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お前を勇者にしてみせる!  作者: 糸冬すいか
2章:ハーレム&チートスペック
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07:聖数祭と女運

 この世界では、一年は392日ある。

 1週間が7日は同じだけど、一ヶ月はきっちり4週間、それが14ヶ月で1年。最初に知ったときは驚いたけど、まぁ時間単位も地球とは全く違うから当たり前の話だ。今ではもう慣れたし。

 俺が学園に入学したのが5月、初夏だな。それから二ヶ月経った今、一年で1番盛り上がる季節がやってきた。

 7月、第一週、7日目。

 聖数祭が、始まった。

 この近辺で広く知れ渡ってる宗教、ユースナーク教では、七が聖数といわれる聖なる数字なのだそうだ。だから一年も七の倍数である14ヶ月らしい。今使ってる暦を定めたのは、ユースナーク教を信奉する皇国だからな、その関係だろ。

 そういうわけで、一年の折り返し地点でもある7月はとにかく宗教的なお祭りだの祝日だのが多い。その中でも7月の各週7日目、計四日間行われる聖数祭はとにかく凄い。いろんな国でいっせいに祝われるし、盛り上がり方も最大規模だ。あぁ、オリンピックみたいな感じかもしれない。

 そして留学生の多いここオスタリア学園都市は、毎年ド派手な祭りを行う。乱闘騒ぎは当たり前、行われるイベントの賞金も凄い額に跳ね上がるし、事件や事故も絶えない。楽しい祭りの間に何人か行方不明になる貴族の子供が、なんていうのも毎年恒例だとか。

「というわけで、俺は出来る限り引きこもってたいんだが」

「聖数祭で引きこもろうとするヤツ、初めて見たぞ……」

 部屋まで呼びに来たジュスターに引かれた。まぁ、こっちじゃ参加して当たり前の行事だからなぁ。子供の頃は親に連れて行かれたし、嫌いじゃないけど。でも面倒なんだよ、……なんか神様がしかけてきそうだし。

 ジュスターは不満なのか、む、と唇を尖らせた。祭りで騒ぐなんてキャラじゃないと思ったんだが、やっぱ子供っぽいとこもあるんだな。

「せっかくの、入学一年目の聖数祭なんだぞ? 一緒に回ろうと思ったんだが……ティルは?」

「人ごみ怖い、だそうだ。ロフトに引きこもってる」

「……この日に2人して引きこもるな。恋人かと思われるぞ」

「いやいやいや!」

 確かに、聖数祭で家に2人でいるっていうのは恋人がやるようなことだけど。クリスマスに一緒に過ごすレベルだけど。でも男同士だろうが! 俺は女の子が好きだ!

「嫌過ぎること言うんじゃねえよ……!」

「だがティルのハーレムに疑われているぞ」

「リリーアンジェとオリヴィエの視線がきついのはそのせいか!」

 疑わないでくれ! 俺は健全だ、アブノーマルじゃない!

 仕方がない、噂に勢いをつけないためにも出かけるか。とりあえず、一緒にいなけりゃいいんだ。ティルは部屋で引きこもる姿勢だし、俺はジュスターとのんびり祭りを楽しめば良い。

 部屋に戻ってカバンを用意し、ロフトでぼーっとするティルに声をかける。

「おいティル、俺は出かけることにしたから。ちゃんと留守番してるんだぞ」

「うん。あ、お土産買ってきてね」

「あー……なんか珍しい食べ物あったら買ってくるよ」

「よろしくー」

 へにゃんと笑うティルを残して、ジュスターと一緒に出かける。ティル抜きで遊びに行くのも久々だ。見張らなきゃいけないやつもいないし、今日は年相応に遊ぶか!



   +++++



「高山の雪景色のような清廉かつ厳かな白銀、そこに咲く生命の輝きを感じさせる花のような薄紅の瞳、そしておっぱ……、……やはり君は美しい、どうか僕の家に奉公に来てくれないだろうか」

「え、あ、えと……」

「何やってるんですか、アーノルド先輩」

 声をかけると同時に後頭部に勢いよく拳を打ち込む。身長差の都合上、助走して飛び上がった上での強打だ。ジュスターはさりげなく女の子の前に回ってガードしていた。くそ、オイシイ役回りを。

「ん、おお、リド君。それに君は、ジュスター君か。やぁ久しぶりだな」

「こいつ、何事もなかったかのように……」

「少々の打撃ではやられないよ、これでも優秀なオスタリア学園の生徒なのだ。祖父の七光りと言われない程度の実力はあるさ」

 にっこりと完璧な笑みを浮かべて言い放つ。そっか、第一貴族で学園長の孫、やっかみも嫌がらせも多いだろう。物理的にも精神的にも打たれ強い。んー、何だかんだ言っても、アーノルドって正統派勇者って感じだよな。

「というわけでおっぱ……お嬢さん、是非とも僕の家に……」

「言い直しても欲望は駄々漏れだからな?」

 変態で残念だけど。

 いやもう、そこさえなければ普通にモテるんじゃないか? 見た目、家柄と良いトコどりなんだし。玉の輿狙う女子とかいてもおかしくなさそうなのにな、自分でハーレムの可能性潰してやがる。

「あ、あの、……ありがとうございます」

「いや……オレは、当然のことをしただけだ。礼を言われるほどのことではない」

「ジュスターさん……」

「俺の方が年下だ、さん付けは止めてくれ」

「あの、じゃぁ……ジュスター、くん……」

 恥らうようにうつむき、頬を染めて、もじもじおずおず。うわぁまたやってるよこいつら。女の子、たしかミレーヌだったか、入学のときと同じ子だ。くっそ、俺がティルと不名誉な疑惑を噂されてる傍らこいつらは……!

「優先すべきは友情か、俺の気持ちか……とりあえず邪魔するか……?」

「君は見た目に似合わず腹黒いところがあるな、バーミトラのご子息は皆そうなのかい」

 言い返そうとして、言葉が出ない。

 家族に似ているはずなんて、絶対にあるわけないのに。

「……俺は上の兄ほどひねくれてないし、下の兄ほど腹黒くもない。つか、よく辺境の第三貴族の家族なんて知ってましたね」

「縁の出来た人間の背景を攫っておくのは、貴族として当然の嗜みだよ。ふむ、ご家族とはあまり仲がよろしくないのかな?」

「悪いわけじゃなくて、ちょっと反抗期なだけです」

 反抗期というか、家族の中で浮いているというか。兄たちとかなり年の差があるから、どうにも接しづらいんだよな。俺が転生してくるに当たって、本当なら生まれなかったはずの子供が生まれたからじゃないかと思うんだが。

 両親もなぁ、年とってから生まれた子供だからか、やたらと過保護なんだよな。昔は家から全然出してもらえなかったし。まぁ(木戸光輝)の記憶がよみがえるときにぶっ倒れたのも一因だろうけど。

 学園来てからは落ち着くかと思ったけど、手紙すごい来るし。キドとして配ってるとき微妙な気分になるんだよな。ちゃんとリドヴェルトっぽく返信してるけど、休みには帰って来いって言われてるんだよなぁ。

 あぁ、面倒だ。悪気がないだけに。

「……どうしたリド君、表情が暗いぞ?」

「いや、なんていうか……家族についてはあんまり考えたくないんですよ」

「君もいろいろあるのだね」

 アーノルドは苦笑を浮かべ、さて、と呟いて前を見据えた。

「僕は気の長いほうだから許していたが、流石に目の前で可愛い女の子といちゃつく姿を見せつけられるのは堪えるものがあると思うのだよ」

「よっし、とりあえず先輩はミレーヌの方を、俺はジュスターに特攻をかけます」

「ふむ、よく分かっているな」

 モテない男の僻みと言うなよ。正統なる憎しみの解消法だ。今後の友情のためにも、ここらで一発どついておきたい。

 ぐっと手のひらに力を入れて距離を目算し――

「ごふっ」

「きゃぁ!?」

「うわぁっ?」

 ジュスターの身体が吹っ飛んだ。うわぁトラックに跳ねられたみたいだ、超デジャブ! ジュスターの身体が勢いよくミレーヌから離れ、さっとアーノルドが肩を抱いて距離をとった。チャンスを見逃さない男だな!

 とりあえずジュスターは……、あぁ、何か大丈夫そうだな。屋台に突っ込んでいったけど、果物に埋もれたくらいですんでいる。そして足元に転がる少年を見下ろして、俺はため息をついた。

「ティル、お前、当たり屋が趣味なのか?」

「え、あ、リド。何か言った?」

 お前にぶつかられたら車の方が事故りそうだけどな。

 キドのときは体格差も予告もあったからなんとかなったけど、ジュスターは予告もなしに二人の世界に突っ込まれたからな。被害は甚大だ。ティルはきょとんと見上げて、ジュスターの惨状に目を丸くした。

「わ、ジュスト凄い。美味しそうな匂いがする」

「反応するところはそこなのか!?」

「……色が綺麗だね?」

「まずは謝れ! 俺と店に!」

 極彩色の染みを服につけて、ジュスターは勢いよく言い返した。うん、やっぱりジュスターはツッコミだ。

 あ、ちなみにジュストっていうのはジュスターの愛称だ。元が短いからティルしか呼ばないんだけどな。

 っていうかティルは愛称とか略称でしか人の名前を呼ばない。何か理由あんのかな。俺としては、あんまり長いと名前が覚えられないんじゃないかと睨んでる。魔法の呪文とか全然覚えられねーし。

「いましたわ! ティート様!」

「でかしたわオリヴィエ! ティル、逃がさないわよ!」

 案の定って言うかなんていうか、オリヴィエとリリーアンジェが追いかけてきた。最初は仲悪かったんだが、なんていうかいつの間にか仲良くなってた。停戦協定とか何とか、女子って分からん。

「つーかティル、今日は部屋に引きこもってるんじゃなかったのか?」

「……連れ出された。逃げようとしても追ってくる。怖い」

 美少女(複数)に追い掛け回されて涙目。うん、あいつらに突き出すか。ジュスターとミレーヌ見てて苛々していたところだからちょうどいい。さりげなく腕を掴んで逃亡を阻止して、追いついた美少女たちにぽいと放る。

「じゃぁなティル、ハーレムを楽しむがいい」

「う、裏切り者……!」

「どっちかって言うと、俺の方が裏切られた気分だからな」

 いや、本当に。神様みたいな美少女どっかにいないかな。ジュスターとティルばっかり美少女といちゃいちゃしやがって。神様、出会いの幸運を授けるなら異性とっていうのも欲しかった。

 泣きそうなティルを引き渡そうとするが、ぐっと袖を掴んだまま離れない。おい、やめろ。服が伸びる。あと女子の視線が痛い。

「くっそ、離せぇええ……!」

「いやだぁああ……!」

「……お前ら、そういうことしてるから妙な噂が立つんだぞ?」

 止めろジュスター、そういうこと言うんじゃねぇ。ガチで泣きそうになるだろうが。ティルも涙目だが俺も涙目だぞチクショウ。なんでこうなるんだよ!

 神様、マジでこいつよりも女の子と縁を作ってください。

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