は普通に過ごしてたらか忘れてたけど、こいつは野生児だったっけ。マナーの堅苦しい料理は苦手だけど、こういったものまで食べるのか。会ったとき凄い……控えめにいっても汚い恰好だったしな。懐かしい味なのか。

「はー……」

 あれだけ天然でジゴロなことやったかと思えば、小鳥を貪り食うし。女の子を落としてはドン引きさせるし。ようするに常識が欠けてるんだろうけど、欠けすぎだろ。こんなんでよく今まで過ごしてこれたな。

 とりあえず、コレが終わったらきっちり常識についてレクチャーしなければならなそうだ。

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